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まさかまた家族揃って会う日が来るなんて思わなかった。
自分の中でどこかしらもう同じ場所で交わらないモノだと思っていた。
だけど、今日という日に、どれくらいぶりかわからないほどの年月を経て、オレ達家族が揃う。
そして今日は大切な透子も一緒に。
家族が壊れた日から、いつかこんな風に大切な人を二人に紹介する日が来るなんて夢にも思わなくて。
いや、きっとそれは透子じゃなければ、きっと実現しなかった。
透子が言ってくれたから、今日という日が存在している。
「樹、ここ・・」
そしてその家族で集まる約束した店に到着すると、その店を見て透子が呟く。
「驚いた?」
「なんで・・・?」
透子が驚いてる理由は、この店が透子の弟のハルが働いてる店だったから。
「実はここさ、うちの家族も昔から使ってる店なんだ」
「そうなの!?」
「オレもこの前名前聞いてビックリしたよ。まさかこの店だったなんてね」
「でもハルくんとはあの時が初めてなんだよね?」
「もちろん。中で調理してるだろうから、表には今までも出て来てなかったみたい」
「そっか。ビックリ」
透子からその店の名前を知った時、聞き覚えのある店で。
それはまだ家族として存在してた頃、遠い記憶ながらに覚えていた名前。
二人がその店を気に入って、口にすることが多くて。
小さいながらにもその店の名前はなぜか覚えていた。
その店にハルが働いていて、今はこの店に透子と。
こんな所までなんだか不思議な縁を感じてしまう。
「じゃ、入ろうか」
「うん」
この店に家族以外の誰かと来るとも思ってなかったな。
「いらっしゃいませ」
「早瀬です」
「早瀬様お待ちしておりました。どうぞ」
案内されて店の個室へと案内される。
そして透子と隣同士で座り、まだ来ていない二人を待つ。
「この店さ、親父と母親がオレの産まれる前からよく来てた店らしくて。まだ家族一緒だった頃、3人でもよく来てたらしいんだよね。まぁオレは小さかったから、なんとなくしか憶えてはないんだけど。だから家族が揃うならこの店かなって。3人揃うなんて何年振りかわからないくらいだけど、でも小さいながらもこの店で一緒に過ごした記憶はさ、なんとなく幸せだったような気がして」
「そうなんだ・・。家族の想い出の場所だったんだね」
「そう。だから、ここに透子も連れて来たかった」
「樹・・・。そんな大切な場所に連れて来てもらえて嬉しい」
「うん。これからは透子も家族になるから」
自分にとって家族というモノは今は信じられなくて不揃いでカタチにならないはずなのに。
やっぱりなぜか自分の中ではどこか特別で。
だけど透子がいてくれると、そんな忘れかけていた家族という想い出もその時の幸せだった記憶も想い出させてくれる。
「3人で来たのはオレが小さい頃だったんだけど、それから今までも親父とだったり母さんとだったり、それぞれとは何度も来てはいるんだけどね」
「じゃあ普段からお二人共変わらずこの店にずっと通われてるんだね」
「離婚してるくせに、同じ店使うとかオレ的にはどうなのって思ってたけど」
「それだけ思い入れあるお店なんだね」
「多分そうなんだろうね。あっ、そうそう。シェフに聞いたらハルも頑張ってるらしいよ。結構センスあるってシェフ褒めてた」
「ホントに!? 嬉しい。ハルくん、ちゃんとこのお店で力になれてるんだね」
「透子は初めて? この店」
「うん。初めて。さすがに自分ではなかなか来れなくて。いつか母を連れて来たいとは思ってる」
「そっか」
「でもそんなお店に私も一緒にってなんか緊張しちゃう」
「透子はそのままでいて。そのままオレの隣にいてくれたら大丈夫」
「うん」
「親父が社長だからとか今日はそういうのは関係なく、透子は気にしないで思ったように話してくれていいから」
「あっ、うん・・。でも私、実際社長とは、ほとんど顔を合わせたこともないし、お話する機会も今までなくて・・」
そうだよな。
オレにとってはただの親父でも、透子にとってはまず社長だもんな。
隣の透子を見ると、いつもの透子とは違って少し落ち着かない様子に見える。
透子でもこんな風になるんだな・・。
「透子? 緊張してる?」
「あっ、うん・・。やっぱり緊張しちゃうね」
「実はオレも。こんな風に親父と母親と一緒に会うのも何年振りだろ。なんかいろんな意味でオレも緊張してるかも」
「だよね・・・」
透子にそんな風に声をかけてはみるモノの、実の親子なのにオレも相当緊張していて。
それは久々にこの店で二人と顔を合わせることも、透子を紹介することも、そしてこの先のオレたちの未来がどうなるかわからないことも、どれも今のオレには緊張する材料で。
昔反抗していたあの時は、こんなことなくて。
ただ自分のその感情だけで生きていた人生だったから。
その時のオレがどう思われようがどうでもよかった。
だけど、今は、隣に大切な透子がいるから。
どうしても透子を二人に認めてほしいから。
ただその想いだけは守りたいから。
「でも大丈夫。透子が一緒にいてくれるから。透子にもオレがちゃんとついてるから」
今、透子が隣にいてくれれば大丈夫だと思えるように、透子にもオレがいるから大丈夫だと安心してほしい。
お互いの存在が大切だと思えるように、一緒にいれば大丈夫だと安心出来る。
きっと今のオレと透子ならどんなことでも乗り越えられると、今は迷うことなくそう思える。