テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
私たち3人は、ビルの裏口から入った。
サン「クラウン幹部。今、目的地ビルの中に入ることに成功しました」
クラ『よくやったわ。目的の資料は6階の会議室の机の引き出しの中にある』
クラ『だけど、見張りもいるだろうし、机の引き出しの鍵が必要なのよ』
サン「その鍵はどこに…?」
クラ『8階、サーバールームよ』
サン「8階…」
クラ『当然、エレベーターを使うのは危険すぎるから、外階段を使ってもらうつもりなんだけど…大丈夫かしら?』
私は、エルドラとマルヴァンの顔を見た。
2人は、強く頷く。
サン「大丈夫です」
クラ『ありがとう。周りに気をつけて。必要だったら戦闘も許可する』
サン「了解」
外階段は、錆びた鉄の匂いがした。
一段踏みしめるたび、ぎぃ…と小さく軋む。
サン(音立てすぎかも)
私は手で合図を出す。
エルドラとマルヴァンは、すぐに歩幅と重心を合わせてきた。
わ、さすが。
後輩だけど優秀。
サン「…7階通過」
囁くように言うと、マルヴァンが周囲を確認しながら頷いた。
マル「見張り、今のところ見当たりません」
サン「油断しないで」
私はそう言って、8階の踊り場で足を止める。
___気配。
はっきりと、人の気配がある。
サン「……二人とも、止まって」
私は壁に背をつけ、耳を澄ます。
向こう側、サーバールームの前。
足音は一人分。
重心が低い。
歩き方が、慣れている。
サン(下っ端じゃない)
サン「エルドラ、右。マルヴァン、左」
小さく指示を出すと、二人は音もなく散開した。
私は、短剣を逆手に持つ。
サン(……来る)
ドアが、きい、とわずかに開いた。
出てきたのは___
黒服の男。
瞬間、視線が合った。
私は一気に距離を詰め、男の腕を払って体勢を崩す。
マルヴァンが背後から関節を極め、エルドラが口を塞いだ。
エル「……静かに」
数秒後、男は床に沈んだ。
エル「あ、鍵持ってます」
エルドラが、男のポケットからカードキーを抜き取る。
サン「よし、」
クラ『どう?』
無線越しに、クラウンの声。
サン「8階の見張り一名、無力化しました。鍵、確保」
クラ『上出来ね。急いで6階へ』
私たちは階段を下り、6階へ向かう。
会議室は、静まり返っていた。
長机、椅子、ホワイトボード。
そして___例の引き出し。
マルヴァンが鍵を差し込む。
中から、分厚いファイルと、USB。
サン「……これだ」
クラ『確認できたわ。その資料があれば、敵組織の流通経路が分かる』
サン「回収します」
私はファイルをバッグに入れ、周囲を見回した。
…そのとき。
(……?)
空気が変わった。
マル「先輩、」
マルヴァンは警戒した表情で言う。
サン「静かに、!」
私は、人差し指を唇に押し当てた。
私たちは、机の裏側に身を隠す。
すると、1人の男が会議室の扉を静かに開けた。銃口を中に向けられている。
いや、1人じゃない。男は少なくとも5人はいた。
モブ「居るんだろ?」
別の男は言った。
5人以上の男たちは、銃口をこちらに向けながら慎重に入ってきた。
私たちは、息を殺していた。
互いに一瞬目を合わせる。
モブ「…どうしますか?ノワールさん」
___え
私は目を見開いた。今、あいつ、「ノワール」と言った…?
他の2人も、動揺した顔をしていた。
男の手には無線機があった。
会議室の中は、一瞬静まり返った。
ノワ『殺せ』
無線機越しの、ノワールの短い声。
その瞬間、男らは机に飛び乗った。
サン「今だ!!」
私は叫んだ。
3人で机の陰から飛び出し、窓を突き破って出た。
外には階段。
私たちは、その階段に飛び乗り、急いで駆け下りる。
私は、向かいのビルを見た。
銃を持った男が構えている。
もう、発砲寸前だ。
サン「頭を低くしなさい!足は止めないで!」
私は2人に言う。
2人とも、姿勢を低くした。
その途端、発砲が始まった。
頭の上を、銃弾が横切る。
エル「うっ…!!」
エルドラがバランスを崩した。
見ると、エルドラの左肩に弾が命中していた。
マル「エルドラ!」
マルヴァンは叫んだ。
サン「マルヴァン!今はエルドラの心配をしないで!振り返らないで進んで!」
マル「だけど…!」
サン「生きて帰るんでしょ!!」
私は振り返らなかった。マルヴァンも、観念したように前に走り続ける。
3階まで下ってきた。
サン「一気に飛び降りるよ!」
私とマルヴァンは、3階から1階へ飛び降りて、そのままビルの裏側へ回った。
エルドラは、来なかった。
遠くから、4階辺りでエルドラが倒れているのが見える。
頭含む数カ所を撃たれていた。
マル「あともう少しで、エルドラも生きて帰れたのに……」
マルヴァンは、俯いて言った。
私は、無線機を取り出した。
サン「こちらサントラー。目的の資料は回収しました。尚、任務中にエルドラが死亡。生き残ったのは私とマルヴァンの2人です」
クラ『…分かった。ありがとう、頑張ったわね』
サン「…悔しいです。“殺せ”と、ノワールが手下に指示をしていました。…許せないです」
クラ『…そうだったの。有益な情報を、どうもありがとう』
マルヴァンは、何も言わずに椅子に座り込んだ。
肩が、小さく震えている。
サン「……マルヴァン」
声をかけても、彼は顔を上げなかった。
マル「俺が…もっと早く気づいていればこんなことには…」
サン「違う」
私は即座に否定する。
サン「振り返るなと言ったのは私。あなたのせいじゃないから」
サン「あれは…詰んでたよ」
マル「…でも」
クラ『サントラー。追っ手が近づいてる可能性が高いわ。2人で撤退して。回収班もそっちに向かってるから』
サン「了解…」
エル「サントラー先輩!」
元気に私を呼ぶエルドラの笑顔が、頭に浮かぶ。
回収班に引き渡し、マルヴァンと別れたのは、夜が完全に深くなってからだった。
彼は最後まで、何も言わなかった。
私も、何も言えなかった。
エルドラの死を、どう言葉にすればいいのか、分からなかったから。
(……また、守れなかった)
仮拠点Bを離れ、帰路につく。
ヘルメットの中で、息が白くなる。
『殺せ』
たったその一言で、あの子は死んだ。
短くて、冷たくて、命を切り捨てる音。
人の命を駒としか見ていない、吐き捨てるような一切の感情も躊躇もない言葉。
私は、拳を強く握りしめた。
きっとノワールは、明日も学校に来る。何食わぬ顔で、誰かと話して、笑ってる。
そのギャップの温度差に、クラクラする。
(……人の命を、何だと思ってるの)
___いや。
(私も、同じか)
人を殺してきた。
命を奪ってきた。
正義ぶる資格なんてない。
それでも。
(それでも…)
エルドラは、任務が終わったら甘い物が食べたいって言ってた。
次はもっと難しい仕事を任せてくださいって、笑ってた。
駒なんかじゃ、なかった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!