テラーノベル
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書きたいものを書くだけ。
⚠︎岸本の過去重めにしてます⚠︎
⚠︎関係性も結構違う⚠︎
色々と変ですが、それでも良い方はどうぞ。
今から約5年前。渋谷はいつも通りにシマが安全か見回っていた。まだ昼な為夜と比べるとあまり街は繁盛していなかった。ヒマなのでついで感覚で路地裏でヤクを売買している奴が居ないか確認しようとした。すると、路地裏の奥の方から血生臭い、鉄錆のような匂いがした。渋谷はだれかの遺体か?と思いつつもその匂いに向かって歩いてみた。すると大量に血を流している、渋谷より若そうな紫髪の青年が倒れ込んでいた。渋谷は慌てて走り、青年に脈があるか首に手を当て確認する。
「大丈夫かいな!?生きとるか?」
「あ、ぅ…」
幸いにも脈はあり、渋谷は安心した。よくよく見ると青年の体には肩、脇腹に一発ずつ銃で弾かれたような跡が残っていた。渋谷は咄嗟に青年を抱き抱え自分がいつも利用している闇医者の元へ向かった。はぁ、はぁと息を荒げ、急いでこの青年を助けないとと言う焦りを感じながら必死に走った。
「大丈夫やでな!今、助けたるからな!」
「ぅ…」
なんとか無事に闇医者に着き、青年を医者に渡した。青年の傷が深かった為手術になった。渋谷は心臓をバクバクさせながら手術室の近くにある椅子に腰をかけていた。まだ自分より若いであろう青年に死んで欲しくないのだろう。渋谷は祈るように両手を握り、待っていた。それから数時間後、長く長く感じていたオペが無事に終わった。その報告を聞いた渋谷は気が楽になった。青年は暫く目を覚さないらしいが、渋谷は青年が居る部屋に入った。
「目ぇ覚めたら、名前、聞こかな。」
渋谷はすぅすぅとぐっすり眠っている青年をぼうっと暫く見つめた後、そっと扉を閉め、病院を後にした。次の日、渋谷はある程度の雑務を終わらせた後、りんごや桃などの果物を入れた袋を片手に青年のいる闇医者へ向かった。まだ目覚めているかは分からないが、渋谷はルンルンと楽しみにしていた。闇医者に着き、ガラガラと扉を開けると既に青年は目覚めていたが、渋谷を見た途端警戒するように後退りした。その行動を見た渋谷は落ち込むが、青年がパニック状態にならないように優しく話しかける。
「りんご、持ってきたで一緒に食べへんか?」
「…」
渋谷の提案を無視するように青年は黙り続けていた。流石の渋谷もそのような対応はあまり経験した事がない為困っていた。渋谷はどうにかして青年の警戒を解けないかと考えながらもりんごを取り出し近くにあるテーブルを借りてりんごを剥き始めた。剥いているうちに渋谷は痺れを切らしたのか再度話しかけてみる。
「俺、渋谷大智って言うねん。良かったら、君の名前聞きたいわ」
「…もと…ろう」
「…?」
「岸本、隆太郎って、言い、ます…」
どうやら青年の名前は岸本隆太郎と言うらしい。ようやく口を開いてくれた事に渋谷は感動したのか岸本に近づこうとするが岸本は怯えていた。渋谷は慌てて謝り近くにある椅子に腰をかけるが渋谷は何故、彼がまだ警戒しているのかがいまいち分からなかった。
「なぁ、岸本。なんであんなところで倒れとったん?」
「…逃げて、来ました」
「逃げて…?どう言う事や?」
岸本の言葉に何かが引っかかったのか渋谷は問い詰めようかと迷ったが岸本の今までの行動を見た限り、そんなことをしたら逆効果になると思いぐっと堪えた。岸本は渋谷と真反対で内気な性格な為陽気な渋谷からしたら余計に対応に困っていた。自分と同じテンションで絡んでしまったらきっと彼は困ってしまうだろうから。
「あの、渋谷さん、はなんで助けてくれたんでっか?」
「え?いや、そりゃあ…血塗れになっとる人は助けて当たり前やからな」
「え?」
「ん?」
岸本は渋谷の言葉を聞いて今まで真顔だった顔が驚きの表情に変わっていた。まるでこいつは何を言っているんだみたいな顔で渋谷を見つめていた。渋谷は何か変なことを言ってしまったのではないかと内心焦ったが頑張って笑顔を見せた。岸本はそんな渋谷を見て、この人なら大丈夫だろうと言う気持ちが芽生えてきたのか口を開く。
「僕、その、あの…せ、性奴隷やったんです」
「…!そうやったんやな…」
「は、はい。僕、あの…奴隷のまま、人生終えたくなかったので、逃げてきました」
岸本はぎゅっとベットシーツを握りしめ、下を向きながらまるで独り言かのように話していた。一方渋谷は岸本の話を聞いて唖然としていた。まさか彼にそんな重く、酷い事があったのだとは微塵も思っていなかった為どう言う表情で聞けば良いか分からなかった。
「あ、あの、僕帰る、お家なくって…」
「退院したら、俺ん家来るか?一人やと寂しいし、岸本くんも居ると楽しいと思うねん」
「えっ…?ええんでっか?」
岸本は先ほどよりも表情が明るくなり、瞳をキラキラと輝かせていた。数十分前まであんなに暗く、絶望していた瞳とは大違いだった。渋谷は思わず笑みを溢し、岸本の頭をくしゃっと優しく撫でていた。撫でていると岸本は初めこそは驚いていて固まっていたが、だんだんと今度は岸本の瞳から涙が溢れていた。渋谷は慌てて手を離すが岸本は渋谷の手をぎゅっと握っていた。反射的に握ってしまったのだろう。
「あ、ご、ごめんなさい…撫でられたの、初めて、で…」
「…ええよ、謝らなくて。初めてやと戸惑ってまうよな」
渋谷はそのまま岸本を自分の息子かのように優しくそっと抱きしめ、背中をさすってあげた。岸本は渋谷の胸元に顔を埋もれさせ子供のように甘えていた。渋谷から見た岸本は正直、大人の見た目をした子供だと思っている。ただの予測だが幼少期から親の愛情もろくに受けず、教育も全くされていないのだろう。大人になった者は瞳の奥が濁っている事が多いが岸本は子供のような純粋な瞳でこちらを見てくるのだ。可愛い、守りたいと思う反面、きっと辛い思いをしたのだろうなと思うとこちらまで胸が痛む。
「岸本くん、好きな食べ物とかあらへん?今度作ったるよ」
「好きな食べ物…ごめんなさい、分からへんくって…」
「じゃあ俺の得意料理振る舞ったるわ!」
「得意料理…?」
「お好み焼きって言うんやけど、知っとる?」
「おこのみやき…あ、テレビで見たことあります。食べた事はありまへんけど」
渋谷は嬉しそうにそうかそうかと頷きながら岸本に説明してあげた。岸本は渋谷のお好み焼きの話を聞いて、お好み焼きという食べ物に興味を抱いたらしく、真剣な表情で聞いていた。お好み焼きというものはどんなに美味しいのだろうかと、ワクワクしながら考えていた。渋谷の情熱的なお好み焼き語りが数十分ほど続き岸本はにぱぁっと嬉しそうな笑みを溢し楽しみにしていますと言った。
「じゃ、岸本くん。また明日な、はよ退院出来るとええけどなぁ」
「僕、早く退院出来るようにいっぱい寝ます!渋谷さんのお話もっと聞かせてください!」
「おう!楽しみにしといてぇな」
渋谷は岸本にめいいっぱい手を振り病室を後にした。
数ヶ月後、岸本は無事に退院し早速渋谷に教えてもらった住所に向かいインターホンを押す。ピンポーンという音が鳴った途端すぐに扉が開き渋谷は思いっきり岸本を抱きしめた。渋谷の力が思っていたよりも強く岸本は苦しそうにしていた。
「待っとったで隆太郎!」
「んー…大智さん苦しいですぅ…」
ここ数ヶ月で渋谷と岸本の距離がぐんと縮まり、親しい友達にまでなっていた。渋谷は早速岸本を家に上がらせソファに座らせる。岸本は渋谷の家をキョロキョロと眺め、新しい環境だがどこか安心するところもあった。渋谷はテーブルにお菓子と水を置く。岸本はおおきにと伝え水を少し飲んだ。
「隆太郎と暮らすの楽しみにしとったんや!よし、隆太郎今日も勉強するか?」
「へい!勉強したいです!」
ここ数ヶ月で分かった事だが、岸本がどれだけ勉強ができるか知りたく、一応小学一年生でも出来る足し算や引き算もやらせてみたが全然やり方を知らなかったらしく戸惑っていたし、漢字も、世間も何も知らない状態だった。渋谷はそんな岸本を見て少しでも何か手伝ってあげたいと思い、入院中も勉強を教えていた。
「今日の勉強頑張ったら、前に教えたお好み焼き作ったる!」
「おこのみやき…!楽しみです!」
岸本は目をキラキラと輝かせ息を呑んだ。自分が前から食べたかった物が食べれると知った岸本は普段よりも集中力が格段に上がり、渋谷も凄いと感心していた。今日の勉強は小学6年生レベルの少し難しい内容だったが岸本は頑張って解いていた。渋谷は勉強を頑張っている岸本の隣で温かい目で見守っていた。そこから2時間ほど勉強をし、渋谷が終わりやでお疲れ様と言うと岸本はぐーっと背伸びをしやり切ったぞ!と言う顔をしていた。
「よし、ほんならお好み焼き作るで待っとてな」
「へい!」
渋谷はそのままキッチンへと向かい手慣れた手つきで材料を取り出していた。岸本は渋谷がお好み焼きを作っている姿を遠くから興味深そうに見ていた。どうやって作るのだろう、なんの材料を使っているのだろうと考えながら。岸本はその間にリビングを探索していた。昔にあった唯一の情報源だったテレビ。これは渋谷の趣味であろうタコのぬいぐるみやキーホルダー。これも渋谷の趣味であろうアニメ物の漫画やグッズ。岸本は見たことのない物ばかりで楽しそうにリビングをくまなく見ていた。そんなことをしていたらあっという間にお好み焼きが出来ていた。焼きたてな為煙がほくほくと出ている。
「わぁ!これがお好み焼きでっか?」
「せやで!隆太郎が気にいるとええけどなぁ」
岸本はすぐに椅子に座り手を合わせてからお好み焼きを口に頬張る。頬張った瞬間予想よりも熱かったためびっくりしたがもぐもぐと食べる。あまりにも美味しくて岸本は思わず渋谷に大智さんのお好み焼き最高です!と目を輝かせながら言う。渋谷はにんまりと嬉しそうに笑みを浮かべ岸本の頭をくしゃっと撫でた。数十分後には岸本の皿はすっからかんだった。よっぽど美味しかったのだろう。渋谷は嬉しそうにしながら皿を洗っていた。
「美味しかったです!」
「またたくさん作ったるよ」
「あ、後お願い、があるんですけど…」
「ん?なんや?」
「ぼ、僕。大智さんの入っとるてんのうじぐみに入りたいです!」
渋谷はその言葉を聞いた途端驚きそのまま唾が変なところに入ってしまい咽せていた。岸本は心配そうに渋谷のところへ駆けつけて大丈夫でっか?と背中をさすってくれた。正直言うと、こんな純粋無垢な男の子を欲望に塗れた汚い裏社会に入れたくなかった。渋谷は初めこそは駄目と強く言ったが、岸本はそんなのも無視するかのようにお願いしていた。渋谷はもう何言っても絶対入るんだろうなと思い渋々分かったと承認した。
「分かった、やけど…辛なったらすぐに抜けてええからな?」
「僕、大智さんのサポートしたいです!大智さんの為なら頑張ります!」
「なんやぁ、そんな、照れくさいわ…でも、頑張れよ」
渋谷は照れくさそうに頭をかきながら片手で岸本の頭を撫でた。岸本はへい!と元気な声で返事を返し渋谷に甘えた。まあこの後、まさか岸本が5年目で優秀な組員になるとは渋谷も思っていたかったが。
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