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ここ3日で学んだ。雄英高校のお昼の食堂は混む。それはもう、混む。
だから私は一波去った位の時間帯を狙うことにした。どこで時間を潰そうか。のんびり廊下を歩いていると、前から来る子にトン、と腕がぶつかってしまった。
「あ、ごめんなさい」
「こちらこそ」
パッと顔を上げると、どうやら男の子のようだ。紫の髪にちょっと疲れたような目。薄そうな唇。制服をよく見ると肩のボタンが2つある。普通科の子のようだ。
突然ビーッと警報が鳴って、私も肩をビクリとさせた。大きい音はちょっと苦手だ。
「け、警報、?!」
「どうしよ、ねぇどうしょう?!」
紫の彼の後ろにいた金髪の女の子。多分普通科の子。その子だけじゃなくて、周りもバタバタしている。パニックになっては危険だ。
「多分、大丈夫だと思うよ。警報が鳴ったってことは何かあったんだろうけど、先生たちが対応されると思うし、危害があったとしても、私たちは一旦教室待機になるだろうから」
「……..」
紫の子が私を見る。何があったか気になるけど、大事だったら放送があって行動の指示があるでしょう。
「あ、ぶつかったとこ、痛くなかった?」
「…..特には」
「良かった」
結局放送はなく、私は食堂でスパゲティを食べた。席に着くと、偶然。ほんとに偶然さっきの子が隣に来た。
「さっきの判断だけどさ」
「う、うん」
「落ち着いてたね」
「ありがとう」
スパゲティが制服に飛ばないように注意しながら食べていたから、紫の子がどんな顔で私を見ているかは分からなかった。
次のHR。
緑谷くんの提案で、飯田くんとヤオモモが学級委員になることになった。いいんじゃない?飯田くん真面目そうだし。なんかそういうの好きそうだし。ぜひ頑張って欲しい。
今日の授業はレスキュー訓練。私のようにヒーローコスチュームで挑む者、運動着で挑む者。色々だ。
今回のグラウンド。ウソの災害や事故ルーム….略してUSJで行うようだ。水難事故・火事現場・土砂災害にその他諸々。こんなん作れる敷地とお金があるって、すごいな雄英….!
今回の先生は13号先生。
雄英高校に入る前の個性調査でお会いした優しい先生だ。お茶子ちゃんも緑谷くんも喜んでいるみたいに、その名を多くの人が知っている。
オールマイトが来られないのはちょっと残念だけど。とか思っていたら、13号先生が個性のお話を始めた。
「容易に人を殺せる “ いきすぎた個性 ” を個々が持っていることを忘れないでください」
人を殺せる個性….か。私の個性もそうだ。水を操る…..正確には、体内の水を周りの水と融合させて操る個性。周りに水がなきゃ困るけど、逆に言えば水があったらできることが多い個性だ。人の息を止めることも。
そういえば、小学校で個性が暴走した子も、武器を創り出していた。あんなの、簡単に人を殺せる個性の代表みたいなところあるだろ。
「君たちの力は、人を傷つけるためにあるんじゃない。救けるためにあるのだと心得て帰ってくださいな」
さすが13号先生….!
さぁ授業が始まる….この雄英で習ったことを活かして、私は憧れの人みたいに、
「全員一かたまりになって動くな!!」
相澤先生の大きな声と同時に振り返ると、そこには黒いモヤからゾロゾロ出てくる、どう見ても先生じゃない人たちが。
一瞬演出なのかと思った。でも、
「動くな!!ヴィランだ!!」
ヴィラン…..?!
いや、驚いてるのは私だけじゃない。そして、次の手段を冷静に考える子が多くいる。
そうだ。落ち着け私。
13号先生と私たちの前に、突如現れた黒いモヤ。爆豪くんと切島くんが突っ込むも、私たちは一瞬にしてモヤに取り囲まれてしまった。
そして吸い込まれていく。水を出したが、もちろん同時に吸い込まれただけだった。
モヤが晴れて、見えたのは地面にて待ち構える敵たち。
まずは地面に波を打ち付けて、自分の着地の体制を整えると同時に敵を蹴散らす!!
「うぁあっ?!」
「ぐあっ!!」
っと、着地!
「よくもやってくれたなァガキ!!」
鉄パイプを持った男が私に向かって一振。それを合図に、周りの奴らも同時に私に向かって来る。パッと見、A組の子たちはこの辺にはいない。不安はあるけど、むしろそれなら好都合!
私の後ろには噴水、右には水難ゾーン。個性をある程度使いやすい位置にいるのも、とっても良い風向きだ。
「はっ!!」
噴水からの方が近いので、噴水の水を高波にして操る。
「うぉぉおっ?!」
「流されるっ?!」
そのまま火災ゾーンまで流れてくれれば楽だったんだが、パワー系の個性は持ちこたえるな…..。
近距離戦になると、私にほぼ勝ち目はない。最悪人質になって足手まといになる。
それは避けたい。
高波に乗って距離を取る。
「オラァああ!!」
突っ込んで来たパワー系の個性。私の足場を崩して落としたいらしい。でも残念だったな。いくら筋肉を鍛えても、そっちも人間。喉までは鍛えられないだろう!
鼻と口に水を押し込んで呼吸を止める。死にはしないさ。多分。
よし。このまま人数を減らして、サポート系の個性を持った子や先生のバックアップに…..、
何かに引き込まれる感覚。さっきも感じた。あの黒いモヤの個性だ!
だんだんモヤが広がっていく視界で、緑谷くん・梅雨ちゃん・峰田くんが空を飛んでるのが見えた。手を伸ばしたいが、多分届かないだろう。でも良かった。少なくとも3人は無事だ!
真っ暗になったと思ったら、焦げた匂いが広がる、赤い視界に。
「っと、」
水で着地をすると、背中に何かを感じた。反射的に水で押し流したあと振り返ると、やっぱりヴィランだ。危なかった。
「?!愛嶋さん?!」
しっぽを巧みに動かして、信号機の上に立ってるのは、
「尾白くん!」
「愛嶋さん大丈夫?!っていうかいつからいたの?!」
「今さっき!」
尾白くんは状況を見ながら私の方に降りて来てくれた。仲間がいるって安心する。
「尾白くん、消火は私が担当する。接近戦は苦手なんだ。お願いしてもいい?」
「わかった」
頼もしい!
尾白くんが動きやすいように、火の道を開いたり、足場を冷やしたりしながら走る。
「他の子は?」
「わかんない。緑谷くんと梅雨ちゃんと峰田くんは、水難ゾーンに飛ばされて何とか脱出したみたい」
「わかった。このゾーンでは愛嶋さん以外見てないんだ。他の子はいないかもしれない」
「わかった、」
ここも尾白くんがいてくれるから何とかなりそうだ。周りに水がない中、ここで消火に回らなきゃいけないのはだいぶ厳しいけど、ここで渋る訳にはいかない。
ここももう少しで突破できそうなんだ。早くみんなと合流して、
ブォンと目の前に現れたのはあのモヤ。またかと思う時間もなく、吸い込まれてしまった。
次はなんだ、と着地の準備をする。頭から吸い込まれたせいか、出るのも頭からなんだ。
着地地点にヴィランがいてもいいように、水を用意してー、
「俺らがここにいることからして、みんなUSJ内にいるだろうし。攻撃手段が少ねぇ奴等が心配だ」
ん?あの赤髪は…..
「切島くん!退いて!!」
「ん?」
しまった!着地に使おうと思ってた水が使えない!最悪着地はミスしてもいい!切島くんに当たらないように水をぶつける位置を変えて、
「あァん?」
爆豪くん!爆豪くんも退いてくれ、怪我するかもしれない、あっまずい考えてる間に切島くんが近、危ない、
「っと」
あれ?
「上から降ってきてどうした愛嶋」
た、助かった…..。角度的に見えるのは、切島くんを下から見た顔と私の足…..。
「大丈夫か?」
「う、うん。ありがとう、」
「イチャつくのは後にしやがれ鬱陶しい!俺はあのワープゲートぶっ殺す」
「はぁ?!」
切島くんは私を降ろしながら爆豪くんと話をしだした。やっぱりお姫様だっことやらをされていたんだろう。それにしても、切島くん鍛えてるな…。
46キロあるぞ。私。それを軽々と….って、爆豪くん後ろ!
「俺らに当てられたのがこんな三下なら 大概大丈夫だろ」
おぉ…..さすが。爆豪くんもやっぱりキレてばっかりなだけで優秀なんだなぁ。
切島くんと爆豪くんが片付けてくれたであろう敵を見ながら考える。
こんなに話せてるってことは、2人の中でトラブルというトラブルが無かったんだろう。
例えば、私みたいに誰かいなくなったとか。変なんだよな…..1回目は大勢の敵に。次に火災ゾーンに。そして次はここ、倒壊ゾーン。全部、私が嫌な場所ばっかりだ。水難ゾーンとか、暴風・大雨ゾーンとかに飛ばされてもおかしくなくない?確率だけかもしれないけど….。
「どうした愛嶋?どっか打ったか?」
「ううん…..」
切島くん優しい!
「あのさ、こうやって途中参加?みたいになった人っていた?」
「あァ?いねぇわ。つかテメェはどこで何してたんだクソチビ。逃げ回って来たんなら正解だがよ」
「ワープさせられたんだよね。2回目かな、ここは」
「ワープぅ?」
そう言っていると、やっぱり何かに吸い込まれる感覚が、
「ワープゲート!!」
「爆豪タンマタンマ!愛嶋に当たるって!」
「わーっとるわ!!」
攻撃したいだろうにごめん爆豪くん、….でも、私だけなのか。変な話だな……。
次は地面が目の前に。全然受け身とか取らなくて良い高さだ….って言うか、前転しないと危な…..かった、
見渡すと、再び最初の位置に。敵が大勢私に向かって来る。できるならさっきの倒壊ゾーンで持ち歩きしてる水筒から水分補給したかったけど、これは難しそうだ、
「さっきは良くもやってくれたなァ」
「舐めんじゃねーぞこの野郎!!」
目の前のヴィランは地面を殴った。でも私は高波に逃げるから問題無し!!
と思ったら、すごい勢いで飛んで来た何かに、高波が一旦途切れた。なんだ?!何が飛んで来た?!
飛んで行った方向を見ると、黒い服に白い捕縛布….
「相澤先生!!」
「よそ見してていいのかァ?!」
しまった!!
右側からした声の主を見ようとすると、横腹に激痛が走る。
「っつ、かはっ……!」
スーツで防御してもこんなに苦しいなんて、
「飛べるのが自分だけだと思うなよ?」
ち、近づいてくる….水、を、
「おぉっと、いいのかよ」
ヴィランがちらっと見た先には、緑谷くんと梅雨ちゃんと峰田くん。ここでさっきみたいな水の使い方をしたら、今は何とかなるかもしれない。けど、こいつのヘイトが変わるだけだ、
なら呼吸を止める、
「残念」
首を強く抑えられて呼吸ができない。
「さっきは良くもやってくれたよなぁ。あ?苦しかったんだぜ?今のお前と同じ気分よ」
い、息ができない、っ、苦しいっ、
「こんな奴が欲しいのかぁ?」
「個性がいいんだろ。今まで守られて来たもんな。お嬢ちゃん」
嫌に、ねっとりした、言い方を、する…..こんなのが、欲しい?…..今まで、ずっと、守られてきた…..ヒーローに?じゃあ…..お前たちが、狙ってるのは、私….?!
さらに力が強くなって、顔が熱くなって、でも指先には力が入らなくて、あ、あ、まずい、だ、誰が、…..誰が……?
「こいつはもう何もできないだろ」
「気絶させて連れてくか」
嘲笑うヴィラン。何もできない私。
「オールマイト来たらしいぜ」
「あ〜、じゃあそろそろだめだな」
オールマイト…..?来てくれた、の?
ヴィラン2人が見てる方向…..多分そっちにオールマイトがいる…..この、ままでは….人質になってしまう…..そんなの、そんなのだめだ…..何ができる?私に….何が…..、
まずは、この、手を、緩めなきゃ….どうしたら、あと使える、少ない水で…..やらなきゃ、ダメだ、
私はヴィランの目向かって、水を発射した。少量でも、威力が上がればたちまち水鉄砲以上になる、
「うぉっ?!」
「あっ!この野郎!!」
今!!最大火力の高波!!上昇!
みんながどこで何してるか、相澤先生は無事か、それは分からない。けど、上には誰もいない!!
っは、苦しかった、呼吸できる、っは、良かった、
飛べると自分で言っていたけど、体育館より高い場所までは、さすがに無理だろう。私も、高波の反動じゃなければここまでは飛べなかった。
息が吸えない時間はどれくらいだったろう….すごく長く感じたのに、もしかして一瞬だったら。
ってそれどころじゃない。上昇したはいいが、私自身は空飛べないんだ!しかも使えるだろう水以上に使ってしまったから、なんか目眩が….天井が動いて視える….気持ち悪い….脱水症状….。
どうにかしなきゃ、どうにか…..まずは、下から迫ってくる….っていうか多分迫って来てるあいつらを何とかしないと…..何とか?使える水もないのにどうやって?
このままだと、ただ、ヴィランの手に向かって、落ちる、だけ…..。
「無駄な抵抗ご苦労さん」
「なんでそんな苦しいことが好きなんだよ。バカじゃねぇの?」
すぐそこまで聞こえる声…..。
足手まといは……嫌….。
「YEAHHHHHHH!!」
「ぅわぁああっ?!」
「うるせぇ!!こ、鼓膜がぁ?!」
「?!」
ヴィランの手の中に落ちると思っていたら、ヒーローの腕の中だった…..。
「大丈夫か?リスナー?」
….マイク、先生…..、
本当は、言いたいことがあるのに….それなのに、視界が、真っ暗…..で….。
目を開けて、最初に思ったのは、眩しい。
学校の蛍光灯。….とすると、ここは教室?
「あら。目が覚めた?」
身体のラインがぴっちり見えるコスチュームの…..。
「ミッドナイト先生……」
「痛いところは?リカバリーガールに治癒して貰って、職員用の仮眠室に運んだけど….大丈夫?」
ほんとだ….横腹の痛みもほとんどない。違和感があるくらいだ。
「はい。大丈夫です」
「無事で良かったわ」
それは、マイク先生が…..あっ!
「マイク先生にお礼、言えてなくて、」
「Hey!気にすんなリスナー!」
「…….ありがとう、ございました」
「大変だったなぁ。よく耐えた!
ブラボー!相澤も13号も、オールマイトも。命に別状無しだぜ」
先生方…..良かった!
「もう少し休んで行きなさいな。なにか困ったことがあったら言うのよ」
「安静にな!」
先生たち…..優しいな。
パタンと閉めた扉の向こうから、話し声が聞こえた。
「やっぱり…..狙われて…..」
「今まで……強化…..」
所々しか聞こえないけど….やっぱり、私も、ヴィランに狙われている…..。あいつらも、そう言ってた…..。……..。
コロンと寝返りを打つ。……。
怖いな…..。