テラーノベル
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地震の傷が癒えるまでの数日間、自宅の空気は、これまでとは少し違う甘やかな、そして過保護な温度に包まれていた。
「ひろぱ、動いちゃダメだよ。喉が渇いたなら僕が持ってくるから」
滉斗がわずかに上体を起こそうとしただけで、元貴は飛んでくるように駆け寄る。その手には、栄養価の高い薬草を煎じた温かい茶があった。
「元貴、大袈裟だ。もう痛みも引いているし、着替えくらいは自分で……」
「ダメ! 傷口が開いたらどうするの? はい、あーんして」
かつての凛々しい国王の面影はどこへやら。元貴は滉斗の膝元に座り込み、小さな匙を口元へ運ぶ。滉斗は、かつて国最強の当主として畏怖された自分を思い出し、少しだけ顔を赤らめたが、元貴の潤んだ瞳に射抜かれると、抗うことなどできなかった。
夜、寝室に月明かりが差し込む頃になっても、元貴の心配性は収まらない。
いつもならそれぞれの部屋で眠る二人だが、怪我をしてからの元貴は、壊れ物に触れるような手つきで滉斗の無事な方の腕を抱きしめ、片時も離れようとしなかった。
「……ひろぱ、寝てる?」
「ああ、寝ようとしているところだ」
「ごめん。起こしちゃったかな。……でも、君の心臓の音がちゃんと聞こえないと、怖くて眠れなくて」
元貴は、滉斗の胸元に耳を押し当て、トクトクと刻まれる鼓動を確かめるように目を閉じる。
普段の強気な態度は影を潜め、少しだけ鼻声を震わせるその姿は、あまりにも無防備で、愛おしさに満ちていた。
「……怖がらせて悪かった。だが、俺はここにいる。どこへも行かない」
滉斗は残った方の手で、元貴の背中を優しく叩く。
それは、かつて幼い二人が王邸の最上階で交わした、あの安らかなリズムと同じだった。元貴は滉斗の体温を感じると、ようやく深い安堵の息を漏らし、その腕にすり寄る。
「僕、決めたんだ。ひろぱが治るまで、僕が君の右腕になる。だから、わがままも全部言って? ……僕に甘えてほしいんだ」
その言葉に、滉斗は小さく苦笑した。
甘えているのはどちらかと言えば元貴の方だったが、自分を必要としてくれるその献身的な愛情が、どんな薬よりも深く身体に染み渡っていくのを感じていた。
「わかった。……じゃあ、明日の朝まで、ずっとこうして隣にいてくれ」
「うん、約束だよ」
翌朝、怪我が快方に向かっていることを告げる医師に、元貴は誰よりも安堵の涙を浮かべたという。
傷が癒えるまでの時間は、二人にとって、かつての空白を埋めるための、甘くて切ない「休息」となったのである。
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