異界の住人たちは、ひろゆきの言葉に反応していた。
笑顔は変わらないが、その目だけがわずかに震えている。
「……論理?」
「根拠?」
言葉を復唱しながら、住人たちはぎこちなく首を傾げる。
加藤純一はその光景に鳥肌を立てた。
「おいおい、こいつら“論理”の意味すら知らねぇんじゃねぇのか?」
ひろゆきは鼻で笑う。
「そりゃそうでしょ。根拠のないことを信じて疑わない人たちなんだから。宗教みたいなもんですよ」
住人の一人が唐突に口を大きく開けた。
次の瞬間、耳障りな笑い声が地下室を満たす。
「――アハハハハハ!」
他の住人たちも連鎖的に笑い始める。その音は人の声というより、ひび割れたスピーカーから流れるノイズに近かった。
彩度の低い世界で、ただその笑いだけが異様に濃い。
加藤純一はたまらず叫ぶ。
「おいひろゆき! 論破で遊んでる場合じゃねぇ! こいつら完全に壊れてんぞ!」
「まあ、たしかに話が通じない相手に論理は無意味ですからね」
ひろゆきは淡々と答えた。
「でも、君が騒ぐともっとややこしくなるんで、静かにしてもらっていいすか?」
「俺に黙れって? ふざけんな! 俺は黙るくらいなら死ぬぞ!」
そう吠えた瞬間だった。
地下室の天井がガラガラと崩れ、鉄骨の隙間から光が差し込む。
その光に照らされ、加藤純一は悟った。
――この世界は「声」に反応して形を変える。
叫びが現実を歪ませる。
ひろゆきの「論理」が概念を揺らす。
二人の異質な力が、同時に作用していたのだ。
住人たちは笑いながら光を避け、後退していく。
加藤純一は拳を握り、破れた天井を見上げてニヤリと笑った。
「おもしれぇ。なら、この世界は俺のシャウトでぶっ壊す!」
隣でひろゆきが小さく溜め息をつく。
「いやまあ、それでもいいですけど……あとで検証はちゃんとしてくださいね」
二人の足元に、崩れた天井から差し込む光の道ができていた。
――ここから先、異界を揺るがす「声」と「論理」の冒険が始まる。
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