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セーカは、僕へ攻撃してしまったと焦ったのか、静かに殺気は薄まり、少し冷静さを取り戻した様子だった。
「セーカ、お兄さんとの因縁があるのは分かってるよ。でも、僕たちも彼に聞きたいことが山程あるんだ。セーカがこの人を殺そうとするなら、まずはそれを全力で止めるよ」
僕は真面目な視線を送り、セーカを圧した。
セーカは俯いて動かなくなった。
「聞きたいこと……。私が龍族の話ですかね?」
男は、またも平然とその言葉を口に出し、僕に向き合った。僕は少し唖然としてしまった。
この男も、ルークさんに似ているのか……。
「そ、そうです……。あなたからは龍族の魔力を感じる。先日、楽園の国でルークさんから話は聞きました。異郷の旅人として、あなたたちを止める気でいます……!」
もう全てバレているのなら、恐怖心はあったが、恐る恐るも僕は本心をそのまま言葉にした。
しかし、男はまたも書類に向き直した。
「そうですか。勝手になさってください」
「え……?」
「確かに私は龍族の一味に加わっていますが、正式に言えば、加えさせられているだけですので、そんなに殺気立たないでください」
加えさせられている……?
何故……?
龍族の一味に加えさせられている人がいるなんてこと、ルークさんは言っていなかった。
龍族の長にはそう言う能力があるのか……?
「私は確かに、龍族の血を持ち、一味の長により雷龍から加護を受けましたが、彼らの目的に私は正直興味がないんですよ。私は、私の研究をしたい。その邪魔が一番嫌いだ」
平和主義でもなければ、冷徹な訳でもない。
自分のことしか眼中にないのだ。
ならセーカはどうしてここまでの殺意を抱いているんだ……?
龍族の妹、セーカとは一体……?
「も、もう一つ、セーカのことで……」
「兄妹のことに口を挟むんですか? 随分と暇なんですかね、世界の救世主様とやらは……」
溜め息混じりに、露骨に呆れた様子を浮かべる。
多分この人にとって、自分の時間を奪われることが何よりも嫌なことなんだ。
一先ず僕のすることは、セーカを止めること。
この人も龍族の一味ではあるけど、ルークさんのように戦う意志はない。
それだけ分かれば今は十分だ。
「すみません、改めさせて頂きます」
「改めて時間を取れと……? 私は多忙なもので、世間話に割いてる時間が勿体無い」
「なら、どうすれば話の機会を与えて頂けるのでしょうか……?」
男は、「ふむ……」と目を閉じると、ふと思い出したかのように僕に向き直した。
「国王から任務を言い渡されていました。多少面倒ですが、他の者では手に負えないようで。私も攻撃魔法は使えないので、発明したものでなんとか対処しようと考えていたのですが、貴方たちならば余裕かも知れません」
そして、一枚の紙を僕たちに見せ付けた。
「島の端に住んでいる悪鬼の討伐任務です」
紙には、凶悪そうな鬼のシルエットと、大きな文字で緊急任務、それから階級の様なものが書かれていた。
「この悪鬼討伐に付き合ってください。私に時間を割いて下さるのなら、私も貴方たちに時間を割きましょう。これで、イーブンの条件ではないでしょうか?」
「分かりました……。お引き受けします」
そして、翌日の正午に王城裏の城門で合流とし、僕たちは一先ず、宿泊先へと足を運んだ。
「ヤマト、龍族相手にあの挑発は危険です」
アゲルの緊張は未だ解けていない様子だった。
水の神 ラーチも「楽しそうだから着いて行くよ!」と、翌日にまた合流することとなった。
久々の宿泊先は、ホテルの様な構造で、割と安価だった為、久々に個室を取って休息することにした。
お子様のカナンは僕と同室だが。
考えることは山積みだ。
カナンは久々にはしゃいでいたせいか、ベッドに横たわるとすぐに眠ってしまった。
まあ、そのお陰で考え事は捗るな、と一息。
僕はカーテンを開け、窓の外を見遣る。
そして、窓の反射で映る人影。
「セーカ……?」
音もなく、僕たちの部屋に入って来ていたのは、セーカだった。
「ヤマト、話したいことがあるの」
「あ、あぁ、うん……」
カナンの母親探しのことも考えたかったが、目先のことを優先させようと、セーカに着いて行き、僕たちは宿泊先を出て、噴水の前のベンチに腰を下ろした。
街灯がチカチカと光り、楽園の国とは違い、居住区の広がる自由の国の夜は静寂と化していた。
そして、セーカは俯きながらも口を開く。
「ヤマト、ドレイクの言ってた異郷者って何……? 世界の救世主とか、魔法属性も沢山あるし、ゴーエンはまだしも、水の神とも親しそうにしてるし……。ヤマトって何者なの……?」
ここに来て、当然の疑問だ。
カナンには「つよ!」とか言っておけば、それ以上言及してくることはなかったが、僕と同い年くらいのセーカには通じない。
アゲルにも別に口止めはされていないけど、なんとなくあまり言わない方がいい気がしていた。
異世界の暗黙の了解みたいな……。
でも、僕はちゃんと話すことにした。
僕たちがしようとしていること、旅の目的、それから、僕自身のことを。
噴水の音だけが響く広場で、僕は声を少し抑えながら、セーカに向き合って事の全てを話した。
セーカはずっと目を丸くして話を聞いていた。
ただの旅人じゃない。
世界の救済の旅をしている僕たちに着いて来たと言う現実を目の当たりにしたのだ。
一頻り話し終えると、セーカは立ち上がった。
「喉、乾かない?」
「え? まあ、うん……」
そう言うと、「じゃじゃーん!」と、水筒を鞄から取り出し、カップまで二人分用意してくれた。
「用意周到だな……」
「違うの! これ、ゴーエンとの修行の時にね、島にグランと二人きりで残されたことがあって、その時の思い出の物なんだ。その島でしか採れない茶葉で作ってあるお茶だから、大切に飲むんだぞ!」
そう言うと、青いカップを僕に手渡した。
やけに元気で、僕は戸惑いながらも受け取った。
「龍族かー。私、なーんにも知らなかった」
「え……?」
「ヤマトとアゲルが龍族を警戒してることは理解した。だったら、私は龍族じゃないよ」
そして、悲しそうな笑みを浮かべて僕の目を見る。
「私ね、捨て子だったんだ。小さい頃にドレイクの両親に拾われて……。だから、本当は実の兄妹じゃないのよ」
「だったらなんで……ドレイクさんのことを殺そうとしているんだ……?」
「アイツは……自分の実の両親、私の育ての親を殺した張本人だからよ……!」
そして、また顔を強張らせた。
あの自分しか頭にない人が、実の両親を殺した……?
何の為に……?
理由がある……?
いや、セーカが勘違いしてる可能性も……。
セーカの復讐は止めたい、でも、ただの勘違いだとしたら、セーカの今までの努力は不毛そのものになってしまう。
しかし、青いコップを見た時に、僕の脳は、非現実的な異世界に来て様々な可能性や言動が巡った。
(私は攻撃魔法は使えないから発明で……)
(私の育ての親を殺した張本人なのよ…!)
(私は、私の邪魔をされるのが一番嫌いだ)
(雷魔法で脳に刺激を与えて音楽を聴かせている)
そんな恐ろしいことは考えたくないけど、今までの可能性を全て信用するなら、この答えしか考えられない。
自由の国 博士長 龍族の一味 雷龍の加護を受けた、セーカの血の繋がらない兄、ドレイクは……。
「自身の両親を人体実験に利用して殺した……?」
僕も口に出してみて、その恐ろしさに震える。
セーカも、そこまで辿り着いていなかったのか、恐怖心を露わにさせた様子だった。
「その通りですよ、異郷の旅人」
そして、街灯の下から薄らと、ドレイクが現れた。