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「誰も……そうなんでしょうね…」
医師の冷ややかに取り澄まされた容姿が思い浮かぶ。
「そう…あの先生はね、来るものは拒まずに受け入れて、ただ相手の気持ちを弄ぶだけ……」
女史が話して、やりきれないといった顔つきで頬づえをつく。
「……だから、いつしか女の子たちはそれに気づいて、クリニックを辞めていくのよ……」
頬づえをついたままで、グラスを煽って、
「正直ね…いたたまれなくて。……なんで、それでもみんなあの先生に惹かれてしまうのかしらって……」
女史は仕方なさげに口にすると、
「まぁ、美形だからなんでしょうけどね……」
と、軽く笑って見せた。
「美しい…だけですよね…?」
そう呟いた私に、松原女史は驚いたように目を見開いて、
「そんな風に、あの先生のことを言う若い子なんて、初めてだわ」
傍らのカバンを探ると、タバコの紙箱を取り出した。
「……私もね、昔は憧れたりしたのよ、あの先生に」
かつてを思い浮かべるようにも話して、タバコを一本引き抜き口に咥えると、「吸ってもいい?」と、聞いてきた。
「どうぞ…」と促すと、ライターで火を点け、吸い込んだ煙を口からふーっと吐き出した。
「……だけど、あの鉄面皮のような先生に、いいように遊ばれる子たちを、何度も見てきて……」
松原女史はそう言うと、タバコになのか、あの医師へのささやかな抗議なのか、一瞬煙たそうに目を細めた。