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巨大な赤いドラゴンが倒れ伏した後、しばらくは茫然としていたオゾンも、まもなく両膝を突いてその場に崩れ落ちた。気力と体力の限界だったのである。『ドラゴンが闘士によって倒された』という風にはまったく見えない状況であるので、観客たちの中からやがて、状況をいぶかしむ声が上がり始める。
「何だ? 何が起きたんだ?」
「ドラゴンはどうした。勝手に倒れたのか? 腹を空かし過ぎたせいか?」
ちなみにもちろん、デデスト候も現場にいて観戦に臨んでいるのだが、一人ではなかった。召使を連れているとかそういったことではなく、姪を連れている。デデストの姪は、名をモニカと言う。デデストにそうまで似た外見をしているというわけではないので、知らない人には血筋には見えないが、れっきとした候家ゆかりの人間である。
「叔父上。これはどういう事態なのでしょうか?」
「ふむ。とりあえずまずは、あやつを叩き起こさなければ」
デデストはこの競技の主催者であるので、一緒になってブーイングをしたり、事態を座視したりするわけにはいかない立場である。
(テトラ。テトラよ。目を覚ませ)
テトラと呼ばれたのは闘技場内にいるあの赤い龍である。あの鎖で繋がれてデデストの脇にいた女と、この巨大な龍は同一の存在であった。もっとも、龍の姿の方が本性であって、人間の姿をしていたのはあくまでも化身であるに過ぎない。テトラの足にくくられている魔法の鎖には、二つの機能がある。まず一つは、テトラがその翼を使うことで本来可能としている『飛翔』のスキルを封じ込め、逃走できないようにすること。もう一つは、テトラとデデストを強制的な『契約』の関係にし、デデストの命令をテトラが聞かなければならないようにすることである。
(……はっ。これは)
巨龍、テトラは目を覚ました。この姿のときに人語で会話をすることはできないが、相手が契約対象者であれば念話を行うことはできる。
(何だ。何があった。なぜ突然倒れた?)
(分かりません。おそらく、何か特殊なスキルを使用されたものと思われます)
(そうか。……念のためだ。もう一度、奴のステータスを開示してみろ)
テトラはそのようにした。デデストの前に半透明のウィンドウが現れ、そこにオゾンのステータスが表示される。それを、モニカも覗き込んだ。
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■ステータス・ウィンドウ
名前:オゾン・バラーダ(原田望)
種族:人間
出身世界:地球
職業:無職
レベル:1
【基本能力値】
体力 (HP): 1/ 17
魔力 (MP): 0 /0
筋力: 7
耐久: 9
敏捷: 4
知力: 10
幸運: 2
【スキル】
ユニークスキル《ペコペコ》: 腹が減る。
備考:第一段封印解放『ハンガーノック』:触れた相手を飢餓状態にする。
《料理 Lv.1》: 初歩的な家庭料理が作れる。
【耐性一覧】
飢餓耐性
【称号】
なし
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「封印解放、ですって……! 叔父上、これは!」
「そ、そうだな。モニカよ、これはえらいことだ」
基本的に、アルティメイアにおいて『ユニークスキル』というのは珍しいものではない。この世界で生まれた人間は誰でも必ず一つユニークスキルというものを所持しているし、この世界に来訪者として訪れたほかの異世界の人間もまた同じである。必ず何かしら一つのユニークスキルを授かることになる。だが、『封印解放』を伴うユニークスキルを持つ者はこの世界でもごく稀であった。さらに。
「しかも、第一段封印解放、ということは。第二段以降の封印解放も秘められている、ということになります」
「そう考えるのが妥当だろうな……」
モニカが言うように、第一段封印解放、という表示があるということは、第二段以降の封印解放も秘められているということが強く示唆されるということである。そして、ただでさえ『封印解放』がレアなのに、二段以上のスキル封印解放を持つ者となるとさらに稀少性が高く、そのような人間はほぼ例外なく伝説的と呼ぶべき存在であるといえた。
「どうするのです、叔父上。おそらくこの者は、歴史に名を刻む英雄クラスのポテンシャルを秘めているはずです。もって、国賓としてこれを遇するべきではないでしょうか?」
「い、いや……しかし。ドラゴンを一撃で戦闘不能に陥れるクラスの、状態異常スキルの使い手、となると……」
デデストは尊大で傲慢だが、同時に臆病な人間でもあった。そしてまた愚かでもあるのだが、かといって自分がオゾンから恨みを買っている、ということに気付かないほどには鈍感ではない。デデストは深く心中に警戒の念を抱いた。
(テトラ。命令だ。その男を殺せ。踏み潰せ)
(正気か、侯。生かしておけば、利用価値があるのではないか)
(五月蠅い。お前は問い返さずともよい。言われた通りにしろ)
(やれやれ……そう言われては、やむを得んか……)
万が一、テトラが足を触れた途端にオゾンの『ハンガーノック』が再発動し、テトラが再び失神させられる事態になるとしても。テトラが踏み下ろした足がそれでどうにかなるというものではない。つまり、この手で確実に殺せる。デデストはそのように計算した。しかし、本当の計算違いが起こったのは、この後だった。
(悪く思うなよ……)
テトラが足を踏み上げた、その瞬間だった。オゾンのステータス画面の表示が、また変化した。変化があったのは、この部分だった。
【スキル】
ユニークスキル《ペコペコ》: 腹が減る。
備考:第一段封印解放『ハンガーノック』:触れた相手を飢餓状態にする。
↓
備考:第一段封印解放『ハンガーノック』:触れた相手を飢餓状態にする。
第二段封印解放『飢饉』:周囲に無差別の飢餓状態を引き起こす。
それが表示された途端。テトラはもう一度、足を振り上げたまま、今度は仰向けに卒倒した。再びの轟音。そして、オゾンのもとから放たれたスキル効果の波動が、彼らの今いる場所、すなわちザウアシュ侯国の首都ザウアシュ市全体を襲っていた。その効果範囲は巨大であった。少なくとも視界に入るような範囲内にいる者はすべて、ありとあらゆる生命体が、オゾンのユニークスキル《ペコペコ》の、第二段封印解放の作用を喰らったのである。
「あ……がっ……!」
デデストは泡を噴いて、その場に倒れ伏した。全身の細胞の栄養、エネルギー源を奪われ、その活動を強制的に停止させられたのである。これが、『飢饉』の力であった。