テラーノベル
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その夜、白い猫が窓の外にいた。
月の光を背に、じっとこちらを見ている。
「泣かないって、決めたんだね」
猫はそう言った。
猫が言葉を話してる。そのことを、怖い、とも不思議だとも思わなかった。
「泣いたら全部、なくなっちゃいそうだから」
わたしはそう答えた。
本当は、あの子と一緒に過ごす時間が一番楽しかったって気持ちも。
それを他の誰にも言えなかったことも。
「忘れたくないんだね」
猫は、そう言った。
「形にすれば、なくならない。
魔法少女になれば、きちんとしまっておける」
それを聞いて、すこしだけほっとした。
ちゃんと誰かを助けられる何かになれる気がした。
そしてわたしは、魔法少女になった。
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変身すると、体が光に包まれた。
ピンク色のフリルが沢山ついたドレス。
腰に巻き付いた白いリボン。
手には、銀色の杖。
猫は魔法の使い方を教えてくれた。
ぎざぎざした牙のある、黒くてもやもやした怪物が近づいてくるのがこわかった。逃げたかったけど我慢した。
こんなに怖い思いをしたのに、だれかをちゃんと守れたのか、分からなかった。
はじめての戦いが終わった後、最初に気づいたのは、頬を伝う冷たさだった。
涙だと思った。でも、ちがった。
ぽろり、と、何かが手のひらに落ちる。
月の光に照らされたそれは、つるっとして、白く光っていた。
「その真珠はきみの感情の結晶だ」
猫が説明する。
「恐怖、後悔、悲しみ、痛み。声にならなかった言葉たち。
それらが形になって、溢れ出る」
戦うたび、真珠は、わたしの頬から、手から、時には胸から、零れ落ちた。
これは、わたしのがんばった証なんだと思った。
「きっと、すごくがんばったから、こんなに大きいんだ」
拾い上げた真珠は、手のひらの上でひんやりしていた。
月の光に当たると、白くきらりと光る。
こんなにきれいなものが、わたしの中から生まれたなんて。
それが少しだけ誇らしかった。
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