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エルル様
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第二話 「起こしてはいけない」
「絶対に起こすな」
夜凪零王の言葉に、その場にいた全員が凍りついた。
神代蓮が叫ぶ。
「何言ってんだ……? 朔の中に、何がいるんだよ!」
零王は答えなかった。
ただ、黒瀬朔を睨んでいる。
いや――
正確には、朔の中にいる“何か”を。
「……お前は知らないのか」
零王が呟く。
「何を?」
零が問い返す。
「自分が何を飼っているのかを」
その瞬間。
朔の身体がぐらりと揺れた。
「……っ」
零が頭を押さえる。
『退け』
別の声がした。
低く、静かな声。
『次は俺だ』
零の表情が一瞬で変わる。
「……嫌だね」
『退け』
「まだ遊び足りない」
『退け』
「……チッ」
零が目を閉じる。
次に目を開いたとき――
そこにいたのは、笑顔の男だった。
「ハハッ!」
蓮が息を呑む。
「……誰だ?」
男は首を鳴らした。
「俺?」
そして楽しそうに笑う。
「焔だよ」
「焔……?」
「そう!」
焔は零王を見る。
「お前、強いんだろ?」
零王の表情が険しくなる。
「……やめろ」
「なんで?」
「その人格は――」
焔が一瞬で消えた。
「――ッ!」
零王が腕を交差する。
直後。
轟音。
床が爆発した。
焔の拳が、零王の防御を正面から叩き潰していた。
「ハハハハハ!!」
炎が二人を包む。
蓮たちは吹き飛ばされる。
「なんだよ……これ……!」
天城迅でさえ、言葉を失っていた。
白峰澪だけが呟く。
「……五人いる」
「え?」
「朔の中には、五つの人格がある」
澪は震える声で続けた。
「でも……」
「五人目だけは、違う」
その瞬間。
炎の中から、焔が吹き飛ばされた。
ドンッ!!
壁に叩きつけられる。
「……へぇ」
焔が口元の血を拭う。
「やっぱり強いじゃん」
零王が立っている。
しかし――
その身体は傷だらけだった。
「貴様……」
零王が拳を握る。
「なぜ、あの力を持っている」
焔は笑う。
「知らねえよ」
そして、さらに笑う。
「でもさ」
焔の目が赤く染まる。
「俺たち五人の中で――」
「一番ヤバいのは俺じゃない」
零王の顔から血の気が引いた。
「……やめろ」
「お?」
「それ以上、そいつの話をするな」
「なんで?」
焔が楽しそうに聞く。
「怖いのか?」
零王は答えなかった。
代わりに――
初めて逃げる姿勢を見せた。
「全員、殺す」
空気が変わる。
蓮が立ち上がる。
「……来るぞ」
零王の力が解放される。
建物全体が震え始めた。
そのとき。
朔の身体が、また止まった。
焔の笑顔が消える。
『……まずい』
零の声が頭の中で響く。
『戻れ』
凪が叫ぶ。
『駄目。もう遅い』
そして――
朔の口が、ゆっくり開いた。
「……静かにして」
たった一言。
それだけだった。
なのに。
零王の力が――
完全に消えた。
「…………」
誰も動けない。
朔が顔を上げる。
瞳は黒い。
何の感情もない。
零でもない。
焔でもない。
凪でもない。
そして――
誰も知らない五人目。
「……久しぶりだね、零王」
零王が震える。
「……お前……」
朔は微笑んだ。
「まだ生きてたんだ」
その瞬間、零王が初めて――
膝をついた。
「……申し訳ありません」
蓮たちは絶句した。
最強の敵が。
誰にも頭を下げなかった怪物が。
ただ一人の少年に向かって――
「……どうか、俺を殺さないでください」
と、震えていた。
コメント
1件
読み終わりました……!「五人目だけは違う」って澪の台詞がずっと頭に残ってて、焔が出てきた時点でバトルの熱量がすごいなって思ってたら、まさかの零王が膝をつく展開。最強の男が朔に「♡♡♡ないでください」って震えるの、ゾッとするくらい怖かったけど、それ以上にこの五人目が何者なのか気になりすぎて続きが待てないです……!