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海の紅月くらげさん
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第6話
「ただいま……っ……」
そう言って僕は怪我をしていない方の腕で扉を開けた。
「おかえりな……って! 酷い怪我……」
そう言ってアニカ姫が僕の方へ小走りできた。
「んん……あれ? どうしたの? その怪我」
ソフィーも掃除の手を止めて僕の方へ来た。
さっきも目眩はしたけど、毒が回ってきたのか目眩がさらに酷くなってきた。それに、頭も痛くなってきた。
うぅっ……苦しい……
「大丈夫ですか?」
アニカ姫が僕の事を支えながら椅子に座らせてくれた。
手足も痺れてきて息苦しくなってきた気がする。
キツイ……あれは、普通のシルバータイガーよりかなり強いはず……毒も普通はもっと弱いはずなのに……
何であんなやつがこんなところに……?
「ちょっとじっとしてて」
ソフィーは小さな魔法石で僕の傷を途中まで癒した。毒も少し抜けた気がする。
でも、魔法石の透明感が無くなっていた。もう、そうなった魔法石は使い物にならない。
「う〜ん……これ以上の魔法石が無いんだよね……」
「じゃあ、私に治させてください」
そう言って胸を張るアニカ姫がぼんやりと見える。
「使えるの? 使えるならお願いしたいけど……くれぐれも無理はしないで」
アニカ姫は頷いてから僕に向かって手をかざした。
すると、体が軽くなって毒が抜けた感じがしたし、傷も痛まなくなった気がした。
「ふぅ〜……気分はどうですか?」
僕はアニカ姫を見ながら頷いた。
「良かった……真っ青で帰って来たから何かと思ったよ」
ソフィーも僕の手を握っている。
ごめん……だけど、ソフィーを巻き込むわけにはいけないんだよね……
僕が立ち上がろうとするとアニカ姫が「少し安静にしていた方がいいと思います。あの毒は普通では無い魔物の毒じゃないです」と布団をかけられた。
僕は言葉に甘えて少しだけ休む事にした。
次の日の朝。僕は朝日を浴びて背伸びした。
少しだけと言いながら一晩任せてしまった。僕の事も寝室まで運んでくれたみたいだし。
「おはようございます。お体はもう大丈夫なのですか?」
そう言うアニカ姫の声が聞こえた。
僕は笑顔で頷いた。
「相変わらず朝早いですね。私は今日中には出ていきます」
……あの事、今日中に言った方がいいよね……
「あ、あの……」
僕が言いにくそうにしているとアニカ姫は温かい目で見守ってくれる。
「……出ていった理由、聞いたんですよ。あの時、不快というか、嫌なというか……」
僕はしどろもどろになりながらアニカ姫に聞いた。
「大丈夫ですよ。というか、嬉しかったです。心細かった私にその一言はとても響きました」
そう言ってアニカ姫は僕に向かって微笑んだ。
え……?
お世辞でも、嬉しいな……
「ふふっ。まさかそんな心配をしてたなんて」
そうアニカ姫はおかしそうに笑った。
ん? どういう事? まさかそんな心配?
僕の頭の上に疑問符が沢山見えたのかアニカ姫は「意外だったんです。貴方がそんな事を気にする人だったなんて」と微笑んでいる。
意外だったんだ……そういう所しか気にならないのに……いや、それは嘘だけど、僕はそこばかり気にするような気がする。
「お互い知らないといけない事だらけですね」
「うん」
「あと、こんなにかた苦しくならなくても良いんじゃないかなって思うんですけど……気のせいですか?」
アニカ姫はそう言って視線を下に向けながら首を傾けた。
確かに……言われてみれば、これから長い付き合いになるだろうし、いつまでもこんな喋り方だとアニカ姫も窮屈なのかも……
それに、知らないといけない事はこういう所からだし……
でも、姫様となる人に向かって……いや、今更か。
もう一つ屋根の下で夜をこしてるんだし……今となって考えれば不本意な感じだけど……
僕は少し考えてから笑顔で頷いた。それにアニカ姫も笑顔で頷き返した。
「えっと……じゃあ、これからもよろしく。ロルフ」
「は……う、うん」
僕たちは軽い足取りで王城まで向かった。ソフィーにはいつも通りの留守番を頼んで、アニカ姫は僕の後ろについてもらった。
夜じゃないと危険な魔物は出ないので今回は何事も無く進めた。
「アニカ姫!」「心配したんですよ!」「アニカ姫がおかえりになった!」「怪我はありませんか?」
そう言う聖騎士がこっちへ走ってきた。
それから、色々とあったみたいだけど無事にホルム王とも上手く挨拶を言えたらしい。
良かった……
「ロルフ。何から何までありがとう」
「い……うぅん。アニカこそ、色々と迷惑かけちゃった……ごめん」
……こんな感じに話すの慣れないや……うん。難しい……
「私は、これからどうなるか分からないけど、ソフィーにもよろしく伝えといて。いい感じにあの事は誤魔化すから大丈夫」
そう言ってアニカ姫は自室へ向かった。
うん。人付き合いって難しい。
僕は無駄に力んでいた力を抜いて苦笑した。