スタジオの帰り道、夜の風が静かに吹いていた。元貴はポケットに手を入れたまま、街灯の光をぼんやりと見つめていた。
「……本当はさ、俺も若井のこと、好きなんだ」
口に出した瞬間、少しだけ胸が痛くなる。
ずっと前から気づいていた。
あのまっすぐな目も、少し不器用な優しさも。
でも――涼ちゃんが、同じ人を見てることも、ずっと知ってた。
だから、何も言えなかった。
言ってしまったら、誰かを傷つける。
あのバランスが壊れてしまうのが怖かった。
「……涼ちゃん、ずるいよな」
そう呟きながらも、心の奥ではわかっていた。
涼ちゃんが若井に向けるあの表情は、作りものじゃない。
結局、自分がその笑顔を見ていたかっただけなんだ。
“好き”を伝える勇気より、二人の幸せを願う方が、ずっと楽だった。
夜空を見上げる。
星が滲んで見えたのは、風のせいじゃなかった。
「……俺も、誰かにちゃんと届く日が来るのかな」
小さく笑って、元貴は歩き出した。
背中に少しだけ残る寂しさを抱えながら。
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