「命ってどんな色だと思う?」
ある夏の日の昼下がり。
なんの前触れもなく放たれたその言葉への答え方を私は知らない。
「さあ?どんな色だろうね」
考えようとも思えないほどつまらない質問に、私は彼女の方を向いてにこりと微笑んだ。
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「こまき、遅れちゃうよ?」
蜂蜜のように甘く可憐な声で私を呼ぶ。ガラス玉の様な透き通る瞳は零れ落ちそうなほどにパッチリとしていて、淡い色の髪をふわりと揺らしながら歩く彼女。
彼女の名は蓮華。「蓮華」と書いて「れんげ」と読む。素敵な名だ。
この名前を彼女は古風だから少し恥ずかしいと話していたが、私は全くもってそんなことはないと思う。
蓮の花の如く美しく咲く彼女に、相応しい。
私は初めて聞いた時そう思った。
「んー……わかってる」
「なら一回その自販機から目を離して貰える?」
彼女の方を向かずにぼんやり返すが、その言葉でちらりと目をやると、 むす、とした表情のジト目がこちらを見つめていた。友達という贔屓目を無しにしたって、蓮華はとても愛らしい顔をしていると思う。
「早く行こ?本当に遅れちゃうって」
「まぁまぁ落ち着いて」
「落ち着いてたら遅れるの!」
夏場のじっとりと暑い空気のせいで汗ばんだ私の手を引き、蓮華はかけだした。
「はいはい」
一ミリも彼女を気にしていないように返事をして、短い髪を前髪を掻き上げる。
惜しくも買えなかった自販機の中のサイダーを見れば、さほど乾いていなかった喉が水を求め始めてしまった。
企業ロゴがデカデカとプリントされた自販機を恨めしそうに睨みながら、パタパタと走る蓮華の背を追った。
始業の時間は、もうとっくに過ぎている。
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