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目覚ましが鳴る前に、目が覚めた。
くまのぬいぐるみを抱きかかえたまま、ベッドに横たわっていた。
ベッドから起き上がり、制服に袖を通す。
シャツのボタンを留める指が、ほんの少し震えた。
🍫(……行かなきゃ)
学校に行かない、という選択肢はない。
それは逃げになると思った。
校門が見えてくる。
昨日と同じ朝。
昨日と同じ生徒たち。
❄「🍫ちゃんおはよー! なんか今日元気なくない?大丈夫??」
🍫「…ちょっと寝不足なだけだよ、ありがとう」
嘘じゃない。
🍪「二人ともおはよう!」
🍪さんが笑顔で手を振る。
その笑顔が、胸に刺さる。
🍫(絶対に、戦場に立たせない)
教室に入る。
私は、席に着き、前を見る。
誰かが、
いつもと同じ姿で、いつもと同じようにそこに座っている。
でも。
🍫(昨夜、私の大切な人を殺した側の人間が)
(この教室に、いる)
心の奥で、何かが静かに切り替わった。
🍫(もう、迷わない)
疑いたくない。
失いたくない。
それでも。
🍫(__見つけてやるから)
(昼の顔のままでもいい)
始業のチャイムが鳴る。
静かな日常の皮を被った、狩りが始まった。
私は、ずっと神経を尖らせていた。
誰だ。
誰だ、誰だ。
探るように、みんなの背中を見てしまう。
🐑「🍫さん…」
🐑「大丈夫?最近、様子変だし。今だって、顔色悪いよ」
私は、「もしかしたら、🐑くんなんじゃないか」という考えが一瞬よぎってしまった。
🍫「大丈夫だよ。ありがとう」
🐑「昨日、酷い顔をして、夜歩いてるのを見た」
🐑くんは、「腑に落ちない」という顔で言う。
🍫「え…」
「なんで、それを知ってるの?」
私は思わず聞き返してしまう。
🐑「昨日…たまたま塾の帰りで、🍫さんを見たんだよね」
私には、これは本心なのか、分からなかった。
🐑「だから、やっぱり何かあったんじゃないかなって思って」
鋭かった。
🍫「…ううん、大丈夫だよ。本当に。私は、平気だから」
私は笑顔を作って言った。
🐑「……そっかあ」
🐑くんは、それ以上踏み込んでこなかった。
でも、納得していないのは、分かった。
🐑くんは、違う…と、思いたい。
🐑くんは、優しくて、真面目で、クラスの中でだって王子様みたいな存在で…
誰かを駒みたいに扱う人間には、見えない。
でも、見えないだけ、かもしれない…。
授業は進んでいるのに、内容が頭に入ってこなかった。
昼休みのチャイムが鳴る。
一気に騒がしくなる教室。
椅子が引かれ、笑い声が広がる。
🍪「🍫さん!お昼一緒に食べよ!」
🍫「…うん」
私は立ち上がりながら、もう一度だけ、教室を見渡した。
昨夜、後輩を失った。
今日、真実に近づいた。
__次に何かが起きたら、私は、
「普通の高校生」の仮面を、捨てる覚悟がある。
その覚悟だけが、
私を、かろうじて立たせていた。
昼休み、お弁当を食べ終わった後、私は例のトイレの個室に行った。
クラウン幹部に、捜査の協力をしてもらうためだ。
🍫「…クラウン幹部、サントラーです」
クラ『あら?今は学校の時間じゃないの?』
🍫「すみません、そうなんですけど…居ても立っても居られなくて」
「あの…私の友達に、🐑くんって人が居るんですけど、🐑くんの経歴とか、調べてもらえないでしょうか…」
クラ『…良いわよ。できる限り手は尽くすわ。だけど、あなたは確信してるの?』
私は、一瞬躊躇った。
🍫「…いいえ。確信とまでは、」
「でも、昨日、私が夜の街を歩いているのを見たと本人が言ってて」
「その…それがどういう意味なのか、はっきりさせたくて」
自分でも、言っていることがまとまらない。それでも、クラウン幹部は納得したように言った。
クラ『分かった。🐑という人物ついて調べてみるわ。あなたも、気をつけて』
『難しいお願いだとは承知の上で……あまり感情的にはならないようにね』
🍫「…はい、分かりました。ありがとうございます」
無線を切ったあとも、私はしばらく個室から動けなかった。
換気扇の低い音だけが、やけに大きく聞こえる。
🍫(感情的になるな、か……)
分かってる。
分かってるけど。
相手が友達だったら、どうやって冷静でいろって言うの__?
深く息を吸って、ゆっくり吐く。
鏡の前に立つと、そこには少しだけ強張った顔の私がいた。
🍫「大丈夫…私は普通の高校生なんだから」
自分に言い聞かせて、トイレを出る。
廊下は昼休み特有のざわつきに満ちていた。
笑い声、足音、売店の袋を抱えた生徒。
🐑「🍫さん」
ヒロくんが、さっきよりも静かな声で呼んだ。
🐑「さっき、いなかったよね。大丈夫?🍪さんたちが探してたよ」
心臓が、嫌な音を立てる。
🍫「そうだったんだ、大丈夫だよ。教えてくれてありがとう!」
私は、視線を逸らさずに答えた。
逃げたら、負けな気がしたから。
🍪「あ、🍫さんいた!」
🍪さんが駆け寄ってきて、同時に❄も顔を見せた。
(……🍪さんが探してたっていうのは、本当だった。でも、分からないな…)
その分からなさが、一番怖い。
【放課後】
無線機が、一度だけ短く震えた。
私は、誰にも見られないように、指でスイッチを押した。
クラ『サントラー』
クラウン幹部の声。
昼間なのに、背筋が冷える。
🍫「はい」
クラ『ヒロという人物について、予備的な情報が出たわ』
喉が、ひくりと鳴る。
クラ『表向きは、問題なし。成績、生活態度、家庭環境もクリーン』
『そして、夜の間塾に行っていたというのも、本当のようね』
『ヒロという人物は、ノワールではない可能性の方が高いように見えるわ』
私は、肩の力が抜けていくのを感じた。
本当は、「ノワールじゃない」という報告を心から待ち望んでいたことに、疑いたくないと思っていたことに、今気がついた。
クラ『――ただし』
クラウン幹部のその一言で、緩んだ神経が一気に張り詰めた。
🍫「……ただし?」
クラ『完璧すぎるのよ』
その言葉は、静かだったけれど、鋭かった。
クラ『記録が綺麗すぎる。穴がない。まるで「調べられること」を前提に整えられたみたいにね』
胸の奥が、嫌な音を立てる。
🍫「……それって……」
クラ『断定はしないわ。現時点では、🐑さん本人がノワールであるという可能性は低い』
『でも__ノワールに近い位置にいる可能性は、否定できない』
無線越しに、微かなノイズが混じる。
クラ『サントラー。あなた、今日はもう深入りしないで』
『感情が揺れている時の判断は、命取りになる』
🍫「……分かりました」
本当は、分かりたくなかった。
でも、殺し屋として、否定できない言葉だった。
クラ『続きは、夜に』
放課後の教室。誰もいない机の間を歩く。
夕陽が窓から差し込み、教室の空気をほんのり赤く染めている。
🍫(……普通の高校生で、いるんだ)
けれど胸の奥は、まだざわついている。
🐑くんは、本当に“ノワールではない”のか。
でも、クラウン幹部の言う通り、深追いは命取りになる。
私は鞄を肩にかけ、教室を出る。
外は、もう夜に近い夕暮れ。
遠くで通学路を歩く生徒たちの影が長く伸びている。
手首で無線機を確認する。
小刻みに震えるその振動を、私は握りしめたまま確かめる。
クラ『サントラー、今夜の任務は行ける?』
クラウン幹部の声が、無線から静かに響く。
🍫「……はい、準備はできています」
私は答え、視線を前に向ける。
笑顔は封印しなくちゃいけない。
友達のため、守るため、すべてを剥き出しの戦闘力に変える。
昨夜の任務のことを思い出す。エルドラの笑顔、倒れた姿__。
🍫(次は絶対、守るから)
ビル街の影に身を潜め、フードを深くかぶる。
銃と短剣を握る手に力が入る。
夜の闇は、昼よりもずっと濃くて、冷たい。
クラ『サントラー、敵の動きはまだ不明。慎重にね』
クラウンの声。
サン🍫「……了解」
私の答えは、無線越しではなく、自分自身に向けた決意でもある。
影に紛れ、静かに歩き出す。
ビルの谷間、街灯の光が差す路地。
夜の冷気が肌を刺す。息が白くなる。
私は慎重に足を運ぶ。
背後から微かな音。
足音ではない、無線の微振動。
クラ『敵の気配あり。慎重に。』
クラウン幹部の声が無線越しに響く。
私は立ち止まり、闇の中で体を低くする。
目を凝らすと、影が2つ、建物の角からこちらを窺っているのが見えた。
下っ端だ。だが油断はできない。
私は短剣を逆手に持ち、静かに影に近づく。
一瞬の判断で、2人を同時に無力化する。
倒れる音もなく、影は地面に沈む。
サン🍫(…今日は、これでいける)
無線の小さな振動がまた伝わってくる。
ノワール、もしくはその手下の別の者か。
路地を抜け、屋上へ。
街の灯りが眼下に広がる。
ここなら、視界は遮られない。
けれど、同時に、こちらも丸見えだ。
サン🍫(…きっと、今夜も何か起きる)
手首の無線が再び震える。
クラ『サントラー、準備はできてる?』
クラウン幹部の声。
サン🍫「はい。行きます」
握る銃に力を込める。
冷たい風が頬を打つ。
背後のビル影から、敵が現れる気配。
今夜も、静かな夜の戦いは始まる。