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柘榴とAI

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#没入感フィクション
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柘榴とAI

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「な、なんだか凄い一日だったね……」
「です、ね……すみません」
「いやいやいや! 白川さんが謝る事じゃないから!」
夕方、というにはまだ早い時間だけど。
あの後octopus8と一緒に、近くの飲食店へと避難した私達。
皆揃って落ち着かない様子だったのが、その後エイトを迎えに来た555が。
「もう大丈夫っすよー? 本人達も反省して、今後二人には声を掛けないって“誓って”貰いましたから。ほんじゃ、デートの続きをお楽しみ下さいなぁ~。“こっち”だけは、回収させてもらうっすねぇー?」
「あわわわわ……」
いつも通りの、というか前に謝恩会でも見た笑顔を浮かべつつ。
私達と一緒に休んでいたoctopus8と……ついでに伝票を回収して去っていったファイブ。
な、なんだったんだろう……?
というか、もしかしてあの二人もデート中だったり?
などと余計な事も考えていたりしたのだが。
とりあえず、トラブルが発生した為そこまで遊ぼうって雰囲気でも無くなってしまい。
黒沢君から、早い段階で帰路に着こうと提案を受けた。
ちょっとだけ残念に思っていれば、駅に着いた頃。
「あの、さ……迷惑じゃ無ければ、家の近くまで送って良いかな?」
「え?」
「いや、その。あんな事があったばっかりだし、俺としてはその方が安心というか。ホント、嫌だったら家の近くのコンビニまでとか、そういうのでも良いんだけど……」
いつもだったら、現地の駅でお別れしていたのだが。
今日だけは、黒沢君がそんな事を言いだした。
「でも、えと……ご迷惑になっちゃうんじゃ……」
「今だけは、さ。俺に迷惑とかそういうの、考えないで? 俺がやりたいだけって言うか、心配なだけだし。迷惑だったら……そう、言ってもらって良いから」
「そんなっ、迷惑とかは全然! むしろ嬉しいです!」
という事で、一緒の電車に乗り込んだ。
そのまま最寄り駅に着いて、黒沢君と一緒にテクテク歩く。
私の家までの道を、一緒に。
「…………」
「…………」
二人揃って、何故か黙ってしまったけど。
ちょっと気まずいと言うか、何か喋らなきゃって気はするのだが。
とても、不思議な気分だった。
私はこの道を、いつも一人で歩いていた。
学校に行く時も、どこかへ行く時も。
でも今では、隣を歩いてくれる人が居る。
もちろんお兄ちゃんとだったら、何度か一緒に歩いた事はあるけど。
そういうのじゃなくて、凄く不思議な感覚。
これまでは“こういう形”として決まっていた日常に、今だけは黒沢君が居る。
何となく相手を見上げながら歩いていると、此方の視線に気が付いたのか。
相手もこっちに視線を向けてから、ちょっとだけ困った様にニコッと微笑んでくれた。
この人は、いつもこうだ。
私に向ける視線が、いつも優しい。
他の人とは全然違う。
今みたいに、黙って歩いているだけっていう状況だったら。
昔の……というか普段のままなら、私は凄く慌てていた気がする。
けど今は、何か喋らなきゃって思ってはいるものの……自分でも驚く程、焦っていないのだ。
こうしていつもの笑顔を見せてくれる時は、これで良いのかなって。
無理しなくても良いのかなって思ってしまう様な。
凄く、安心する感覚。
だからなのか、はちょっと分からないけど。
彼の掌にソッと触れた。
「し、白川さん?」
ビクッと反応してから、驚いた声を上げられてしまったけど。
そのまま相手の手を目の前に持って来て、ギュッと両手で包み込んだ。
「痛く、無かったですか?」
「……え?」
「あの時、私の方に伸びて来た腕を掴んだ時。見ただけでも、凄く……力が入ってるって分かりました。それに凄く無表情で、冷たくて鋭い感じがして……ちょっとだけ、怖かったです」
私に影響が出そうな事柄に対して、彼が前もって阻止してくれた。
それは理解しているのだ。
咄嗟に反応出来た事だって凄いって思うし、あんなに強い言葉を黒沢君が放つ所を見た事が無かった。
意外な一面を見た、そう言えるのだろうけど。
「ご、ごめんね……怖がらせるつもりじゃなかったんだけど。白川さんに、変な奴が勝手に触ろうとしてたから……つい。ほんと、ゴメン」
ちょっとだけ申し訳なさそう、ポリポリと頬を掻きながら謝罪の言葉を零す黒沢君。
違う、そうじゃない。
私は別に、謝ってほしい訳じゃないんだ。
むしろ助けてもらったんだから、此方がお礼を言わなきゃいけないのは分かっているのだが。
「こういう時、トラブルとかから救ってもらった時。映画とかでは“格好良い”って表現になるんですけど……リアルだと、違うんですね」
「本当にゴメン! そんなに怖がらせちゃった!? 俺がもっと事前に対処出来ればよかったんだけど――」
彼の言葉に、首を横に振ってから。
ジッと彼の瞳を見上げた。
今は困った様な、ちょっとだけ悲しそうな瞳。
そういう顔を、して欲しい訳じゃないんだ。
「男らしい、みたいな表現をするのなら……多分、今日見た一面がソレだったんでしょうけど。私は……嫌だなって、ちょっと思いました。黒沢君が、怖い顔してるの。私が知ってるのは、“好きだな”って思ったのは……凄く優しく笑っている黒沢君だったので」
あの時は慌ててばかりで、思考回路が付いて行かなかったけど。
普段とは違う雰囲気の黒沢君が、何だか“クロさん”と被って見えて。
クロさんだったら確かに強いし、頼もしいのも知っている。
けど6keyと対戦した時みたいに、危ない所にも平気で突っ込んでしまいそうで。
思い出すと、ちょっと怖い。
そういう意味で黒沢君が怪我したり、傷付くんじゃないかって思うと……凄く、怖い経験をした気がする。
今回はナンバーズの皆がたまたま集まってくれたから良かったけど、もしも誰も助けてくれなかったら。
例え一人でも、無茶でも何でも戦いを挑んでしまう気がして。
「私は、情けないので。凄く弱いので……やっぱりトラブルは、怖いです。でも黒沢君が巻き込まれちゃうのは、自分の事以上に怖いなって……そんな風に、思ったので。だから、えっと……凄く強く掴んでた手が、痛くないかなって。ちょっと、心配になっちゃいまして……」
そんな訳で、彼の掌を両手で包み込んだまま足を止めてしまえば。
相手は、少しだけ沈黙した後。
「……ちょっとだけ、痛かったかも」
「や、やっぱり痛いんですか!? あの時も無理してましたか!? じゃぁ、すぐ応急処置――」
「だから、暫く手を繋いでて良い? このまま、家まで送って良い……かな? そうしてくれたら、その……痛くないから」
ちょっと言っている意味が分からず、暫くポカンとしてしまったけど。
ボッと顔が熱くなったのを感じつつ、相手の掌を掴んだまま、下に下ろした。
「ぇと……それじゃ、このまま……歩きましょう、か。黒沢君が、嫌じゃ無ければ……」
「あ、ありがと……」
そんな訳で、その後は手を繋いだまま帰路に着くのであった。
さっきよりも気まずい無言……ではないか。
物凄く恥ずかしい感じの空気になりつつ、お互いに視線を逸らしている様な状態だったけど。
でも繋いだ掌だけは放さず、そのまま歩いた。
こういうイベントは、私の人生には存在しないものなんだと思っていた。
彼氏彼女とか、それこそ結婚とか、そういう男女間の話。
ずっと遠い世界の様に感じていたのに。
今だけは、私の中の常識など蹴飛ばす勢いで……ドキドキしているのが分かるのだ。
こういう感情が、私の中から出て来るなんて予想外だ。
私にとっての“好き嫌い”みたいなのは、どこまでも“好み”に近いモノだった気がする。
前にsevenに言われて自覚したけど、多分判断基準をそこに留めているんだと思う。
でも今だけは、その枠組みじゃないって自分でも分かる。
もっと違うベクトルの感情が、黒沢君にだけ働いている。
きっとコレが、他の人が表現する“そういう感情”なのだろう。
私は……この人が、好きだ。
依存やメリットデメリットの感情なんじゃないかって、どこかで自分を疑っていたのに。
こうして手を繋いで歩いただけで、自然と答えが出た。
私は、黒沢君が“好き”。
何の理由も無くて、価値がどうとか立場がどうとかみたいなモノも全部度外視して。
この人の隣に居たい、もっと一緒に居たい。
もっともっと知りたいし、今みたいに触れて欲しいと思っている気がする。
初めての感情を自覚して、頭はパニックになりそうになっているというのに。
胸の中は、とても温かった。
ドキドキ煩い胸と反比例するみたいに、一つの感情だけがどんどん明確になっていく。
否定しようがない程に、ソレだけが確たる存在として全身に広がっていくみたいに。
今繋いでいる掌を、ずっと放したくないって、馬鹿みたいな事考えてる。
あぁ、相変わらず駄目だなぁ私……。
何かが起こらないと、環境に変化が無いと自分の変化も自覚出来ないんだから。
今日はちょっと嫌な事があったというのに、そんなのどうでも良くなるくらいに。
「多分、ずっと前から……」
「え?」
「な、何でもないです……」
小さく呟きながらも、もう少しだけ繋いだ掌にキュッと力を入れるのであった。
好きって、こういう感情なんだ。
コメント
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ああ……この話、すごく好きです🥀 白川さんが自分の感情をちゃんと「好き」って認める瞬間、じんわり来ました。ずっと誰かにとっての“メリット”とか“依存”とか、そういう言葉で自分を測ってたのに、ただ手を繋いで歩いただけで答えが出たっていうの、すごく綺麗で切なかったです。 そして黒沢君の「ちょっと痛かったかも」からの繋いでてほしいって台詞、ずるいですね……優しさの中に甘えがあって、たまらないです。日常の中に少しずつ溶け込んでいく二人の距離感、本当に丁寧に描かれてて、読んでて胸が温かくなりました🌙