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グイッと左手を掴み上げられて上方に引き上げられた私は、康平との二〇センチ以上の身長差も相まって、まるで釣り上げられた魚みたいになって。


さっき右手を掴まれていた時の痛みなんて比にならないぐらい力任せに握られた手首に激痛が走った私は、泣きたくなんてないのに目端に涙を滲ませてしまう。


「こうちゃっ、痛いっ」


つま先立ちで一生懸命康平の胸元をバシバシ叩くけれど、彼はそんなの全然意に介した風ではなくて。


「俺と別れてそんなに経ってねぇのに何でこんなん付けてんだよ。春凪はな、お前、もしかしてずっと二股かけてたのか?」


だからあんなにアッサリ俺との別れを受け入れたんだな、とか手前勝手なことを言われて身体を乱暴に揺さぶられた私は、何でそんなことを言われなきゃいけないの?と、悲しくなって康平を睨みつけた。


(私、付き合っていた頃は全身全霊で貴方に尽くしたよ?)


そう思ったら情けなくて堪らなくなる。


「俺、お前を信じてたのに最低だな」


(最低なのはどっち?)


思ったけれど、それを言うのも億劫なくらい、康平とは話す価値もないと思ってしまった。


そんな私を置き去りに、康平が

「けど、まぁいいや。で全部チャラにしてやるよ」

言って、私の左手薬指から指輪を抜き取るから、一気に血の気が引くのを感じた。


「返して!」


それは宗親むねちかさんが私にくれた大事なものなの!


そう思うのに、康平は私の指輪を高く掲げて意地悪くニヤリと笑って。


「こんな高そうなモン、失くしたとなったら婚約破棄かもな?」


宗親さんはきっと、そうなったとしても私を見限ったりはなさらない。

そう思うのに、心のどこかで「でも」と思う自分もいて怖くなる。


何より、宗親さんから頂いた大切なリングを奪われるなんて我慢できなかった。


「まあ、さ。婚約解消されたら俺が結婚してやるから。行き遅れる心配だけはしなくていいぞ?」


必死に指輪を取り返そうと飛び跳ねる私を突き飛ばして、康平がとんでもないことを言う。


「何で今更そんなこと……」


怒りに震える声でそう言ったら、「お前の実家、男が権力持てるんだろ? 最高じゃん!」って……この人は一体何を言っているの?


そもそもそれは宗親さんと出会う前の柴田家の話。


今の柴田うちはそんなじゃないのに。


「康平、色々思い違いしてる」


キッと彼を睨み付けながら、怒りに任せて康平を壁にギュッと押し付けたら、「春凪はな、ちょっと会わないうちに大胆になったな」ってクスクスと笑われて、そのまま康平に抱きすくめられてしまう。


「イヤッ! 離して!」


「俺に先に密着してきたの、春凪の方だろ? ――それにしてもお前、いい匂いだな」


言葉と同時、頭に鼻先を押し当てられて、髪の毛の匂いを嗅がれる気配がして、全身が怖気おぞけ立った。


「この指輪はさ、俺が売って俺たちの門出の資金にしてやるから……年の離れたオッサンなんかとはさっさと別れて俺と結婚しようぜ? な?」


康平は完全におかしくなっている。

そう思うのに、私を捕まえる彼の腕から逃れる術が見つけられなくて。


それでも私は必死に身体をよじって康平の拘束から逃れようと抗った。


「なぁ春凪はな。俺、お前と別れた時にいさぎよくお前の番号消しちまってっからさ。今お前に逃げられたら連絡取れなくなっちまうんだよ」


まるで「逃がさない」と言われているみたいに腕の力を更に強められた私は、痛みに思わず眉根を寄せて。


「また毎日のようにMisoka前ここでいつ来るか分かりもしねぇお前を待ち伏せすんの、もう飽き飽きなんだわ」


勝手なことを言う康平のぼやきを聞きながら、心の中では彼が私の連絡先を消してくれていて良かったと心底ホッとした。


私も康平と別れた後、情けなくて悔しくて悲しくて……。

ほたるに「そんなサイテー男の番号なんてさっさと消しちゃえ」って勧められてMisokaミソカで飲んだ時、ほたるの目の前で康平の番号を連絡先から抹消してある。


だけど自分の番号は変えたりはリセットしたりしていなかったから。


康平が、フった私のデータを潔く?削除してくれていて良かった!と思いながら、どうせならずっと潔いままでいてくれたら良かったのに!と至極当たり前のことを思った。


「坂本さんはお前と違ってしょっちゅうここに来てるけどさ。彼女に聞いても全然教えてくんねぇんだわ。だから――」


そこまで言うと、康平が私の耳に唇を寄せてささやくの。


「手ぇ離して欲しかったら連絡先教えろよ、春凪」


付き合っていた頃は大好きだったはずの康平の声が、今はただただ嫌悪の対象でしかない。


今すぐにでも宗親むねちかさんに「春凪」って呼んでもらって、この寒気がするような不快感を綺麗さっぱり払拭ふっしょくして欲しい。


そんな康平に連絡先なんか教えたくないという意思表示でフルフルと首を横に振ったら、すぐ耳元で康平がチッと舌打ちをして。


「だったら今ここで婚約者んトコに戻れねぇ身体にしてやるけど、それでもいい?」


サラリと恐ろしいことを言って、康平がまるでキスでもしたいみたいに顔を寄せてくる。


私はそんなの絶対に嫌だったから、思いっきり身体を反らせて彼から逃れようともがきながら必死にわめいた。


「嫌ぁっ! 康平! 離して‼︎」


目の前の私から、悲鳴に似た声が口を突いて出ているというのに、一向にひるまない康平に、私は絶望的な気持ちになる。


私はこんなろくでもないひとと一年半も交際していたの?


付き合っていた頃のことまで否定したくなんてないのに、過去まで丸っと無かったことにしたくなるような愚行、お願いだからやめて!


必死に抵抗して私を掴んだ康平の腕を引っ掻いたら痛かったのかな。一瞬だけ彼の腕の力が緩んだ。


私はその隙を逃さず、拘束する腕から抜け出すと道のほうに向かって走り出ようとして。


康平に足を引っ掛けられて前のめりにつんのめった。


「きゃっ」


咄嗟に両手を突いて身体を支えたけれど、両膝りょうひざを盛大に擦りむいてズキッとした痛みが走る。


転んだ拍子に肩にかけていたバッグが飛んで道の方へ滑り出て。乗るあてはない癖にいつも持ち歩いていた真っ赤なハートのチャームキーホールダーが付いた、愛車のキーがカバンから飛び出したのが見えた。


他にも何か出てしまっているかもしれない。


早く立ち上がって拾わないと!って思うのに、ひざが痛くて思うように立ち上がれなくてよろめいてしまった。


痛みに負けてモタモタしていた私が悪いのかな。



春凪はな、急に引っ掻くとか酷くね?」


グイッと肩に手を掛けられて、私は路地裏で仰向けにひっくり返されてしまった。


私の怪我なんてお構いなし。


血が流れ伝っている膝に一瞥いちべつも与えないまま、康平が私を押さえ付けるように馬乗りになってくるから……。


私は「イヤッ!」って拒絶の声を出そうとして、グッと口を片手で塞がれてしまう。

そうして心底面倒臭そうに「騒ぐなよ、うるせぇな」って睨みつけられた。

好みの彼に弱みを握られていますっ!

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