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そして季節は巡り、花果山の木々達はピンク一色に染まる美しい春が訪れていた。
美猿王は人の歳で言うと十四歳になっており、幼少期の頃よりも容姿の美しさは増し、脅威的な力も王としての風格も出ていた。
水簾洞を住処にしており、この火山島の中で最も美しいと言われている洞窟の事である。
淡い青と紫色が混ざった水に、光輝く水晶が彼方此方に埋まり、美猿王は暖かな太陽の光よりも涼しげな月の光の方が好みであった中で発見した住処だ。
美猿王がとても気に入っている場所である為、水簾洞に訪れれる者は世話係の丁と長老の二人のみ。
普段から黎明隊の隊員の猿が何匹かが護衛に付き、常に妖からも他の山の猿達からも命を狙われる生活の中で、美猿王にも一人の時間を欲していたのだ。
その事を配慮した長老が花果山の猿達に水簾洞には、美猿王の許可なく近付くなと固く言われ、猿達は誰も近寄らない状態になっている。
それから火山島で美猿王に敵うものはいなくなり、美猿王は歳を重ねるごとに火山島のあらゆる山を占拠して行ったからだ。
美猿王は自分に支えている猿達にあらゆる知恵を与え、その動きは人間でいう軍人の動きそのものだった。
作戦を立ててから行動する事や、どうしたら相手の心を壊し、二度と自分達に手を出さないようにする方法。残酷な殺し方を教え、武器を持つ事の意味を教えた。
「良殺すのに時間を掛けんな、いかに早く多く敵共を殺せるかで勝負は決まる。素手ではなく武器を使って殺せ、俺の言う通りに動け。丁、これと同じ武器を大量に作れ」
そう言って美猿王は丁に自分が持ってきた槍を手渡し、作り方を簡潔に教えた。
丈夫な木の棒の先に石を鋭く包丁のような形に整え、紐縄で強く木の棒の先端に固定させた簡易槍を大量に生産させ、森に罠を仕掛けさせる。
木の根っこ部分に鈴の付いた縄を張り巡らせ、引っかかった瞬間に縄に付いた鈴が激しく鳴り響き、黎明隊が出動出来る為の罠だ。
黎明隊の隊員の李、胡、高の三名は、隊長の丁の指示を忠実に聞き、美猿王の言う通りに武器を持って戦うと、今まで苦戦していたのが嘘のように簡単に侵略者共を殺せた事に歓喜した。
自分達の足元に転がっている血を流している侵入者の猿達を見て、李が笑いながら呟く。
「スゲーや、本当に簡単に侵入者全員を倒せちまったぜ…。若の言ってた通りだ」
「これは武器を作ったおかげなのか?それとも罠を仕掛けたからか?」
「若が、凄い…、からでは?」
「頭を使って戦えば馬鹿な猿共や妖相手なら、お前等だけでもやれる。無駄に血を流すくらいなら、考えて怪我しない戦い方をする方が効率が良い。そう言うやり方に切り替えた方が賢い」
李を含めた三人の会話を聞いていた美猿王は、改めて頭脳戦を混じれた戦い方の重要さを説明する。
美猿王の頭脳の高さに感銘を受けた三人を筆頭に、美猿王無しでも花果山に攻めて来た者達を返り討ちする事が出来るようになった。
戦いに勝利した事に喜ぶ黎明隊の隊員達、その姿を眺める美猿王は戦っている時しか喜びを感じなかったのだ。
沢山の死骸を見ては、如何に自分が優位に立っているのかを実感する事が出来き、その事は美猿王自身がよく分かっていた。
自分は心が廃っているのだと、仲間と分かち合う事の喜びを感じれいない事を。
血が飛び交う戦いの時にしか美猿王は笑わない、子供のように無邪気な顔をしない。
長老はそんな美猿王をただ見つめる事しか出来なかった、恐ろしい力を持つ美猿王は雷龍の贈り物なのだから、仕方がないと。
だが、誰一人として美猿王の行動を止める事はなかったのだ。
何故なら、それは自分達が如何に安全に入れるかの方が大事だった。
美猿王は、長老や他の猿達の言葉を耳に入れなかったが、丁や黎明部隊の猿達だけの言葉は耳に入れたていたのは、黎明部隊は自分のモノで、自分の軍隊だったから。
***
美猿王 十四歳ー
「暇だ」
俺は水簾洞の光輝く水晶を見ながら呟き、剥いだ狼の毛皮で作っ敷物の上に寝転ぶ。
誰もこの花果山を攻めて来る者が来なくなって、何ヶ月目だったか?
火山島に住む猿達は俺をビビって喧嘩を売って来ないし、妖怪と呼ばれる怪物が攻めて来るがソイツ等も、大した腕をしていない。
やり合っても、すぐに相手が死ぬからつまらん。
「美猿王よ。また、戦いの事を考えておいでですか…?」
カンカンカンッ…。
杖をつきながら歩いてくる長老が目に入り、一瞬だけ長老に視線を向ける。
この爺さんは猿の中で一番に歳を食ってる猿で、皆に長老と呼ばれおり、俺に気を使いまくる爺さんだ。
石のテーブルに置かれた山積みの甘い香りを漂わせる桃を一つ取り、口に運びながら体を起こす。
口の中に甘みが広がり幸福感を得れる桃は俺の好物だ。
俺が桃を好きな事を知っている黎明隊の連中は、頼みもしてないのに桃を大量に収穫して来る。
そのお陰で、桃に困る必要はなくなった。
「もうこの花果山にも、他の山にも美猿王に敵う者はおりませぬ。山の猿達は美猿王の強さに怯え、手を出して来ませぬよ」
「あーあ、つまんねーの。面白い話とかねぇの?」
「わ、私に聞かれても…。面白い話ですか…」
長老はそう言って頭を抱えながら、ビクビクして目が怯えてて、俺の顔色ばかり伺ってる。
あからさまに怯えられると、俺が爺さんの事を虐めているように見えるだろうな。
そんなに怖いなら、俺に会いに来なくて良いのにと毎回思う。
長老は長生きしているが強さや知恵が無く、ただ生きて来ただけの猿だ。
俺みたいに見た目が人の形をしている猿はいない、動物の猿の見た目の奴等ばかり。
「若。今、宜しいですか?」
爺さんの後ろから現れたの、俺の護衛役である丁が爺さんの居る事の気付き頭を下げる。
「長老様、いらしたのですね。ご挨拶がくれてしまい申し訳ありません」
「おお!!!!丁か、ワシの事は良いのじゃ!!!美猿王に用事か?」
「え、え?は、はぁ…」
爺さん派力強く丁の背中を押しながら、丁を盾にするように俺の前に押し出した。
「それで?何の用事だ、丁」
「実は美猿王宛に文が届きまして、お持ちしました。こちらが届いた文です」
「文?俺にか?」
丁は俺に文を渡して来たので、食いかけの桃を皿に置き、俺は文に巻かれた紐を解き内容に目を通す。
シュルルルッ。
長老に文字の読み書きは教わっていたので、ある程度の文字は読める。
どうやら俺に文を出して来た野郎は牛魔王って言う奴で、宴を開くから俺にも参加して欲しいって内容だった。
爺さんは恐る恐る、文を読んでいる俺に声を掛けてきた。
「美猿王よ。文にはなんて、書かれていたのですか…?」
「あ?あー、なんか宴開くから顔出してほしいってよ」
「宴!?主催者は誰なのですか!?」
長老が前のめりになって近寄って来たので、文を見せながら差出人の名前を言う。
「牛魔王」
「「牛魔王!?」」
差出人の名前を言うと、爺さんと丁が腰を抜かしてしまい座り込んでしまった。
「んだよ、腰を抜かす程か?そんなに有名な奴なのか?」
桃を口に頬張りながら丁に尋ねると、四つん這いになりながら近寄って牛魔王の事を話し出す。
「牛魔王って言ったら、妖怪の六大魔王の一人ですよ!!妖怪の中でも、もっとも強いと言われているんです!!その妖怪から、宴へ招待されているんですよ!?特に、牛魔王は新参者を宴に呼んだりしないんですっ」
後半、早口で話し出したので聞き取れなかったが、妖怪の中で一番強いって事だけは分かった。
俺より強い奴に会った事ねーな、噂になる程強い奴なぁ…。
「それで、美猿王よ。宴への参加はどうしますか?」
「何か面白そうだし、参加してみるわ」
「ほぉ!!そうですか、そうですか!!いやー、美猿王が、六大魔王達の宴に招待されるとは!!!」
俺の返答を聞いた爺さんは、何故か自分の事のように喜び出した。
お前が呼ばれた訳じゃねーのに…、何でそんなに喜ぶんだよ。
「分かりました、若。では、私はその事を伝えに行って来ます」
伝えに行ってくるって、差出人の牛魔王の居場所を分かってんのか?コイツ。
そう言いながら丁が立ち上がったので、俺は疑問に思った事を丁に問いを投げ掛ける。
「どこから送られて来たか書いてねーぞ?場所分かってんのか、丁」
「牛魔王の手下の奴等が、花果山の麓《ふもと》で待機しているんですよ」
「用意周到って事か、わざわざ手下を配置させてんのか」
「そうみたいですね、では行ってきます」
「あぁ」
タタタタタタタタタッ!!!
俺の返事を聞いた丁が麓に向かって行く後ろ姿を見ていると、爺さんが杖を地面に叩き付けながら更に興奮し出す。
カンカンッカンッ!!!
「では、私めは宴に着て行く服を調達せねば!!!お待ちくだされ、美猿王!!!」
「張り切り過ぎだろ」
頬杖をつきながら呟き、自分の事ながら周りが浮き足立っている所為で客観的に見ていた。
自分の事なのに喜ぶ爺さんを冷たい目で見てしまうのは、俺はどこか頭のネジが外れてるのかもしれない。
それから暫くして丁が戻って来ると、牛魔王の手下から宴の日程や場所を聞いてきたようだ。
宴は明日行われるそうで、牛魔王の手下が俺を迎えに来るらしい。
護衛役として丁も同行する事になり、爺さん達が持って来た服を丁と一緒に何着も着せられた。
やたら重い服やら、目がチカチカしてくるようなアクセサリーを付けられ、髪を好きに弄れれる。
「服も髪型だって何だって良いだろうが、別に…」
「とんでもない!!!見た目は重大ですぞ、美猿王。見た目が良ければ、相手は警戒心を抱く事は無くなるでしょう?」
「…、そう言うもんかね」
「そう言うものですぞ!!!さ、次はこっちの…」
爺さんは意気揚々と服を次々と取り出して来るが、俺は別の事を考えていた。
この見た目を見た奴等は「痩せていて、弱そう」だと言って、俺の事をなめてくる奴等が多い事も。
力の差を分らす為に、舐めて来た奴等に報復するように痛い目に遭わせ、二度と逆らう気すら起こせなくさせて来た。
俺がいる世界は弱い者は殺され、強い者だけが生き残る世界に身を置いているんだ。
着せ替えに飽きてきた俺は、色んな動物の毛皮で作ったベットに寝転び瞼を閉じ、深い眠りに付いた。
……
「若!!起きてください!!支度をしないと間に合いませんよ!!」
「うるせーな…」
丁の深いな大きな声を聞きながら、怠い体をゆっくり起こす。
あー、確か牛魔王の宴に行くんだったか、めんどくさくなってきたな。
「めんどくせーな」
「そんな事を言わないで下さいよ!!!迎えがきてしまうんですから。さ、起きてください!!」
丁が手際良く俺の服を脱がせ、爺さんが勝手に決めた服を素早く着せさせ、腕やら首にアクセサリーを飾って行く。
黒い生地に白と金の椿の絵が刺繍された大きめの長袖に黒いズボン、小さいアクセサリーだがちゃんと存在感を出している。
「カッコイイですよ、若。長老様が選んだ服がとても似合っている。若の美しさが引き立てられています」
「そりゃどうも。お前もその格好で行くのか」
「はい。長老様が、ご用意してくれたので…」
丁が着ている服のデザインは俺が着ている物と同じで、爺さんがお揃いで着せたかったのだろう。
爺さんの考えてる事ぐらい簡単に分かる。
花果山の代表として牛魔王の宴に参加するんだって、周りの連中に知らしめたいんだろう。
「若、牛魔王の使いの者が…。ひゃー!!!若、めちゃくちゃカッコイイですね!!!いつも以上に輝いて見えますよ!!!」
「おいおい、勢い余って鼻血でも出すなよ?李」
「た、隊長!!!鼻血なんか出しませんって!!!」
牛魔王の使いの者が来た連絡をしに来た李だったが、俺の服装を見て興奮し出し、丁が悪ノリを初めてしまった。
「おい、李!!!若達に伝言しに行った筈だろ!!!何してんだ!!!」
鬼の形相をした胡と無表情の高が水簾洞に入って来るのが見え、李の顔色が青くなって行く。
「ゲッ!!?胡…。お、俺はちゃんと伝えたぜ?」
「嘘つくな、お前の大声は水簾洞の外まで聞こえて来てた。まぁ…、若達の姿を見たら興奮する気持ちも、分からんでもないからな」
「若、隊長、よく似合ってる」
胡が穏やかな表情を俺に向け、その横で高が片言で服装の事を褒める。
タタタタタタタタタタッ!!!
「美猿王!!丁殿!!牛魔王の使いの者が来ました!!」
黎明部隊の一匹が俺と丁に声を掛けてきた所で、丁は真面目な顔付きに変わり俺に声をかけてきた。
「分かった。では、参りましょうか」
「あぁ」
俺達が水簾洞を出ると、長老とこの山に居る全ての猿が集まっているのが見えた。
「美猿王よ…!!!無事に花果山に帰って来て下さいよっ!!!」
「別に戦いに行くわけじゃねーんだから心配し過ぎだろ。それに、ただ酒飲みに行くだけだろ」
「で、ですがー!!!」
「長老様、私も居ますからご安心して下さい」
泣いている長老を見兼ねて、丁が会話に入って来た。
「だ、だが…!!」
丁に向かって、グダグダと話している爺さんの姿に段々とイライラが溜まり、つい口から言葉が漏れてしまう。
「五月蝿い」
俺がそう言うと爺さんはビクッと体が反応し口を閉じ、空気が静まり返る。
「いちいち五月蝿せぇ。見送りに来たなら、黙って見送れ」
「も、申し訳ありません、美猿王…」
爺さんがそれ以上、何も言えなくなった中で俺は言葉を続けた。
「丁が安心しろって言ってんだから黙ってろ」
「若…」
丁が俺の言葉を聞きながら顔を見て涙目になっているのに気が付く、それは李達も同じ様子だった。
黎明の連中は爺さんの言葉よりも、俺の言葉の方が響く事も、俺からの信頼が欲しい事も知っている。
部隊の士気を上げる為にもある程度、部隊の連中に信頼を向けてやる事も必要だ。
猿達が集まる背後から妖気を感じ、黎明隊の隊員達は俺の周りに移動し林政体勢に入る。
「「美猿王様、お迎えにあがりました」」
仮面を被り黒いマントを着た人の姿を二人組が現れ、コイツ等が牛魔王の使いの者だとすぐに分かった。
「アンタ等が牛魔王って野郎の使いか」
「はい、こちらの馬車にお乗り下さい」
そう言って、牛魔王の使いが黒い馬の馬車を指差しながら、俺達の事を案内した。
「どうぞ」
ギィッと気が軋む音を立てながら馬車の扉を開け、中に誘導をする。
「長老様。行って参ります」
「気をつけるのじゃぞ!!しっかり美猿王をお守りしろ」
「はい」
「さっさと行くぞ、丁」
俺はそう言ってから先に馬車に乗り込むと、丁は慌てながら続けて馬車に乗り込む。
牛魔王の使いの者は俺達が乗り込んだ事を確認すると、馬に鞭を打ち馬車が走り出した。