コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「でも母親には透子のこと話したんだ」
「そうなの?」
「うん。透子とは一度会ってくれてるし、透子のこと知ってくれてるから。実は母親は透子のこと気に入ってくれてる」
「ホント!?」
「うん。母親には最初に会った時から、オレがずっと好きで大切に想ってる人だって伝えてたから」
「えっ? 一番最初に樹が紹介してくれた時から?」
「そう。あの時にはまだ透子にはオレの母親だってことは伝えてはなかったけど、母親には仕事上のパートナーでもあり将来も考えてる人だって紹介したから」
「そうだったんだ・・・。嬉しい」
「だから母親は最初から祝福してくれてる」
「そっか・・よかった・・」
今は透子にオレの家族のことを一つでも多く知ってほしい。
そして実際オレ達二人を祝福してくれている母親の話をすると、思っていたように嬉しそうにしている透子。
まだオレ達がこうやって繋がっていない時から、透子は母親を憧れていてくれて。
そんな母親も透子のことは気に入ってくれている。
オレが選んだ相手だからと信じてくれているだけでなく、実際透子に会って、透子の人柄を直接感じて、母親自身透子の人柄に惹かれてくれた。
それが何よりも嬉しい。
「だから近々母親にもちゃんと紹介させて」
「うん。ずっと憧れていたREIKA社長に会うなんて緊張しちゃいそうだけど」
「緊張しなくて大丈夫だよ。案外気さくな人だから」
「うん」
「でも母親も最近忙しくしてるらしくてさ、ゆっくり時間取れるのが今週の日曜の夜らしいんだ。それで、親父も日曜なら大丈夫らしくて・・・。本来なら親父に先に時間取ってもらって説得早めにしたいとは思ってるんだけど、同じ日ってさ~。まさか一緒ってワケもな・・・」
ようやくそれぞれ二人に時間取ってもらえたっていうのに。
そんなうまく重ならなくても。
でも、親父が実際別で結婚の話を持ってきてる以上、一日でも早く透子を会わせておきたい。
「樹。一緒じゃダメかな?」
「え?」
「だって本来は樹のご両親なワケで、樹は二人とも連絡取り合ってるんだし。結婚の話だから二人一緒にお話出来る方がいいと思う。それに今離れているのもお互いを尊重させたからだし。親子3人で会ったことはいつ以来ないの?」
「離婚してから一度もないかな・・・」
「そっか・・。なら、このタイミングで会うっていうのもいいきっかけのような気がする」
透子に言われて初めてそういう選択があることに気付く。
実際オレの中で、二人が離婚してからは自然とお互い別の道を歩んでいて、もう3人一緒の家族としての形は存在しなくなったと思っていたから。
考えもしなかった。
一緒にだなんて。
「そうかもな・・。オレも今の二人の気持ちちゃんと聞いてみたい。オレもこの機会に親父の本当の思いを知りたい」
だけど、自然とオレは親父と面と向かって何かを話し合うことも、気持ちを言い合うことも今までなかったから。
お互いもしかしたら勝手なイメージで思い込んでいることもあるのかもしれない。
きっと今までのオレなら、そんな風に向き合う勇気がなかったかもしれないけど。
でも今は一緒に透子がいてくれるから。
きっと大丈夫。
「だけど、透子はそんないきなりオレらの重い中に一緒に巻き込んで大丈夫? 正直オレも3人で会うなんて随分昔のことで、ちゃんと話せるかもわからないし、二人もどう接してくるかもわからない」
オレは透子がいてくれて心強いのは確かだけど、その反面透子をそんなところに巻き込んでしまってもいいのか。
オレ自身、どうなるか想像出来ない状況で、実際どこまで余裕を持てて対応出来るかもわからない。
そんな状況で透子を守れるのか、透子を不安にさせてしまうんじゃないかと心配にもなる。
「だからだよ」
「え?」
「だから私が一緒に行きたい。もしかしたらお二人にとっては私の存在さえも邪魔に思えるかもしれない。だけど、樹が私の家族にちゃんと寄り添ってくれたみたいに、私も樹の家族のお二人とそうなりたい。私だからこそ出来ることがあるなら力になりたい」
「透子・・・」
「それに・・。やっぱり樹のご両親はそれぞれ好きなことをしてお互いそれぞれの道で頑張ってて。だからこそまた今、家族の絆をまた取り戻してほしい。私の家では叶えることの出来ないご両親との絆を樹にはちゃんと大切にしてほしい」
「そうだよな・・。結局うちは皆逃げてるんだよね。きっと。本当はわかってるんだよ皆。本当はそこに戻りたいくせにさ。今更誰もそれが言えなくなってる。例え戻れなくても、親父と母親の二人はちゃんと今だからこそ伝え合うべきなんだよな」
「うん。それを唯一知ってるのは樹だけでしょ?お互いの気持ちを樹だけは知ってる。だからこそ今樹が伝えてあげてもいいんじゃないかな」
「そうだね。透子にはもしかしたらツラい想いさせるかもしれないけど・・でも一緒にいてくれる?」
「もちろん。きっと樹はそれを乗り越えてようやく本当の幸せを感じることが出来ると思う。だからそれを乗り越えて一緒に幸せになろ」
「時間かかるかもしれないけど透子ついてきてくれる?」
「ついていかない選択なんてある? もう私は何があっても樹についていくだけだから」
「ありがと透子」
あぁ。やっぱり透子だ。
自分のことのように、自分の家族のことのように心配して寄り添ってくれる。
オレだけじゃ意地張って気付けないような部分も、透子は冷静に穏やかに気付かせてくれる。
そして今はそんな弱いオレの姿も、家族との姿を知っても、変わらず好きでいてくれるだけでオレは力強くて胸がいっぱいになる。
オレとの未来を諦めずにいてくれることが、こんなにも支えになって。
少しも迷うことなく真っ直ぐオレを見つめて優しく微笑みながら、オレの力になる言葉を伝えてくれる。
それだけでオレは頑張れる。
今まではずっと一人で向き合わなければいけない問題や現実に、目を背けることも多くて。
逃げているだけじゃダメだとわかっていても、何年もこじれたオレら家族の関係はそう簡単にほどくことはできなくて。
それぞれ思っていることは、なんとなく多分わかっているような気がしても、誰も実際言葉にせず、それぞれの今の場所を守っていただけで。
今まではそれでいいと思っていたことも、本当に大切な存在が出来たことによって、それじゃやっぱりいけなかったのだと気付く。
だけど、それを気付かせてくれたのは、そのきっかけを作ってくれたのは、そんな大切な存在の透子で。
ひるむことなく恐れることなく、オレと一緒にその現実に立ち向かおうとしてくれている。
間違いなく透子の方がきっと不安で心配で仕方ないはずなのに。
オレよりも間違いなく寂しい思いをして大変な思いもしてきたはずなのに、そんなことはまるで感じさせずにただ透子の持ち備えているその温かさと優しさでオレをそっと包み込んで、正しい光が射す方へと導いていってくれる。
時にはその言葉で、時には何も言葉にせずその温かい優しさで。
だから透子の存在だけで、オレは大丈夫だと自然に思える。
こんなにもオレにとってかけがえのない大切な大きすぎる存在の人だから。
離れるなんてことはありえないから。
きっと二人でこのまま一緒にいられること、二人で幸せになれることを信じているから。