出水目線学校帰り、寄り道したコンビニの袋を片手に、今日もナマエの家の前に立つ。
(また……怒られるかもしれないな)
そう思いながらも、足は止まらなかった。
中へ通してくれたナマエの母は、前より少しだけ安心した顔をしていた。
でも、「今日も何も食べていないのよ」という言葉に、出水は思わず視線を伏せた。
2階へ上がり、廊下を進む。
昨日も立った、あのドアの前。
「……ナマエ」
コンコン。軽くノックする。返事はない。
(……まあ、わかってたけど)
勝手にドアを開ける。
中は、やっぱり薄暗いまま。
ベッドの上で毛布にくるまり、横向きになっているナマエの姿。
背中を向けたまま、反応はない。
出水はそっとコンビニ袋を机の上に置き、そのままベッドのそばへしゃがんだ。
「お腹、空いてない?」
「……」
「ご飯買ってきた。サラダもあるし、味噌汁も。……あと、これも」
そう言って、キャラメルを差し出す。
ナマエの好きな、あの甘いやつ。
その瞬間、ナマエが振り向く。
『……いらない!!!』
「そっか。……ごめん」
謝って、立ち上がる。
もう今日は帰るべきかな、と思っていた。
けれど、そのとき。
――ぐぅぅ……
小さく、でも確かに鳴った。
ナマエの、腹の音だった。
「……」
空気が止まる。
ナマエは目を見開いて、頬を赤くし、すぐに背を向けた。
けど、もう遅い。完全にバレてる。
「……腹減ってんじゃん」
出水が苦笑しながら言うと、毛布の中から、ナマエの低い声。
『……うるさい』
それでも。
次の瞬間、ナマエはゆっくりと体を起こした。
ベッドからもぞもぞと出てきて、少しぼさぼさの髪のまま座る。
『……食べていいの?』
「もちろん」
『……味噌汁、ぬるくなってない?』
「大丈夫、ちょっと熱めの買ったから」
そんな他愛ない会話が、二人の間に戻ってくる。
テーブルの上に広げたお弁当を、ナマエがもそもそと食べ始める。
少しずつ。ほんの少しずつ。
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