TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

ジリリリリ…ジリリリリ…

目覚まし時計の音が部屋中に響き渡る。

カチ…

「またあの夢か。」

「また退屈な一日が始まってしまった。」


そうやって、生きていることを嘆いて僕の一日が始まる―――。


君と2人で屋上から身を投げ出した日、確実に僕は一度死んだ。心の臓が鳴り止む感覚を、今でも鮮明に覚えている。最後まで笑ってくれていた君の顔が、脳裏に焼きついて離れない。君の手を握る感触が薄れていく感覚も、君の顔がぼやけていく様も、全部本物だった。

それなのに、僕は今こうして息をしている。何事もなかったかのように、朝を迎える。どうしてこんなことになってしまったんだろうか。

僕の心臓が鼓動を止めた後、僕らはかけつけた救急車隊員によってすぐさま病院に運ばれた。2人共に心肺停止の状態で、一刻を争う状況だったらしい。集中治療室に入るや否や、電気ショックによる心配蘇生が繰り返された。とはいっても、当然僕はそのことを全く覚えていない。ここまでは、全て僕を担当した医師が教えてくれたものだ。

僕が再び目を開けたとき、そこには真っ白な世界が広がっていた。

(そうか。ここが天国なんだ。)

僕は心の中で、そうやってひとり呟いた。

「よかった!目を覚ましたのね!」

聞き慣れない声が耳に鳴り響く。

「先生!一〇〇一号室の患者さんが目を覚ましました!早く来てください!」

甲高く、耳に突き刺さるような声。一体誰なんだ。

それから暫くして、また違った聞いたことのない声が聞こえてくる。

「こんにちは。ようやく目を覚ましたんだね。ぐっすり眠れたかい?」

次は野太くて腹に響くような声。しかしどこか、心が落ち着くような気がした。

「ま…眩しい…」

「そりゃあそうさ。君は3週間も眠っていたんだからね。まだ光に目が慣れていないんだろう。」

野太い声の人が僕に語りかける。次第に僕の目は光に慣れていった。

「何にしろ、君が生きていて本当によかったよ。」

野太い声の主は、僕の手術を担当した医者だった。そう。僕が目を覚ました場所は、病室のベッドの上だ。そうか。僕は3週間も眠り続けていたのか。

(なにも、いいことなんてないですよ…)

そう口に出そうとした瞬間、声が思うように出ないことに気づいて焦り出す。声が出ない。今まで当たり前だと思っていたことがなくなることが、こんなにも怖いだなんて想像もしていなかった。必死に口を動かすが、音にならない。かすかに息が漏れるだけだった。

「やっぱり。声が出ないんだね。」

躍起になっている僕を見て、医師が声をかける。

コクコクッ…

首を激しく上下に動かす。今できる精一杯の表現方法だ。

「君はあの日屋上から飛び降りたんだろう。そのときに胸部を強く打ち付けたせいで、気管支が酷く損傷しているんだ。通常はある程度時期が経てば治るんだけどね。君の場合は程度が酷いからどうなることか…」

そうだ。あの日僕は屋上から身を投げた。あれは紛れもなく現実だったようだ。そのことを思い出した瞬間、最後に聞いた救急車のサイレンの音が、耳鳴りのように頭にこだまする。うるさい。そういえば、君はあのあとどうなったんだろうか。なにしろ僕は意識を取り戻すのに3週間もかかってしまったんだ。きっと君は今頃普通の生活に戻っているんだろう。

(僕と一緒に運ばれてきた女性は、どうなったんですか?)

必死に口を動かして伝えようとするが、当然のことながら伝わらない。こういったときのために読唇術でも勉強しといてくれよと、ひとり心の中で愚痴をこぼす。

だめか――――。と肩を落とした瞬間、甲高い声をした女性がメモとペンを持ってきて、医師にそっと手渡した。きっと彼女は看護師なんだろう。

「手は、動くかい?」

医師が僕の目を見て問いかける。

すぐさま指の先へと軽く力を入れてみた。まるで自分の身体ではないかのように、ピクリとも動かない。今度は力を振り絞って全神経を指先へと集中させてみると、かろうじて動かすことができた。無意識に涙が溢れ落ちていることに、僕にかけられたシーツを見て気がつく。情けない。

「なんとか、動くようだね。」

コクッ…

僕は医師の目を見て小さく頷いた。

「これを使って、伝えたいことを書いてごらん。」

そういって、医師は僕に紙とペンを差し出した。 君は無事なんだろうか。今はどこにいるんだろうか。僕とは違って話せる状態だといいな。そんな淡い期待を込めて、言うことの聞かない手でペンを走らせる。

聞きたいことにペンが追いつかない。一文字を紙に記すのにとてつもなく時間を要する。途方が暮れるようなこの瞬間も、医師は静かに僕を見守ってくれていた。

やっとの思いで書き終えた紙を見返すと、自分でも何が書いてあるかわからないほどに震えていた。一か八か。医師に紙を手渡す。


その瞬間、医師の表情が凍りついた―――。

この作品はいかがでしたか?

509

コメント

2

ユーザー

第二章があると聞いて飛んできました。=͟͟͞ ( ˙꒳​˙) 主人公の方は生きてたのか…!果たしてそれは良いことなのか悪いことなのか… まだ物語が続くようなので、嬉しいです。 ミソラアイラさんのペースで進めてくださいませ!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚