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ゼノとトラビスが馬の鞍を直して出発の準備をしているのに、捕虜の僕がボーッと座って待ってていいものか。

しばらくぼんやりと二人を見ていたけど、僕のことを怪しんでいるジルとユフィ、テラがチラチラと見てくる。そのうちジルがこちらへ来ようとする姿が見えたので、僕は慌ててゼノ達の方へ行こうと立ち上がる。

その時、いきなり腕を引かれた。勢いよく振り向いた僕の目にリアムが映る。

「リア…」

「しっ!」

リアムは自分の唇に人差し指を当てると、離れた場所にいるゼノを見てイタズラをする子供のような顔をした。

「ついて来い」

「でも…」

「大丈夫だ。今ならゼノは気づいていない」

僕はゼノを見て戸惑う。

勝手について行っていいのかな。でもリアムはゼノの主だしリアムが何をしようと逆らえない。それに協力してくれるって言ってくれたし…。そもそも僕に拒否権はない。今は捕虜なのだから。

僕はリアムと目を合わせると、小さく頷く。

途端にリアムは楽しそうに笑って、僕の腕を引いてどんどんと森の奥へと入って行く。

話し声が聞こえなくなるほど皆から離れた。ようやく足を止めてリアムが僕の方へ身体を向ける。

「悪かったな、急に連れ出して」

「いえ…僕、なにかしましたか?」

「なにも。俺がおまえと話したかっただけだ」

「僕と…?」

「そうだ」

近くに倒れた大きな木があった。リアムがそこに座り、僕を手招きする。

捕虜はこういう時、敵国の王族の傍に行っていいものなのだろうかと考えていると、リアムが手を伸ばして僕の手を握り引き寄せた。

「あっ」

「何をしている。早く座れ」

「でも…失礼じゃ…」

「俺がいいと言ってるんだからいい。おまえ、俺が誰だか知ってるのか?」

「もちろんです。バイロン国の第二王子…リアム…様」

「そうだ。放浪癖のある第二王子だ。おまえの名はなんという」

僕は一瞬口ごもる。本当の名を、言ってもいいよね?今のリアムは、僕に関する記憶がない。

「僕は、フィル…と言います」

「フィルか。いい名だ。緑の瞳も美しい」

「ありがとうございます…。リアム…様の紫の瞳も、とても美しいです」

「そうだろ。これは母上から贈られたものだからな、俺の自慢だ」

リアムが得意げな表情をする。母親のことを大好きなんだろうな。羨ましい。僕は母上のことを嫌いではなかった。だけど好きかどうもわからない。愛されたことがなかったんだもの。

俯いてしまった僕の顔を、リアムが覗き込んでくる。

「フィルの瞳は?誰に似ている?」

「…母上です」

「そうか。おまえの母親も、きっと美しいのだろうな。おまえが捕虜になって心配しているだろう」

「もう亡くなっていませんので…。僕を心配する家族はいません」

「そうなのか?」

一瞬、ラズールの顔が浮かんだが打ち消した。僕と血の繋がった家族はもう、誰もいない。一番に消えなければならなかった僕だけを残して、もう誰もいない。

目と鼻の奥が熱くなり、意図していないのに泣きそうになる。

その時、いきなりリアムに抱きしめられた。どういうことかわからずに僕の身体が固まる。しかしすぐに離れようとリアムの胸を押した。

「あのっ…放して」

「ダメだ。放さない。おまえが辛そうな顔をしてるから、放さない」

「どうし…て…」

どうして?僕のことを覚えていないのに、どうしてこんなことをするの?僕のことが気になるの?だったら早く僕を思い出して。思い出して迎えに来て…っ。

「泣いてるのか?」

「ちが…う」

「よくわからないが、俺のせいだとしたら…すまない」

「ううっ…」

僕はリアムの胸に顔を押しつけた。泣き顔を見られないように強く押しつけて、声を殺して泣いた。

リアムが僕の髪を、背中を、優しく撫でる。撫でてあやすように小さくトントンと叩く。

愛しい人の匂いと温もりと「大丈夫だ」と囁く声に、僕の気持ちがだんだんと落ち着き涙が止まった。

涙が止まると急に恥ずかしくなってきて、僕は慌ててリアムから離れようとする。

だけどリアムが強く僕の肩を掴んで放してくれない。

「あの…泣いてしまってごめんなさい。もう大丈夫ですので、放してください」

「無理だな」

「え…?」

「なあ、ゼノは本当におまえを部下にしようとしてるのか?恋人じゃなくて?」

「え?ええっ!違います!ゼノ…殿はそんな風には微塵も思ってませんっ」

「まことか?でもなぁ、あいつが誰かを連れて帰るなんて初めてなんだよな。しかもこんなにきれいでかわいい子だろ。怪しいよなぁ」

ゼノが僕を連れているのは、僕がイヴァル帝国の王で、リアムの恋人だからだ。やむを得ず連れて行かなければならなくなっただけで、特に深い意味はないのに。

僕はリアムを見上げて言う。

「ゼノ殿は、リアム…様の忠実な部下だと聞いてます。その…リアム様に隠しごとはしないと思います」

「まあそうだな。ゼノが俺に頼みごとをするのが珍しいと思い、おまえを部下にしたいという申し出を聞いてやったんだ。だが…気が変わった」

「…え?」

僕は一気に青ざめる。

リアムに触れられて喜んでいる場合じゃなかった。油断した。僕は今、リアムの恋人じゃない。リアムからすれば敵国の捕虜だ。僕を不審に思い、ゼノから離して処刑するつもりかもしれない。

いやだ。なにもできないまま、今ここで死ぬわけにはいかない。

僕は暴れた。めちゃくちゃにリアムの胸を叩き、驚いたリアムの腕が緩んだすきに逃げ出す。だけどすぐに捕まり、両手をひとまとめに掴まれて大木に背中ごと押しつけられた。

リアムが鋭い目つきで僕に顔を寄せる。

「なぜ逃げる」

「僕をっ…殺すんだろ!だから逃げたんだっ。僕はまだ死ねない…こんな所で死にたくないっ」

「なにを言ってる」

「だって…っ、気が変わったって言ったじゃないか!敵国の捕虜なんて邪魔なんだろっ!僕だって捕まりたくて捕まったわけじゃないのに…」

僕はなにを言ってるんだろう。頭の中がぐちゃぐちゃだ。とにかくリアムに僕のことを思い出してもらえないまま、死ぬのが嫌なんだ。

「バカめ…早とちりをするな」

「なに…が…んっ」

涙で潤む視界でリアムを見た。

リアムは目を細めると、いきなり僕にキスをした。

銀の王子は金の王子の隣で輝く

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