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クーパーとの出会いは、ケイトの日常を一変させた。廃棄された兵器の調査という単調な作業は、感情豊かなドローンとの交流によって、まるで彩られたかのように輝き始めた。彼女はクーパーと積極的にコミュニケーションを取ろうと努め、クーパーもまた、その期待に応えるかのように様々な反応を見せた。
そんな交流の中で、ケイトが最も驚いたのは、クーパーの「食事」だった。ある日、整備ハンガーの床に落ちていた錆びついた鉄板や使い古された鉄くずを、クーパーが何の躊躇もなく食べ始めたのだ。
ガリガリ、バリバリと、金属を咀嚼する音がガレージに響き渡る。その様子はまるで、生き物が餌を食べているかのようだった。食べられた鉄くずは、クーパーの内部で消化されているかのように、跡形もなく消えていく。
「まさか…金属を燃料にするのか?」
ケイトは自分の目を疑った。これまでの知識では考えられない現象だ。通常の機械は、専用のエネルギーパックや電力で稼働する。しかしクーパーは、廃棄物の中から自らの糧を見つけ出している。それは、このドローンが持つ、隠された能力を示唆しているかのようだった。
クーパーの特異な「食事」に驚きを隠せないケイトの目の前で、さらなる光景が繰り広げられた。ガレージの床に、彼女が整備作業中にうっかりこぼしてしまったオイルが、黒い水たまりを作っていたのだ。クーパーはそれに気づくと、まるで喉が渇いたかのように、何の躊躇もなくそのオイルに近づいていった。
そして、その黒い液体をぺろぺろと舌で舐め始めたのだ。
その仕草は、まさに本物の犬が水を飲むのと同じだった。オイルの粘り気など全く気にする様子もなく、懸命に舌を動かし、床のオイルを吸い上げていく。その度に、クーパーの内部から微かに稼働音が響いた。
「本当に…本物の犬みたいだ」
ケイトは呆然と呟いた。鉄を「食べる」だけでも衝撃だったのに、今度はオイルを「飲む」とは。その姿は、機械であるという事実を忘れさせるほどに、生き生きとしていた。クーパーは、ただのドローンではない。廃棄された場所に埋もれていた、未知の生命体とさえ思える存在だった。
クーパーが床のオイルを舐め終わると、そのままご満悦といった様子でゴロゴロと転がり始めた。まるで、存分に餌を食べて満足した本物の犬のようだ。ケイトは、その奇妙で愛らしい姿をぼんやりと眺めていた。
(昔飼っていた犬も、よくこうやってお腹を見せて転がっていたっけ…)
ふと、昔の記憶が蘇る。温かくて柔らかい毛並み、抱き上げた時のずっしりとした重み。ケイトは、クーパーを両手で抱き上げてみたい衝動に駆られた。しかし、コックピットからクーパーを引きずり出したケイトにはそれが難しいことだとはよく分かる。
すると、先ほどまで無邪気にゴロゴロしていたクーパーが、ぴたりと動きを止めたのだ。そして、そのモノアイが、ケイトをじっと見つめ返してきた。まるで、彼女の心の内を読み取ったかのように。
次の瞬間、ケイトの目の前で、クーパーの体が変形し始めた。ガシャン、ガシャンと金属が組み替わる小気味よい音が響き、見る見るうちにその犬型のフォルムが崩れていく。そして、数秒後には、そこに横たわっていたのは、カバンの形へと変形したクーパーだった。