コユキとデスティニーの二人がフロアに上がって待っていると、動物の登場より先にグラシャラボロスが注文したケーキとドリンクを持って現れる。
コユキは溜息混じりに言った。
「アンタねぇー、テンデなってないじゃないのよー! こういうコンセプトのお店って注文待っている間とかに可愛い動物を愛でてなんぼじゃないのん? こりゃ早めに閉店した方が良いかもね、傷が深くならない内にさ」
デスティニーは意見が違ったようだ。
「いやいや、そこら辺はこれから慣れていけるんじゃね? 何より今こう言った飲食店の賃貸は条件とか家賃とか底打ってるからさ、アフターコロナのスタートダッシュを見据えるんなら、今頑張って踏ん張るってーのもあながち悪い選択とは言い切れないんじゃね?」
「そうかしら? 時流の流れを見れば確かにそう言えるかもしれないけどさっ! タイミングとか追い風なんかの漠とした物よりももっと基本的な部分だと思うのよ、だってお客さん商売をするのにユーザが何を求めて来店するのか? それって店側が絶対忘れちゃいけない所でしょ? 動物カフェって言って置いて動物いないとか、商売のテクニック以前の話じゃないの? 人としての、ううん、悪魔や神々を含めても一番担保しなくちゃいけない最低限の礼儀だと思うわ! 経験が足りない云々じゃなくて舐めてんのよ、アスタの馬鹿が」
「それは確かにそうかもしれない…… だったら、単純にスイーツの店に転換するのはどうかな? 見た通り注文したケーキとドリンクは僅かな時間で出て来たじゃんか? グラシャラボロスだっけ、この悪魔の接客態度だって礼儀正しかったし、ほら、今、目を剥いて驚いてんじゃん! このズコットの味、超旨いじゃん? ヤバクね? 全部を否定したりしないでさぁ、良い所を伸ばしてみるのも一案じゃね? どう?」
「うーん、デスティニーさんは知らないのかもだけどアスタって本当に脳筋なのよー、部下は皆出来る子達っぽいんだけどねー、アスタの気紛れでこの子達が振り回されてるのが、アタシ個人的にも気に喰わないだけかもしれないけど――――」
「コユキ様! お待たせしまして大変失礼しました! お待ちかねの動物たちの登場ですよ♪」
「「やっと来たか、ブホッ!」」
白熱した議論を繰り広げていた二人はフロアに入って来た二体の動物(?)を見て盛大に噴き出すのであった。
紫一色のフロアの広範囲に口に含んでいたズコットケーキが拡散され、感染症対策的には最悪の状況となってしまっていた。
その上コユキは飛沫を撒き散らせて更なる感染の危機を招きながら叫んだのである。
「な、何よコレ! キメラ? 化け物じゃないのよぉ!」
「「しゅん」」
コユキの言葉に分かり易い表現で落ち込む二体の姿は化け物と言うよりも、お馴染みの悪魔の物であった。
一体は巨大なライオンの体にガチョウの頭と足を持った姿であり、もう一体は巨大なカラスの体に三個の犬の頭が付いていた。
こう言えば幸福寺にいる口白のセパレートバージョンのクロ、ケルベロスを想像するかもしれないが全然違う。
三個の頭はまったく別個の犬種、セントバーナード、アイリッシュセッター、オールドイングリッシュシープドッグの物であり、中央のスラッとした赤毛の首が全体のバランス的にキメラっぽくさせていたのだった。
獅子ガチョウに至っては一々説明する必要は無いだろう。
「しゅんって、話せるって事はまさかアンタ等…… 悪魔なのね…… って事は若(も)しかして」
カラス犬が言った。
「ぐすっ、お久しぶりですコユキ様、醜いキメラのナベロスです」
獅子ガチョウが続いた。
「アイペロスです、化け物じみててすみません…… ぐすっ」
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