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「まだ死にたくねえよ」
くっく、と含み笑いをしながら彼は言った。「そんなに必死なら、初恋先生にしっかり言えよ。会社の時みたいにさ。社長の顔になって言えば?」
「それができたら苦労しないって……!」
確かに僕はほかの20歳よりしっかりしていると言われる。着眼点も鋭いし、ビジネスに関しては向かう所敵なしだ。でもそれは放置子だったし、コロコロ環境変わったせいで、世間に対する見る目が養われただけ。自分のことは自分でなんでもする子供だったし、いじめられてもじっと耐えられる我慢強さもある。だからこそ株で成功する忍耐が付いた。辛い局面(暴落などで株価が下落する時)も、辛抱強く持ち株を手放さず――つまり、損失を出さずにこれた。
先生のおかげで賢くなれたし、チャート分析はお手のもの。培った技術のおかげで儲かってお金持ちになれた。自分で学費払って大学に行きながら、TENGAの社長もやってる。見る目があるから投資も成功して会社は儲かってる。
でも僕には唯一の欠点が……!
恋愛が超・ド・ウルトラ級オンチってことだけ!!
そして童……(自主規制)。
「睦月。とりあえずさ、ずっと好きだったってことだけをシンプルに伝えたらどうだ? 初恋先生は恩人なんだろ?」
「わかった。言葉にすると軽々しいから、手紙にするよ」
「手紙? またクソ重いこと言い出すなぁ」
潤が運転しながらため息をついた。
「手紙はいいけど、便箋1枚くらいに収めろよ?」
「は!? たった1枚なんかじゃすまないよ! 僕が先生に気持ちを伝えようと思ったら、便箋100枚じゃ収まりきらないんだ。ラブレターでも書こうと思ったら膨大な量になっちゃう」
「だからそれ、相当キモいって。普通に”好きだ”でいいだろ」
「そんなっ! 僕は先生のことを小学1年生から毎日毎日欠かさず想っているんだ。”好き”の一言じゃ終われない! この滾る熱い思いを……」
「あー、それ、いらね。そんなこと言ったらマジドン引きだから。やめとけって。ぜったい、小1から毎日好きだったとか言うなよ。嫌われるぞ。ただのストーカーだと思われる」
なんでだ! こんなに好きだって気持ちを伝えたいだけなのに……!
「考えてもみろよ。便箋100枚以上の大作ラブレターもらったら、普通ヒクだろ?」
「いや。僕は嬉しい。先生専用の保管庫作ってコレクションにする!」
先生からの大作ラブレターなんて、最高すぎる!
「……バカに付ける薬はねえってほんとのことだな」
「は? なんで僕がバカなのさ! 嬉しいって思ったらいけないの?」
「普通は便箋100枚越えのラブレターなんて書かねえよ。そんなクソ重いヤツ、俺だったらゴメンだね。じゃ、こうやって考えてみろよ。今、お前を狙ってるご令嬢の翠子(みどりこ)が、大量のラブレター贈ってきたらどうよ?」
「……やめて」
湯川翠子のことを思いだしたらゾッとした。彼女は僕のほんとうの父親が勝手に組んだ縁談で、中学生の時から交流をしている。
花よ蝶よで育てられた、地方銀行『都京(ときょう)銀行』の支店長の娘。絵にかいたお嬢様のような容姿。栗色の天然パーマは手入れが行き届いていて、切りそろえられた前髪にツンと小ぶりの唇、小さな鼻に大きな目。まるで人形を彷彿とさせる容姿だ。
地方といえども、この辺りの地域は全てこの地銀の世話になっているから、バカにはできない。だからこの地銀の支店長ともなれば、結構な資産を築いている。彼らは互いに自分の子供を政略結婚の道具として利用する目論みなのだ。
勝手に血を分けた子供が生まれていた事実は無視し、僕が男だから連れ戻した。四井グループと都京銀行が手を組むためだろう。翠子は僕を気に入っているようだが、僕は佑里香先生以外の女性はノーだ。冷たく断っているが、どうにも諦めてくれないから困っている。
「だろ? 初恋先生だってそんなクソ重い愛なんか要らねえよ。普通がいいって。ふ・つ・う・が」
「普通がわからないから困っているんだよッ」
これが僕の普通なんだ!!
「睦月。なんで単純に”好き”だけじゃダメなわけ?」
「そりゃ…そこにたくさんの感謝の気持ちとか、僕の想いとか、そういうのが入ってて…」
「それが”重い”の! わかったかお子様」
「くっ……」
言い返せずに唇を噛んだ。
「もういい。僕は僕のやり方があるんだ。先生と結婚できたし、焦らずゆっくりやるよ。僕の愛は重いんだ。仕方ないだろ」
「そんな呑気なこと言っていて、初恋先生盗られても知らねえぞ?」
「え”っ。盗られたりするの?」
「いい女になるには、いい男が水をやらにゃ。こう、濃いぃやつをたっーぷりと。全体的にぶっかける感じでさ。ナカでもいいけど。じゃなきゃすぐに枯れちゃうし、他に持って行かれるぞ」
「濃い水か。わかった。先生のことは大事に愛するつもりだから大丈夫。僕の愛は誰よりも濃いと思うし、盗られることはないよ」
「わかってねえなあ」
「なにが」
「水って白い水のことなんだけど。ま、水って言うのもアレだけど」
「白い水?」
花を育てるための養分の入った水かなにかだろうか。
「潤、それはどこで手に入るんだ? ホームセンターかどこかに売っているのか?」
「……ま、わかんなかったらいいよ。頑張れ、睦月社長」
彼の顔が僕のことを”やっぱお子様だな”と告げていた。
なんでだよっ!!