テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第10話「グレイズと火花」
「このドリル、喉元まで届くぜ」
赤茶の三つ編みをなびかせ、カンナはゴーグル越しに相手を見据えた。
回転しはじめた《吠える爪》のドリルが、空気ごと裂き始めている。
視線の先には、グレイズ。
銀灰の髪は風に吹かれ、焦げた軍コートの裾が炎のように揺れていた。
片目の赤い義眼には熱も怒りもない。ただ、鋭く“静かに刺す”ような光。
「それで喉を狙うなら、こっちは心臓をぶち抜くまでだ」
彼の背から引き抜かれたのは、巨大な爆砕杭《タナトラ》。
刃の代わりに爆芯を内蔵した鉄の塊。
火を纏いながら、ゆっくりと構えられる。
――崖の上、吹きすさぶ風。
その下では、地脈が静かに震えていた。
先に動いたのは、カンナだった。
ギアノートの勢いを乗せて跳び出す。ドリルを斜めに構え、火花の回転とともに踏み込み――
ガギィィィン!!!
鉄鋼と鉄鋼がぶつかる音が、火の帯を生む。
杭とドリルがすれ違い、粉塵が爆ぜる。
「お前の掘削は甘い。聴きすぎだ。鉄が唄ってるって? ……そりゃ妄想だろ」
爆砕杭が地面に叩き込まれると、土と金属片が吹き飛んだ。
グレイズは爆圧を自分の背に受け、逆方向へ跳ぶように突進する。
カンナは、吹き飛ばされながら体を捻り、ドリルを逆手に構え直した。
「唄ってるよ。耳じゃなくて、体で、心で!
だから“ここ”はまだ怒ってない――あんたの杭が泣かせるまでは!」
ドリルの角度が変わる。
先端が火を纏い、軌道上に螺旋の火線を描く。
グレイズは眉をひそめた。
彼の杭が再び叩きつけられた瞬間、
カンナのドリルがそれを下からすくい上げるように迎撃した。
轟音。
火雨。
爆圧の中、ふたりのシルエットがぐらりと揺れる。
「なんでそこまでして掘る?」
グレイズの声が、爆風の奥から届く。
「金が欲しいなら、略奪すればいい。
土地が欲しいなら、砕けばいい。
なのに――なぜ“聴く”必要がある?」
カンナは応えない。
代わりに、ドリルの回転数を限界まで上げた。
風が逆流し、火花が吹雪のように舞い上がる。
その中で、彼女は静かに口を開く。
「……誰かが、ここで掘ってた気がするからだよ」
グレイズの義眼が微かに揺れる。
「……なんだって?」
「知らない誰かが。
もういない誰かが、ここを“好きで”掘ってた気がする。
だから、あたしは続きをやりたいだけだよ」
ドリルを、まっすぐ構える。
「金属の下に、“その気配”がまだ残ってるから」
静寂。
そして、地の奥から“かすかな反響”が届く。
……カン、カン、と響くような錯覚。
まるで、かつての誰かが、“いま”もそこにいるかのような手応え。
グレイズは、杭をゆっくりと肩に戻した。
「……それが、てめぇの“掘る理由”ってわけか」
「そう。
奪うんじゃなくて、“確かめたい”ってだけ」
風が吹く。
火花が地面に降り、やがて熱が収まっていく。
グレイズは背を向ける。
「じゃあ……それがどこまで届くか、見せてもらうよ。次は戦争になるかもしれねぇ」
「そのときは、こっちのドリルで答えるよ」
ふたりの背中の間で、金属の火花だけが残っていた。
そしてその火の粉の奥、
地面の下から“何かがいたような気配”が、まだ微かにくすぶっていた。