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次の日から、案の定、私と七海の意識はお互いに向いていた。
ふとした瞬間に視線がぶつかり、私から逸らすというルーティーン。それが一日に何度も繰り返されていた。
あれだけ説明したが、きっとまだ信じていないのだろう。疑い深いのも、人間の特徴だ。
面倒くさいと思うことも多々あるが、仕方のないことだ。
そんなこんなで一日を終え、家に帰ろうとする。
今日もまた、人を地球に返さなくてはならない。
しかしその緊張感も、アイツに壊される。
「おい、天野」
放課後の教室にて、予想通り七海に声をかけられてしまった。
無視しようか。そんなことも考えたが、誰もいない教室で聞こえていないふりは出来ない。
七海に目を合わせぬよう、返事をする。
「……何?」
「知りたいことがあるんだけど」
馬鹿な。昨日、大体のことは話したというのに。
昨日の説明が、何か不足していたか?
「天野って、なんでいつも寡黙なの?」
………予想と違う質問だった。
もっとこう、昨日の現象とか、私の正体とか、そういうデリケートな部分に漬け込んでくるのかと思っていた。
思い込みで決めつけては駄目だな。改めて思う。
それはそうと__
「寡黙の理由を聞かれましても」
特に意味は無いのだ、私が無口なことについてなど。
意識的に言葉を発さないようにしているわけでもないのだ。それなのに、その事象の理由を答えろと言われても……
「だって、天野は日中、全く喋らないだろ? 俺、天野の声を聞いたの、昨日が初めてだったんだけど」
「そんなわけないだろう。喋るときは喋るぞ」
「だからって、天野の声を聞いたこともない俺が、何十人もいるクラスの中で天野の声を聞き分けられる訳ないだろ」
「別に全員が同時に話してるわけじゃないだろ。何、聖徳太子にでもなろうとしてるの?」
「お前さぁ……」
思ったことをそのまま告げただけだが、彼はなぜかお怒りのようだ。
ふっと溜息をついた後、再び問うてくる。
「で、なんで黙ってるの? もっとフレンドリーにみんなと話せばいいんじゃないってこと」
なるほど、それを先に言ってほしかった。
「別に、他人と仲良しこよしする気無いから」
そうだ、会話など意味がない。
会話は人間が意思疎通を図るためのいち手段に過ぎない。意思疎通をする方法は他にもある。だから、わざわざ体力を消耗する会話に振り切るのは意味がないのだ。
「そ、そう……」
七海は少し困り顔で引き下がった。
一体何だったのだろう、今の時間は。
私は「じゃ」と一言だけ言い残し、教室を出た。
しかし次の日も、そのまた次の日も、放課後には七海と二人になり、七海にいくつか質問された。
具体的には、「休日は何してるの?」「おすすめの本ある?」「最近流行ってるこのグループ知ってる?」などと、至って平凡な質問。意味があるのか、需要はあるのか分からないが、答えない義理もないし、答えたとて、私に影響は一切ないのだから、軽く答えている。
「どうしてそんな質問してくるの?」
ふと疑問に思って聞いた。
私のことを知っても、彼にもメリットはほとんど見受けられないはずだ。どうしてこんな他愛もない質問コーナーを続けているのか、純粋に気になった。
「別に。天野のこと、もっと知りたいから、質問してるだけ」
そう帰ってきた。
七海のことが掴めない。全く分からない。
気が付くと、放課後の時間は私と七海の暗黙のルールになっていた。