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この城に来た時に使っている俺の部屋は、王城の俺の部屋と変わらない広さだ。

俺は第二王子だ。俺の部屋は、父上の部屋ほど豪華ではないが、第一王子の兄上と同じくらいの広さと質の良い家具や調度品を置いてある。

ラシェット伯父上は地方の領主だから、王城ほど財産があるわけではない。だけど息子のように可愛がっている俺には、惜しみなく金を使おうとする。

久しぶりに訪れた俺の部屋が、さらに豪華になっているのを見て、俺は息を吐いた。

「伯父上、部屋がキラキラしてないか?」

「お、気づいたか!燭台とベッドの飾りを銀から金に変えてみたのだ。おまえの髪と同じで眩しいだろう?」

「せっかくだが…俺は銀の方が好きだ」

「ええっ?以前はそんなこと言ってなかったじゃないか…」

「最近好きになったんだよ。昔から言ってるけど、俺のために金を使わなくていい」

「そんなことを言わないでくれ、リアム…」

四十半ばを過ぎた伯父上は、まだまだ凛々しくて立派だ。俺と並ぶくらいの身長もある。そんな伯父上がシュンと項垂れている姿を見ると、すごく悪いことをした気持ちになってしまう。

俺は長椅子に並んで座っている伯父上の肩に手を乗せると「伯父上にはいつも感謝してるよ」と顔をのぞきこんだ。

伯父上がこちらに顔を向ける。

俺と同じ紫の瞳に俺の顔が映る。

伯父上と母上は、栗毛に紫の瞳で顔立ちも美しく、バイロン国の宝石と噂されていたそうだ。

父上がデネス国からの帰りにこの城に寄ったのも、たまたまではなく噂されている母上を見るために、わざと寄ったのだと伯父上は話していた。

直接父上から聞いたことがないから、真相はわからない。だが母上を見た父上は、一瞬で心を奪われ、必ず幸せにすると伯父上やまだ健在だった俺の祖父母に約束をして、母上を王城に連れ帰った。

確かに父上は母上を大切にしていた。母上も父上の前ではいつも笑顔だった。だが王城など憎悪が渦巻く恐ろしい所だ。父上の知らないところで、母上には辛いことがあったに違いない。

俺は、隠れて涙を流す母上を何度か見たことがある。あれは…。

「どうした?」

「…いや、伯父上を見ていたら母上のことをつい思い出して」

「そんなに俺と似ているか?歳も離れてるしアリスは美しかったぞ。どちらかと言うと俺よりもおまえの方が似ている」

「顔はそうかもしれないけど、髪色が違うから」

「おまえの金髪は王族の証だからな。腹の立つことだが王も輝く金髪の美青年だった。アリスが惹かれたのも無理はない。ところで王はご健勝か?」

「さあ?ここ数ヶ月はまともに顔を合わせてない」

「ふむ…、王城でのおまえの立場に問題があるなら俺が出向いてやるが?」

「大丈夫だって。俺は目立たないように上手くやってるから。でも父上よりは兄上の方が気を使わなくていいよな。あーあ、イヴァル帝国みたいにバイロンも早く王の世代交代をしてくれないかなぁ」

「なに?イヴァル帝国では王が代わったのか?」

「あ」

俺は、しまったと手で口を塞ぐ。

伯父上の少し薄い紫の瞳が、俺をジッと見てくる。

フィーのことは、イヴァル帝国では隠されている。そのことを話していいものだろうか。でも俺は、フィーと出会ってからのことを伯父上に話したい。伯父上には俺の大切な人のことを知ってもらいたいと思い、俺は背筋を伸ばして座り直した。

「伯父上、まだ地方の領主にまでは報せがいってな…」

「リアム様、よろしいですか?」

俺が口を開いたと同時に、扉を叩く音と声がした。

緊張で固まっていた身体の力が一気に抜けてしまい、俺は椅子の背にもたれて「入れ」と言う。

「失礼します」

声の後に扉が開き、ゼノともう一人の男が入ってきた。その男を見て、俺は身体を起こす。

「ジルじゃないか。久しぶりだな」

「リアム様、お元気そうでなによりです。旅をされていたそうですね。ぜひ旅先の話を聞かせて頂きたい」

「いいぞ。酒を飲みながらいつでも話してやる」

「ぜひに」

俺の前に来て、片膝をつきながら目を細めるこの男は、ジルという。伯父上の忠実な部下だ。

ゼノと歳が同じで賢くて腕が立つ。俺の側近に欲しいくらいだが、伯父上を主として慕っている。伯父上のためなら、命を差し出すことも|厭いとわないそうだ。

その話を聞いた時に隣にいたゼノを見ると「もちろん俺もリアム様のためなら火の中水の中も飛び込みますし、身体をはってお守りしますよ」と笑いながら言っていた。

もしも俺が危険な目にあったら、ゼノは本当に命を賭けて守ってくれるだろう。主従というよりは友のような関係のゼノだが、俺のことを第一に考えてくれている。

それはあいつも同じか。フィーの側近のラズール。だがあいつの気持ちは主従の枠を越えている。まさかフィーに何かをするとは思えないが、心配だ。

「リアム、疲れてるのじゃないか。話は後にして休んだらどうだ?」

またもや考えごとをして動かなくなった俺を、伯父上が心配そうに見ている。

ジルも「そうですね」と頷いて、立ち上がろうとする。

俺は慌てて「大丈夫だ!」と大きな声を出して止めた。

「ところでゼノとジル、何か用があったのじゃないか?」

ゼノがチラリと伯父上を見て、口を開く。

「はい。ジルと少し遠出をしたいのですが。ラシェット様、よろしいでしょうか?」

「いいぞ。どこへでも好きな所へ行ってきなさい」

「ありがとうございます」

「待て。遠出をするなら俺も行きたい」

俺は急いで立ち上がり、棚の中にかけてあるマントを取りに行こうとした。

しかしゼノが俺の前に立ち塞がり邪魔をする。

「リアム様は、ここでラシェット様と待っていてください」

「なぜだ」

「遊びに行くのではないのですよ。少し気になる話を聞いたものですから…。これは調査です。帰ってきたらお話します」

「なおさら気になる。俺も行きたい」

「おや、まるで駄々っ子のようですね。そのような姿をあの方に見られ…」

「わっ、わかった!待ってるから早く行け!」

「ふふ、それでは行ってまいります。リアム様はラシェット様に話さなければならないことがありますよね?」

「わかってる…」

ゼノには俺の心の中が全てお見通しだ。

「明日の昼には戻ってきます」と言って、ゼノとジルは出ていった。

俺は再び伯父上の隣に腰を下ろしてブツブツと言う。

「朝になってから行けばいいのに」

「夜の方が移動が目立たんからな。リアム、そろそろ食事にしよう。その後で、先ほどのイヴァル帝国の話を聞かせてくれんか?それに他にも話があるようだな」

「…うん、わかったよ」

ゼノも話した方がいいと思っている。

俺が頷くのを見て、伯父上は目を細めた。

銀の王子は金の王子の隣で輝く

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