コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
昨日と同じく木の下で雨宿りをしながら、僕は変わらず彼女を待っていた。雨はそこまで強くなく、優しく地面を跳ねている。
途中、寒さに耐えられずに自販機で買ったコンポタージュ。触ってみても、熱はもう無い。
何十分、何時間と、ここにいる気がする。
ああ、なんかもう、良いな。
木から離れて、僕は歩いた。シャワーを浴びているようで、雨も意外に悪くない。
それから僕は、ジャングルジムを登った。理由なんて無い。ただ何かをしていたいだけ。
流石に濡れていると、足元がよく滑る。気をつけて、ゆっくり、ゆっくーりと上がっていく。
見事頂上まで上がり、達成感を覚えた後にすぐに思った。
何してんだ、僕。
眩しい。雨はまだ止んでいないが、日が出てきた。昨日、月夜さんはあっちに歩いていったんだかったか。確か、白い車があって……。
その時だ。背後から、濡れた地面の上を歩く音がした。誰かが来た。
「月夜さん!!」
僕はすぐに振り向き、叫んだ。
「よっ、暗夜!! ん? 月夜さん……?」
残念ながら、そこにいたのは月夜さんでは無い。だが、僕はその人を知っていた。この能天気で明るい口調は、同じクラスのー
「雲隠日向君」
「ははっ、良いよ『日向』で。あと、君付けもしなくて良いからなー」
彼は防水になっていそうな上着を脱いだ。中に着ているのはタンクトップで、鍛え抜かれた筋肉は中学生のものには見えない。
そして彼は、その脱いだ上着を僕に差し出した。
「ほら、風邪引くぞお前」
「いや、いいよ。使わない」
彼の善意には悪いが、僕は正直彼をよく思っていない。この前だって彼のイジりから、真昼と口を聞けなくなった。
悪い奴でないのは、何となくわかる。だが、そういう奴ほど、関わると面倒に巻き込まれやすい。
「というか、お前。こんなとこで、こんな時間に何してんの?」
「お前が言うかよ……」
普段であれば、こんな明るいThe陽キャ君って感じの彼にこんな事言えない。だが、今は色々全部どうでもよく思えてしまった。
「そうだな。俺が、何してんのか、か……」
日向は僕にも音が聞こえるくらい、大きく息を吸って、頭を思いっ切り下げると同時に叫んだ。
「暗夜!!! この前はごめん!!!」
先程までの緩んだ空気は彼の咆哮が伝わると同時に、固まっていく。
彼は真剣だ。この感じを僕は知っている。真昼と同じだ。
そうだよな。真昼はそもそも、僕みたいな大人しいタイプと関わる人間じゃない。今までがおかしかったんだ。
彼はもう一度、息を吸ってから続けた。
「俺、実は真昼が好きで、それで、お前には勝てねえなって思って、それで……、すまねぇ。卑怯な真似した……」
彼はまだ、顔を下げたままだ。そうか日向は真昼が好きだったのか。
僕はジャングルジムから降り、彼の背中を優しく叩いた。
「良いよ別にもう。お前らお似合いだな……」
僕はそのまま進み、この場から離れようとした。だってそうだろ? あいつが真昼を好きだから何だというのだ。もう僕と真昼に関わりは無いし、そもそも恋人でも何でも無い。
「待てよ、暗夜!! お前もしかして、秋風さんを待ってたのか?」
『秋風さん』彼のその言葉で、僕は立ち止まり、そして振り向く。
「月夜さんを知ってるのか?」
彼はコクリと頷いた。