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『愛なんて、』
一般人設定
snjnと、いつものごとくjyuさん登場
大学で出会ってお互い社会人になり、付き合うことになって同棲を始めてもう何年経つのだろう。勇斗は大手の会社の営業部に、自分は将来カフェを開きたいという夢があったので知識を得るためと技術を鍛えるため、そして開業するための資金を貯めるためにカフェで働いていた。
ーーーある日の日曜日。
もう少しで11時。朝から洗濯とか家事を済ませて、休憩中。自分で淹れたコーヒーを飲みながら経営についての勉強をしていたら寝室の方から扉が開く音がして、やがてリビングにまだ寝起きでボーッとした顔の勇斗が起きてきた。
「おはよう勇斗」
「……はよ」
「昨日、先寝ちゃったけど、帰ってくるの遅かったの?」
「あー…うん、いいだろ、なんでも」
「……そっか」
数ヶ月前からずっとそうだ。
勇斗の態度が素っ気なくなった。
何を言っても、面倒くさそうに返事をするようになった。心当たりが全くないから尚更困っている。
「勇斗…今日、一緒に…」
「あー悪い、午後から友達と出掛けることになった」
「…でも、」
「仁人とは、いつでも行けるだろ」
それ以上何も言うなと表情に出ていたので、もう何も言えなかった。言ったところで意味がないのだ。喧嘩なんてしなくないし。リビングに流れてる空気は何処となくピリついてて居心地が悪い。
「今日夕飯、いらないから」
さっさと着替えた勇斗はそう言い残して家を出てった。せっかく淹れたあげたコーヒーはひとくちも飲まれることなくテーブルに置いたままになっていた。もったいないからと飲んだらもうすでに少し冷えていた。まるで自分の心の中を表しているようだった。
「………はぁ」
重い溜息が勝手に出てしまった。
※
本当は一緒に出掛ける予定だった。
気になっていた映画を見ようと約束をしていたけど、恋人より友人を優先されてしまった。虚しくもなったが、仕方なくひとりで観に行くことにした。
公開から数日経っているがまだ映画館ではその映画を観に来ていた人たちでごった返していた。
タッチパネルで座席を選んで、定番のポップコーンとドリンクのセットを購入する。
列は後ろの方、座席は割と真ん中の方にした。映画は予告が始まる前から入場するのが好きだ。
色んなジャンルの映画の予告を見終わった後、ブーーッという本編の始まりを知らせる音、暗くなっていく劇場内にドキドキとワクワクがとまらなかった。
でもそれは今日はなかった。映画を見る時いつも隣には勇斗がいたからだ。
お互いの味の違うポップコーンを食べあったり、予告の映画を見てコソコソと「面白そうだね」「今度見に行こうね」なんて話したり、暗がりの中こっそり手を繋いでみたり…
ぽろっと涙が出た。昔の勇斗との思い出が蘇ってきて胸が苦しい。またふたりで出掛けて、ふたりで話して、ふたりしか分からないことで笑い合いたい。
今日の夜、勇斗と話し合おう。
映画が終わって、とぼとぼと帰路に着く。
勇斗のこと考えていたらあんなに観るのを楽しみにしていたはずなのに内容がよく頭に入ってこなくて、気づいたら映画はエンドロールを迎えていた。
歩いてる時なんとなく、見たことのない小洒落たカフェが目に入った。コーヒーでも飲もうかななんて思ってテラス席に目が行く。ぴたっと足が勝手にとまって動かない。
「……勇斗…?」
視線の先では男女がテラス席で談笑していた。咄嗟に電柱に隠れた。
美男美女という表現がピッタリなふたり。
ただその男は勇斗だった。
女性は全く知らない人。とても可愛らしい雰囲気だった。友達って男じゃなかったの?
久しく見ていない勇斗の笑顔。
目尻には皺が少し寄り、手を叩いて大きな口を開けて、笑っている。本当に楽しそうな時にする仕草。家じゃなくても、そうやって誰かと一緒に笑うのか。
「俺だけじゃなかったんだ…」
それは俺だけが知ってる勇斗じゃなかった。
ものすごく恥ずかしくなって、すぐにその場から離れた。早足になる。笑いあってるふたりの声が段々遠くなっていった。
その日勇斗が帰ってきたのは0時近かった。
明日は仕事だったからいつもの時間に寝ようと思っていたが話し合いたくて意地で起きていた。リビングのソファーでうたた寝していたら、玄関のドアが開く音がする。やがてリビングのドアが開いた。
「…あ、おかえり勇斗…」
「…起きてたんだ」
昼間見た時の笑顔とは違う、真顔の勇斗。
どうしてそんな顔するの。
あの人の前では笑っていたのに。
…でもここで怯んではダメだ。
「勇斗と話し合いたくて」
「俺は話し合うことないよ」
「俺はあって、」
「…うるさいな、風呂入ってもう寝る」
「……昼間…、誰と……」
「なに?」
「……ううん、なんでもない」
そ、っと端的に返事をして勇斗は浴室へ向かってしまった。おやすみさえも言う隙がなかった。待っていたのに、話し合いさえもとうとう相手にしてくれなくなった。
勇斗のことを嫌いになりたくない。
なのに、心が冷えていく。
※
「久しぶりー」
「いらっしゃいませ」
翌日、忙しいピークの時間帯を乗り越えた14時過ぎた頃にその男はやってきた。他の従業員は休憩中で自分ひとりで対応している時を狙って来店する人。
店にきたのは数ヶ月前からで週に何回かは顔を出したり出さなかったり…だがこの店の常連客になりつつある柔太朗という男だ。
自分の苗字を「よっしー」というあだ名で呼んでくれる。なぜだか初対面の時から妙に懐かれてしまった。
カウンター席の真ん中。
淹れるところがちょうど見える席に彼はいつも座る。
「いつものちょうだい」
「はい、少々お待ちください」
1週間ぶりの来店。
どうやら撮影などであちこち飛びまわってるようで忙しかったようだ。
「お待たせしました」
「ありがとう」
淹れたてのアイスコーヒー。
カラン、と氷同士がぶつかって鳴る。
嬉しそうに柔太朗はそれを受け取った。
どうも雑誌は読まないから疎いので分からないが割と人気のモデルをやっているらしくて、言うならば容姿端麗という言葉を表すのがぴったりなくらいのビジュアルだ。身バレ防止なのかマスクに伊達メガネをしてるようだが、オーラがもう違うのでそのうちバレやしないか内心ヒヤヒヤはしている。
「よっしーが淹れてくれるコーヒーが1番好きだよ」
「そうかな?でもありがとう、嬉しい」
「お世辞じゃないからね、早く独立してお店出してよ」
「…うーん……」
ちょっと前ならすぐに返事はできた。
でも最近の勇斗との関係を考えると自分の夢を追いかけることに意味があるのかわからなくなってきた。
夢はお店を開くこと。そして1番最初のお客さんには勇斗になってほしい。そんな想いを抱いて今まで勉強もしてきたし、仕事も頑張ってきた。だけど…
「よっしー今日何時まで?」
「え…?今日は早番だったから、16時くらいかな…」
「そっか、じゃあそれくらいの時間になったら裏口の方で待ってるよ」
「…?」
「俺の行きたいところ、一緒に来て欲しいんだ」
※
「お先に失礼します」
早番の業務を終え、制服から私服に着替えて挨拶をする。他の従業員たちから「お疲れさまでした」と言われスタッフ専用の裏口を出れば、柔太朗が壁に背を預けて待っており、こちらに気づくとにこっと笑い近づいてきた。
「ごめんね、仕事終わりに」
「いいよ、全然。…それで行きたいところって?」
「ふふ、いいから着いてきて」
職場から20分くらい歩いたところにそのお店はあった。とても賑やかなところ、そこは。
「……ゲーセン?」
「そ、ひとりで来ても楽しくないしさ」
ゲームセンターなんて何年ぶりだろう。
学生時代、勇斗とふたりで遊びに来たことは何度もあった。あの時は楽しかった。
格闘ゲーム、キャラクターを選んで遊ぶレースゲーム、太鼓を叩くゲーム……
柔太朗も自分も何だかんだで負けず嫌いなのでゲームが白熱する。楽しい。
久しぶりに楽しいって思えてる自分がいる。
「……あっ」
UFOキャッチャーのエリアを歩いていたら、ある黄色いぬいぐるみが目に止まった。キャラクターの名前は特にないようだが、ウサギのような長めの耳がたっており、ジト目が愛らしくて部屋に飾ったら可愛いかなって思ってジッと見つめる。
すると、チャリンと小銭を入れてゲームが起動する音がなった。
「どれが欲しいの」
「…えっ」
「教えて」
「…あ、あの、黄色の……」
おっけーって言ってアームを動かす。
取れそうなところを狙う。だがさすがに一発では取れなくて何度か挑戦する。
「…もういいよ、お金もったいない…」
「いいから、俺が取りたいの……っあ!」
ガコンっと音がして、柔太朗が気になっていたぬいぐるみを「はいどうぞ」と渡してくる。
「ほんとは一発で取りたかったけど」
「……いいの?」
「いいよ、なんか今日元気なさそうだったから」
「…っあ、……」
気づかれていた。
渡されたぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。
さりげない優しさが沁みて、じんわりと胸が温かくなる。
「ありがとう、柔太朗」
「いいよ、ちょっと元気になった?」
「うん、だいぶ」
「良かった」
柔太朗はこの後まだ仕事があるようで、駅まで見送りをしてくれてその日はお開きとなった。
空いている時間。わざわざ自分を元気づけるためにゲームセンターに連れてくてくれたんだと思うと申し訳ない気持ちと嬉しい気持ちが混じり合って湧いてくる。
揺れる電車内でメッセージアプリを開く。
以前連絡先は交換しており、先ほど柔太朗から「気をつけて帰ってね」とメッセージがきていた。マメな男だ、きっとモテモテに違いない。
勇斗からは特に連絡はない。
最後メッセージで連絡取り合ったのいつだっけ。
あぁ、帰ったらご飯作らなきゃ。
楽しかったのに、急に現実に戻ってきた気がして少し気持ちが落ちてしまった。今までこんなことなかったのに。
続
相変わらず優しいjyuさん
あじさい。
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#❤️💛
さぬ
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8,201
コメント
2件
うわぁぁぁぁぁ😭 切ない…😭 かなさんの書く描写が大好きです…!! 続きも楽しみにしています!
読了しました。冒頭の「冷めたコーヒー=心の冷え」の描写、じんわりきましたね。数ヶ月かけて築かれた勇斗との距離感と、ゲーセンで柔太朗に見せてもらった優しさの対比が切なかったです。しかもあの笑顔、主人公だけのものじゃなかったんだ…という発見の場面、胸が痛みました。まだ1話ですが、この先どう抉ってくるのか気になります。丁寧な筆致、すごく好みです。