こんな、こんな人って変わる???
『ちょっ、ちょっと!イロアスさんっ、離れてっ…』
「えー、さっきローレンって呼んでくれたじゃん!もう1回呼んで?」
『あれは場の雰囲気というやつで…本気にしないでください!』
何度も抵抗するも、聞かずに私のことを再び強く抱きしめるイロアス。肩に顎を乗せて頭をグリグリしてくる様子は、なんだか弟みたいで愛らしい。
ってダメダメ。こういう事するやつは女慣れしまくってるクズ男なんだから!
私には雲雀だけ!!!
イロアスに『離れてください。』と言おうと腕を伸ばした瞬間、私の腕ではない腕が私に抱きつくイロアスを引き剥がした。
「ロレさん、瑠花嫌がってる」
「え、何その顔。…もしかして、そこデキてる?」
『は?』
イロアスの発言に頭が真っ白になる。
私が、雲雀と?こいつ何言ってんだ。
『イロアスさん…私別に雲雀と付き合ってな…』
「そうって言ったらどーすんの」
『え?』
思いもよらない発言に、また頭が真っ白になった。何度私は脳内リセットをされないといけないのか。
「マジか!!!え、えー!ひば、そういうの教えてくれたって良かったのに!」
キャッキャとはしゃぐ子供みたいに喜ぶイロアス。それと反対にギターを持ちながら顔が真っ青になっている湊が雲雀の横にいて、若干、「瑠花に…彼氏…え…?ひば…」って喋っているのが聞こえた。
雲雀は真剣な表情で、どこか怒っているようなオーラを出していて。
「だから、瑠花とくっつかんといてくれん?」
「おー、まあそういうことなら!瑠花ちゃんごめんねー?」
『は、はあ…』
離れてくれたことは嬉しいけど、何故か私は雲雀と付き合っていることになっている。
頭がハテナだらけになって、多分変な顔をしているであろう私に察しかついたのか、雲雀は「ちょっとわっちさんと瑠花とで忘れ物取りに行ってくる!同じクラスだし!」と言って私と湊の腕を引っ張って教室から出ていく。
『ちょっ、雲雀っ…?』
急に立ち止まったと思ったら、こちらを振り向いて深々と頭を下げてきた。
「ごめんっ!ロレさんに嘘ついちゃった…。俺、結構混乱してて…」
「あー、そういうことだったんだ。てっきりホントに付き合ったのかと。」
そう言って、理解をしたのか頬をかく湊。
私もそれを言われて理解して、すっからかんだった頭も回復した。
「ほんっとごめん…なんか、ロレさんと瑠花がらくっついてるの見たら咄嗟に…」
『い、いいよっ!結局離れてくれたし…ありがとうね…!』
雲雀を慰めようとしているのもあるけど、ほぼ本心。私が嫌って思ってたの、気付いてくれたんだ。
ほわほわと嬉しさが込み上げてくる。
『でも…イロアスさんをずっと勘違いさせとく訳には…』
「あの…お願いがあるんだけど」
「ロレさんの前では、俺たち付き合ってる設定にしない…?」
「『…はい?』」
湊と共に、変な声が出た。
私が?推しと?好きな人と?付き合ってる設定?
いやいや、え?イロアスの前でだけだとしても、やばいでしょ。ただえさえ雲雀、四天王って言われるくらいモテるのに…!
こ、断らないと
『ひっ、ひばり、さすがにそれは…』
「あれ、お前ら廊下でなにしてんの?」
3人で廊下でソワソワしていたら、奥から聞き覚えのある声が響いてきた。
『ヒ、ヒム?なんでここに』
「いやこっちのセリフだよ。俺は文化祭の準備で来たけど…。日森は別の部活でしょ?なんでここに居んの。」
『ぶ、文化祭の準備?』
あぁ、確か、そんなこと先生が昨日言ってた気がする。
朝の2時間は文化祭の準備とか練習…だっけ。
『え、待って、もしかしてここの教室軽音部の教室?』
「「「そうだよ。」」」
3人同時に私を見て言ってきた。
なんか面白くて、少しクスッと笑ってしまう。
『はーあ…。というか、ヒム!!なんでここの学校にいるの?』
「あれ、言ってなかったっけ。俺、まあ家庭の事情でこっちの高校に転校してきたの。…ひばと一緒に暮らしてんのも、そういうこと。」
『あ、あー…!なるほど…』
合点がいった。朝に聞きそびれたことも今解決して、すごくスッキリ。
『文化祭の準備なら、私部活行かないと…』
「え、日森部活入ってたの?どこ?」
興味津々に聞いてくるヒム。
身を乗り出して聞いてくるものだから、思わず顔を逸らしてしまう。
『あっ、えっ、えっと…』
「瑠花は手芸部だよね。」
答えようとしたら、横から雲雀が口を挟んできた。だいぶ食い気味で言ってきたので困惑したが、その前に私の部活を知っていてくれていたのが嬉しくて飛び上がりそうになった。
「なんでひばが知ってんの…。…てか、手芸部だったんだ!まあたしかに昔っから俺の顔の人形とか作ってくれてたもんね。」
『うわぁ、懐かしいそれ。今はあんな低レベルじゃないけどね』
「ふーん?それは期待大だね〜。文化祭楽しみにしてる」
湊と会話を弾ませてたら、頬を膨らませた雲雀が私たちをじーっと見ていた。その横でヒムはブツブツと何かを呟いてて、雲雀が会話に入りたそうな顔をしているのに気付いてなかった。
『じゃっ、じゃあ!文化祭に向けての練習頑張って…!私も部活行ってくるっ』
3人を置いてダッシュで手芸部が活動している部室に向かった。
すっかり、イロアスに勘違いされていることを忘れて。
「瑠花っ!?待っ、」
呼び止めようとしたけど、わっちさんに止められた。
「瑠花も部活入ってるんだから、俺らも俺らで練習しよ」
と言って。
なにか呟いてるイブの腕を引っ張って部室に入ると、早速ベースの手入れをしているロレさんがいた。
『ロレさんごめんっ!めっちゃ待たせた!』
「ん。おかえり〜。…あれ、イブ来たんだ!」
俺の後ろにイブが見えた瞬間、目を光らせたロレさん。
イブはそのまま教室に入っていき、ギターを手に取って音響調節や音程を合わせようと作業し始めた。
『俺もちょっと歌覚えないと』
「んー、いぶ〜。俺も練習する〜」
イブの方によっていく湊。
個人練習を始めようと、それぞれ持参の楽器を持って練習をし始めた。
俺も練習しようと楽譜を取りだし、高音と低音の喉の調節、発声練習をしてみたりする。
「…てか、瑠花ちゃんどこ行ったの?部活?」
『うん。』
「瑠花ちゃん部活入ってたんだ!どこなんだろ?遊びに行きたいわ」
「お前絶対追い出されるからやめとけ。瑠花、お前みたいなタイプ嫌いだし」
イブが突然、口を開いた。
なんで、イブがそんなことを知ってるんだろう。
俺の方が瑠花のこと、知ってるし。
「へ〜。でも瑠花ちゃんホント可愛いよなー。軽音部入ったら四天王じゃなくて五天王になんじゃね?」
自分が言ったことに爆笑してベースをバシバシ叩くロレさん。イブはそんな様子に少し引きながら、ギターの音響調節が終わったのかわっちさんと合わせて弾き始めた。
彼らのギターは誰もが惹かれる。俺も、その1人。
「は〜、やっぱうめえな。」
『ロレさんも十分なくらい上手いでしょ。』
「ハハッ、ありがと。お前は歌わないの?」
『そうだな〜…一回4人で通そっか。』
マイク立てを手にして、足で合図を送る。
すると、部室はベースとギターの音で溢れ返った。
そして、口を開く。
文化祭の準備、練習をする時間は終わり、次々と教室に戻ってくる生徒たち。
その中に雲雀がいないかキョロキョロしてみたら、湊と一緒に教室に入ってくる雲雀を見つけた。
こちらに気付いたのか、笑顔で手を振ってくる雲雀。好き。
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うん、好き