テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
潤にからかわれながら会話をしていたら、フジノ商社に着いた。専用の駐車スペースに車を停めて外に出る。
代々続く大きな会社だから、当然自社ビルも大きい。TENGAのようにワンフロアを借りたオフィスとは違い、こちらは立派なオフィスビル。都内に広くどっしりとした横長の10階建ての自社ビルは、着工は昭和時代で造りは古い。しかしきちんと整備されていて、外観も綺麗だ。当然、オフィス内もリノベーションされている。しきりもなく、開放的な今風のオフィスだ。
僕はいつも、会社の顔である玄関をしっかりとチェックする。玄関が雑多だと、その会社の内容も雑多な印象を受ける。成功している投資家は、僕と同じ所に着目している。
フジノは合格だ。
受付で名刺を渡して名を名乗り、9時から商談のアポイントがある旨を伝えた。早めの時間にしたのは、商談がうまくいけばスーパーを一緒に回ることができるからだ。遅い時間だと話が進んでもまた日を改めて、となってしまう。鉄は熱いうちに打った方がいい。ビジネスは時間勝負だ。考えている間にどんどん世の流れが変わっていく。株の相場もそうだ。悩む時間は必要だが、悩んでいるうちに流れが変わってしまう。決断は素早く、大胆にするものだ。
商談ブースに通された。すでに営業担当の方が僕たちを待っていてくれた。
商談スペースは広かった。壁の一部はモスグリーンの植物パネルで装飾されている。まるでビルの中に小さな森があるような感覚だ。床は淡いグレーのカーペットで覆われ、足音を吸収して静けさを保っている。モダンなデザインの白いテーブルと黒いレザーチェアが配置され、無駄のない洗練された雰囲気。
中央には、商談用の丸いテーブルが置かれている。テーブルのすぐ隣には、薄型モニターが壁に掛けられており、提案資料を映し出すのに使われるようだ。
フジノの営業の方は正面に立っていた。落ち着いたダークスーツに身を包み、どっしりとした貫禄が漂う。年齢は40代後半といったところか――彼は営業マンらしい笑顔を浮かべ、僕に挨拶をしてくれた。握手を交わし、名刺を交換する。営業の彼の名は、体型とは真逆の細波(さざなみ)と言った。
「いやあ、こんなに若い方が社長だとは…驚きました」
「よく言われます」
僕は自分がとても若いことを自覚している。不安に思われることが多いため、今までの実績や信頼のおける会社にしか投資をしないこと、さらにM&Aの実績なども含めて話をする。
大抵、僕と商談を終えた人は、次のステップに進む。細波さんもそうだ。スーパーの視察までこぎつけた。
彼らのビジネス展望に似合うであろう、ピックアップした数店のスーパーを見て回る。細波さんは食べることが大好きなようで、実際にスーパーで販売している総菜や調理品を用意してもらい、試食をしてかなり満足していた。どっしり見えたのは、食べすぎだったからだと気付いた。それでも、貫禄があることには変わりない。
彼は回った中でも、スーパー・マルヨーをいちばんに気に入っていた。野菜がうまいと言っていた。
最近、商社がスーパー事業を手に入れたいと思うのは、飽和状態のスーパーが閉店ラッシュを迎えているため、ひとつ評判のよい店舗を手に入れ、そこから再編し、商社としてもその事業を成功させたいという目論見がある。
スーパーの方は傾いた事業を合併・子会社化等をすることによって支援を受けられ、生き残ることができる。互いにとって良い話であるが、うまくまとめないと契約の際に問題が生じてしまう。だからこそTENGAが間に入ることによってお互い齟齬(そご)が無いように話し合い、企画なども含めてプロデュース、成功に導かせる。そこでTENGAも投資に乗らせてもらい、契約代行等も含めて利益を出すという仕組みだ。
スーパー・マルヨーはいい店舗であるが、地元密着にこだわりすぎて品ぞろえが少なく、現在はあまり益が出せていない。ここにフジノの資本力が付けば、立地もいいので経営をうまくテコ入れできれば黒字化すると僕は考えている。
しかし、フジノが候補に挙げているスーパーは、マルヨー以外にもある。僕が個人的にマルヨーだけをプッシュするわけにはいかないし、これを決めるのはフジノ側だ。
「いやあ、今日はありがとうございました」
細波さんはその名に相反する大きな体を揺らしながら、満足そうに笑った。食に貪欲な人で良かった。
「御社の意に添えられるよう、こちらも尽力いたします」
さわやかな笑顔で締めくくった。商談はひとまず成功と言えよう。
今日は視察だけでもう夕方だ。あとは潤に仕事を任せて、折り紙にご飯でも食べに行こうかな!
早く先生に会いたい!!