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「お願い。アルベド」
こんなこと頼めるのはアルベドしかいなかった。いや、でも、アルベドにこんなこと頼んだら重荷になるとも思っていた。しかし、やはりアルベドにしか頼めなかったのだ。
アルベドは、ものすごーく嫌そうな顔をして、うーんでも、あーでもうなって、時々ちらりと私を見る。どうにか押し切れないものかと、また彼の弱いところをつつこうと考えたが、自分の汚さにひいてやめた。だが、魔力が見えない以上、ベルが言ったことを信じるには、魔法を当ててもらうしかないのだ。
ラヴァインがいたら、きっと率先してやってくれるのだろうが……
(いや、ラヴァインでも動揺するかも。大切な人に魔法を放ってって言われたら。もしそれで、人を傷つけたらって思ったら)
「ダメ?」
「俺には、わかんねえから。お前の魔力が見えねえし、お前が直感的にそうだと思っていたとしてもな。俺には簡単にできない」
「だ、だよねえ……はあ、誰か頼めないかな」
ブライトとか、フィーバス卿とか……いや、あの二人に頼んだところで、断られるがおちだとおもった。それにお父様に関しては、まだしっかり話すことができていない状態で。フィーバス卿ともしっかり向き合わなければならないと思った。魔法が使えなくなった娘のことをどう思うか。それがとても気になってしまう。出て行けなんて言われないだろうが、それでも、魔法が使えない私をどう思うかはとても……
アウローラだって、私が魔法を使えるから慕ってくれているところもあるし。それだけじゃないとは思っていても、なんとなく嫌なのだ。
「ほかの奴に頼むぐらいなら、するけどよ……」
「ほんと!?」
「めっちゃ、目、輝かせんじゃねえか!?やめろ!?まだ、他の奴にってだけで、やるとは……」
「ケチ」
「ケチじゃねえし。お前は本当に、発想が突飛すぎんだよ。もし、皇太子殿下に言われたらやんのかよ。同じこと」
「そう……えー」
「だろ!?そういう反応に何だよ。だから、察しろ」
「察しろって言葉嫌いなんですけど?」
「お前、本当にそういうところだぞ!?」
珍しく、わーわーぎゃーぎゃーいっているなあ、なんて感じながらも、私は確かにリースに同じことを頼まれてできるかといわれたら首をすぐに縦に触れないかもしれない。もしリースを傷つけたらってそこでストッパーがかかるから。でも、そうしなければならない時が来たら、私は彼に魔法を放つだろうし、彼は覚悟をもって言ってくれているのだから、それを私は肯定したいと思う。
もちろん、アルベドの言っていることが正しくないわけでもなく、どれだけ信頼関係を築いていたとしても、魔法が兵器になりえると知っているから、安易に人に魔法を向けたくないのだろう。魔法の恐ろしさや、殺傷性について十分にアルベドは理解している。私の発言が安直すぎることに、苦言を呈するのも理解できる。
(それでも、これは実験的に必要なことなんだから)
今回くらいは許してほしい。
ベルの言っていることがすべてでないことはわかっていたとしても。魔力を再度取り戻すためには必要なことなのだ。
「アルベド、本当にお願い」
「一生のお願いみたいに言うな」
「一生のお願いは今使わない。もっと大切な時に使う」
「へーへー、その時何を言われるか怖くて震え上がっちまうな。何要求されんだ、俺」
「それで、だめ?」
「はあ~~~~わかったよ。やりゃあ、いいんだろ。やりゃあ」
と、アルベドはようやく折れてくれた。
本当は折れたくないし、折れるつもりもなかった、というような顔を見て、私は申し訳なさをそれなりに感じ、ありがとうと伝えたうえで立ち上がった。
少しの魔力でもいいのか。それともそれなりの威力がないと反応しないのかわからない。私を守るといったら、少しの魔法を放たれたとしても反応してくれそうではあるが、やはり試すならアルベドの魔法をドカッと打ってほしい。
アルベドも私につられるようにして立ち上がって、その紅蓮の髪をなびかせた。髪がさらさらと揺れる。真っ赤な色が私の目の端に映って、相変わらずきれいだなと見惚れてしまった。
どうでもいいが、彼の得意魔法は風で、その髪色とは似ても似つかないなと思った。そのくせ、魔法陣は赤とか、来ている服は黒っぽいとか、色の属性がめちゃくちゃだ。だが、一貫して、暗殺者に向いているものであることは元からそうデザインされているのだろう。
(どうでもいいけどね……)
リースのまばゆい黄金や、夜を閉じ込めたようなブライト、染まり切っていないセピア色のグランツ、そしてピンクのかわいらしい双子。攻略キャラの色を思い浮かべながら、私はアルベドと距離をとる。近い位置だと、反応してくれないかもしれないから。いろんなことを考慮した結果、それがベストだと考えた。
「本当にいいのか?」
「え、怖気づいたとか?」
「煽んなよ?けっこう、これでもお前に配慮してやってんだからな?」
歯を食いしばって、ぴくぴくとこめかみを動かしながら、アルベドは本当に切れる寸前みたいな顔で私を見ていた。耐えているんだろうなとわかってしまい、笑ってはいけないし、かといって何かこれ以上言ったらまたやってくれそうにないので、私はそのまま「ごめん」といって彼の真正面に立つ。
アルベドの魔法の威力を知っているからこそ、彼と真正面に向き合うのは怖いし、やりたくないのだが、それでも、私も腹をくくったわけで、やろうと思う。
「いつでもどうぞ」
「俺のタイミングだよ!」
「はいはい。私はいつもで大丈夫だからね」
アルベドは、はあーと息を吐いて、大きく息を吸ってを何度か繰り返していた。手元が狂って失敗して私の頭をはねてしまったらどうしようとか思っているのだろうか。さすがに、そんな物騒なことを考えるのだろうか。まあいい、それもいい。
手元から離れた魔法の行方については考えたことがなかった。例えば、光の剣とかだったら、魔力を途切れさせればすぐに発動が停止できる。しかし、アルベドの放つ風魔法はそういうのが一切ない気がするのだ。手から離れたら、自分ではどうしようもないとか。ブレーキが分離した車みたいな感覚だろうか。
そんなことを思っていると、一瞬にして周りの空気が冷え固まった。冷えた、というよりかは、冷たい風が足元に、そして頬にぶつかってぶるりと体が震える。どうやら、決意が固まったらしい。
というか、思った以上に本気で魔法をぶつけるつもりだと、これは逃げたほうがいいのかと、体が拒否反応を起こしている。
大丈夫、大丈夫だといってみるが、顔を上げた瞬間、アルベドと目が合った。満月の瞳が私を射抜き、本能的にまずいと誰かが叫んだ。
しかし、その瞳から逃げることはできなかった。
後退ろうとしたが、その前に逃さないと、アルベドは手に集めた魔力を私に向かって打ち込んできた。目が本気でった。本当に殺す気なんじゃないかと思うくらい、彼の瞳から優しさは感じられない。アルベドに殺意を向けられた、彼のターゲットになった人たちは、最後にこんな景色を見ているのだろうか。なんだか、走馬灯を見ているような気がして、怖くなってきたが、私は自分の魔力を信じるしかなかった。これは、模擬訓練でもなければ、誤って魔法が飛んできたわけではない。自分が望んでここに立っている。
でも――
(怖いんですけど!?)
逃げようと体が動いたときには遅かった。目の前まで来た風の刃が私の首を刈り取らんと速度をさらに上げて向かってきた。
「――きゃあっ!?」
#恋愛