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天界ー
天界では、眠っている天帝の代わりに毘沙門天(ビシャモンテン)と観音菩薩等が慌ただしく業務に勤しんでいた。
ドタドタドタドタ!!
「はぁぁぁー!!天帝代理になってから休み無しですよ!!観音菩薩殿!!」
沢山の書類を仕分けながら、観音菩薩専用の使用人が呟いた。
*見た目は七十歳ぐらいのお爺さん*
観音菩薩は長い髪を束ね、1枚1枚資料を読んでいた。
「忙しい事は良い事じゃない。」
「いやいや、忙しいの度を越してますよ!?私、3日は寝てませんよ!?」
「アハハハ!!歳食ってる場合じゃねーな!!」
「笑い事じゃありませんよ!?全く…、貴方は私がいないと本当に駄目なんですから…。」
「爺は私の面倒を見ていた方が丁度いいんだよ。やる事がなかったらつまんないだろ。」
観音菩薩がそう言うと、使用人は溜め息を吐きながら再び作業に戻った。
観音菩薩の机の上にある水晶玉に映像が流れた。
映し出された映像には、悟空が苦しんで寝ている姿と三蔵がどこかに移動している所だった。
観音菩薩は映像を見てすぐに2人の現状が分かった。
「あらら…。」
ゴソゴソ…。
観音菩薩はそう言って、机の引き出しを開けて何かを取り出した。
「ねぇ、お休みが欲しいって言ったよな?」
「え、え!?お休みくれるのですか!?」
「お使い。」
「へ?」
使用人の顔を見た観音菩薩はニヤリと笑った。
「下界にこれを届けに行ってくれ。」
観音菩薩はそう言って小さな袋を渡した。
その頃、下界ではー
猪八戒と孫悟空、黒風は泊まる予定だった宿に到着していた。
孫悟空は汗を大量にかきながらベットで寝ていた。
「おい、本当に大丈夫なのか?」
猪八戒は心配そうに悟空に尋ねると、「あぁ…。」と短い返事が帰って来た。
「大丈夫じゃねーだろ。起き上がれないだろお前。」「うるせぇ…な。少し寝れば良くなんだろ。」
悟空はグッタリとした様子で、ベットから起き上がる事が出来なかった。
猪八戒が悟空に何度か話し掛けたが、悟空は小さな寝息を立てて眠ってしまった。
「悟空さん…。大丈夫なんでしょうか。」
「とりあえず、今は寝かせといた方が良い。三蔵が攫われちまったのは俺の責任だな。ちゃんと三蔵の方に気を張らせておけば良かった。」
猪八戒はそう言って、悟空の額に置いていた布を取り再び水に付けた。
「猪八戒さん…。」
黒風は心配そうな顔をして猪八戒を見つめていると、悟空が重たい体を引き摺りながら体勢を変えた。
悟空が猪八戒の顔が見えるような体勢になると、悟空が猪八戒の頭を強く掴んだ。
ガシッ!!
「いだだだだだただだた!!?」
「ご、悟空さん?!な、ななな??!」
猪八戒と黒風は悟空の行動に驚いた。
痛がっている猪八戒を見て、悟空は手の力を緩め口を開けた。
「テメェはそんなに偉いのかよ。」
「へ?」
「誰がお前1人に任せるかよ。あんなの誰も予想してなかっただろうが。」
「あ、あぁ…。」
「それにお前に心配される程、俺は弱くねーよ。責任だクソだって話しをすんなら、俺を楽させるような作戦を黒風と喋ってろ。俺は少し寝る。」
悟空はそう言って、猪八戒の頭から手を離し2人に背を向けた。
「痛かった…。ったく、悟空の奴。」
「悟空さんはそう言う人なんです。悟空さんは誰かを責めたりしないんです。悟空さんは、猪八戒さんの事をな、慰めようとしたんじゃないですかね…。」
黒風はそう言って、背を向けて寝ている悟空を見つめた。
「素直じゃねーなコイツ。」
サラッ。
猪八戒は悟空の髪を撫でながら呟いた。
「三蔵と合流するまでは悟空を無理させないようにしよう。黒風、三蔵は移動していないか?」
「確認してみます!!」
黒風が手のひらから天地羅針盤を取り出そうとしたが、猪八戒が「待て。」と言い黒風の動きを止めた。
「猪八戒さっ…。」
「しっ。」
黒風が猪八戒に声を掛けようとしたが、猪八戒が自分の指を唇に当てながら銃を取り出した。
コンコンッ。
突然、扉がノックされ黒風の体がビクッと反応した。
猪八戒は黒風よりも早く人の気配を感じ、銃を取り出していた。
寝ている悟空はピクリとも動いていなかった。
猪八戒は指で黒風に向かって、悟空の側にいるように指示をした。
黒風は猪八戒の指示に従って悟空の側に移動した。
「すみません。こちらに悟空さんと言う方はいらっしゃいますか?」
歳を取った男性の声が扉の外から聞こえた。
猪八戒は何故、この爺さんは悟空の存在を知っているのか疑問に思った。
そして、悟空がこの部屋にいる事を知っているのにも疑問が湧いた。
猪八戒は警戒心を強くし扉を開けた。
キィィィ…。
扉の外にいたのは、白くなった長い髪を後ろで束ねている七十歳ぐらいのお爺さんが立っていた。
「あ!!夜分遅くにすみま…。」
猪八戒はお爺さんの足を首を蹴り、お爺さんを床に転がらせた。
ゴンッ!!
お爺さんは体を床に強く打ち痛そうな声を出したが、猪八戒はお爺さんの上に跨り銃を突き付けた。
カチャッ。
「ひ、ひぃ!?」
「爺さん。アンタ何者?何で悟空の事を知ってんだ。」
「あ、あ、あの。」
「さっさと答えろ。」
猪八戒はそう言って、銃口を頬にグリグリ押し付けた。
「わ、私は観音菩薩殿の命令でここに来たんです!!!」
お爺さんの声が廊下中に響き渡った。
宿に泊まっている他の客達が部屋から出て来ようとしているのを見た猪八戒は、お爺さんを引っ張り上げ部屋に引き摺り込んだ。
ガチャンッ!!!
「あいたたた…。」
お爺さんは腰を撫でながら小さい声で呟いた。
「全く…、相変わらず喧嘩早いですね天蓬元帥(テンポウゲンスイ)殿。私の事を忘れてしまいましたかね…。あれから何百年も経ってますから忘れていても仕方がないのですが…。」
お爺さんの言葉を聞いた猪八戒は、ジィーッとおじの顔を見つめた。
そして、しばらくして「あ!!」と声を出した。
「思い出した!!アンタ、確か観音菩薩の世話をしてた爺さん!!老けたなー。」
「そりゃ、何百年も経ってたら歳を取ります!!爺さん…って。」
「2人は知り合いだったんですか?」猪八戒とお爺さんの会話に黒風が割って入った。
「あ、あぁ。さっきも言った通り観音菩薩の世話をしてる爺さん。天界人だよ。」
「か、観音菩薩さんの!?そ、そんな方がどうして下界に?」
「あ、確かに。何で来たの。」
猪八戒と黒風はそう言って、お爺さんを見つめた。
「だから、さっきも言ったでしょう?観音菩薩殿の命令で来たんです。悟空さんにコレを渡すように言われたので。」
お爺さんはそう言って、高級な布に包まれた小さな荷袋を猪八戒に渡した。
「この袋って何?」
「さぁ?私は中身を見ていないので分かりませんね。そろそろ私は失礼します。」
「あ、そうなの?来たばっかじゃなかった?」
「今、天界は忙しいんですよ…。失礼します!!!」
お爺さんはそう言って、慌ただしく部屋を出て行った。
パタンッ!!
「慌ただしい奴だな…。中身は何だ?」
猪八戒はそう言って袋を開けた。
袋を開けると、錠剤の漢方薬3個と紙切れが入っていた。
紙切れを見て見ると一行だけの文字が書かれていた。
「悟空に飲ますべし」って、この漢方薬を飲ませば良いのか?」
「僕、お茶を用意して来ます!!」
黒風はそう言って、お茶の用意をし始めた。
「おい、悟空。起きれるか?」
猪八戒は優しく悟空の肩を叩いた。
「……あ?何?」
「さっき、観音菩薩の使いでお前に漢方薬を持って来てくれたんだけど。」
「観音菩薩の使いだぁ?全然、気付かなかったわ。」
悟空は重たい体を起こした。
「悟空さん、お茶です。」
「あぁ、悪いな。」
「これ、漢方薬な。」
黒風からお茶の入ったコップを受け取り、猪八戒から漢方薬を受け取った。
お茶を口に含み漢方薬を飲み込んだ。
悟空の口の中から苦味が広がった。
「うげぇぇぇぇ…。」
不味そうな顔をした悟空に猪八戒は話し掛けた。
「何?不味い?」
「体調はどうなの?」
猪八戒に問い掛けられた悟空はベットから立ち上がった。
悟空はそのまま軽く体を動かしてみた。
「あ、体が軽い。それに右手も痛くねーわ。」
「本当か?それは良かった。」
「やっぱり観音菩薩さんは凄いです!!」
「じゃあ、行くか。」
「「え?」」
悟空の言葉を聞いた猪八戒と黒風は驚いた。
「行くって…?まさか。」
「あ?まさかって何だよ。さっさと行った方が良いだろ。」
「お前、一応は病み上がりなんだぞ?少しは休んだ方が…。」
「漢方薬が効いてるうちに行っといた方が良いだろ。」
悟空はそう言って、窓を開けた。
「何故に窓を開けた?」
猪八戒の言葉を無視しながら悟空は指を咥えた。
ピューッと悟空が口笛を吹くと、窓の外から大きな雲が現れた。
「な、何で雲が!?」
「あ!!悟空さんの技ですよ!!」
「技?」
「おら、さっさと行くぞ。」
そう言って悟空は、呼び出した筋斗雲(キントウン)に飛び乗った。
「え、それに乗っても大丈夫なの?」
「大丈夫に決まってんだろ。黒風も乗った事があんだから。」
悟空の言葉を聞いた猪八戒は黒風に視線を送った。
「大丈夫でしたよ!!失礼します!!」
黒風はそう言って、筋斗雲に飛び乗った。
猪八戒は恐る恐る筋斗雲に飛び乗った。
「おっ、おおお…。フワフワだな。」
「大丈夫だろ?」
「雲なのに…。」
「悟空さん!!三蔵さんのいる位置はこっちです!!」
黒風は天地羅針盤を取り出し、三蔵のいる位置を一筋の光を放った。
「じゃあ、行くぞ。」
「さっさと連れ戻してやろうぜー。」
大きな筋斗雲の上にいる悟空と猪八戒、黒風は三蔵を救出すべく、夜空を駆け抜けて行った。
一方、三蔵はと言うとー
源蔵三蔵 十九歳
何故、俺は俺を攫った奴等と一緒に飯を食う事になったのだろうか…。
大きなテーブルが何個かある部屋に案内され、沙悟浄が次々に料理を作りテーブルに運んで行っている。
「頭!!今日の飯も最高です!!」
「当たり前でしょ!?頭が作ったんだから!!」
下っ端妖怪達が騒いでいるのを陽春が一括している。
この状況は何なのだろうか…。
「どうしたの?食べないの?」
俺の隣に座っている緑来が話し掛けて来た。
「あ、あぁ…。食べるよ食べる…。」
「頭はここにいる奴等の飯を作って食べさせてくれるんだよ。」
「アイツ料理するんだな。」
「アハハハ!!見た目はしなさそうだよね。けどさ、ここにいる妖達は君の仲間からしたら雑魚妖怪なのかもしれない。だけど、そんな俺達を仲間にしてくれたのが頭なんだよ。」
緑来はそう言って遠くにいる沙悟浄を見つめた。
「頭はあたし達の神様なの。だから、あたし達は頭に付いて行くし、役に立ちたいの。」
「2人は大好きなんだな沙悟浄の事。」
俺の言葉を聞いた陽春は茹でタコみたいに真っ赤になった。
「おい、何の話をしてんだよお前等。」
料理を作り終えた沙悟浄が俺達が座ってる机に現れた。
「か、かか頭!?いつからそこにいたの!?」
「あ?今だけど。ほら、お前これ好きだったろ。」コトッ。
沙悟浄はそう言って俺の前にちまきの乗った皿を置いた。
ちまきは俺の好きな食べ物だ。
「ちまきじゃん!!俺の好物なんだよ!!」
俺は現れたちまきを見て興奮してしまった。
そんな俺の反応を見た沙悟浄は鼻で笑って意地悪な表情を見せた。
「ハッ。お前は昔からちまきが好きだったよな金蝉(コンゼン)。」
「へ?」
俺の事を金蝉…って…。
もしかして、沙悟浄って…。
「お前、もしかして捲簾(ケンレン)?」
「っ!?」
俺の言葉を聞いた沙悟浄が頭を押さえだした。
沙悟浄を見た陽春と緑来が慌てて立ち上がり、沙悟浄の側に寄った。
「頭!?どうしたの!?」
「頭が痛いのか頭!?大丈夫か!?」
「あ、たまが割れそうだ…。何なんだ…っう!!」
沙悟浄は苦しそうにしている。
捲簾と言う言葉を聞いてから頭が痛くなったみたいだ…。
「ちょっと!!アンタ、何したの!?」
陽春が怒りながら俺に近寄って来た。
「え、え?俺は何もしてないよ。」
「嘘!!だって、アンタと話してから頭が苦しみだしたのよ!?」
「陽春!!」
沙悟浄の大きな声が部屋中に響き渡った。
さっきまで騒ついていた妖怪達が静まり返った。
それは怒っていた陽春も口を閉じた。
「頭、とりあえず横になった方が良いよ。立てる?」
「悪いな緑来。少し1人にさせてくれ。」
スッと立ち上がった沙悟浄は部屋を出て行った。
大丈夫なのか?
沙悟浄は捲簾じゃないのかな…。
頭が痛み出したのはどう言う事だろう…。
チリンチリンッ…。
鈴の音が耳に届いた。
「ちょっと良いかしら。」
足元を見ると玉がいた。
「た、玉?」
「今のうちにここを出ましょう。早く出た方が陽春に絡まれないでしょ?」
「た、確かに…。」
今の陽春に何を言っても火に油を注ぐような物だ。
「私に付いて来て。」
玉はそう言って歩き出したので、俺も玉に続いて歩き出した。
部屋を出て廊下を歩いていると、眺めの良いベランダに到着した。
玉がピョンッと太めの手すりに飛び乗った。
「大丈夫だった?陽春が貴方に対してかなり怒っていたから。」
黒みがかった青い瞳が俺を見つめて来た。
「いや、俺は大丈夫だけど沙悟浄の方が大丈夫そうじゃないよな。かなり痛がってたし…、俺が捲簾って言った瞬間だったし…。」
「…そう。それは、貴方が本当の名前を言ったからよ。あの人が苦しみ出したのは。」
「…っえ?」
本当の名前を言ったから…?
「やっぱり、沙悟浄は捲簾なのか?!俺達、捲簾を探しにここに来たんだよ!!」
俺がそう言うと、玉は悲しそうな顔を見せた。
「あの人はね、自分の事を思い出せないの。」
「思い出せないってどう言う意味?」
「そのままの意味よ。あの人ね、記憶を失ってるのよ。」
記憶を失ってる…?
ちょっと待て、沙悟浄が捲簾なのは分かった。
じゃあ、玉は何で沙悟浄が捲簾だって知ってるんだ?
沙悟浄が捲簾ってわかってるのはきっと、俺と悟空、猪八戒だけだ。
玉と捲簾の関係性って一体…。
「私と沙悟浄…いや、捲簾との関係が気になるよね?」
「え!?あ、あー。そりゃあ…、気になるけども…。」
「天界でね、私を拾って育ててくれたのよ。あの人はその事すら覚えてないけど。」
「た、玉は天界にいたの!?だけど、捲簾は下界に降りたんだよな…?確か。」
俺がそう言うと、玉は視線を海に移した。
「これも全部、アイツの所為よ。」
「アイツ…って、もしかして…。」
玉が誰の事を言っているのか分かっている。
それきっと…、毘沙門天の事だ。
「毘沙門天。アイツの所為であの人は壊れてしまった。私は一度、死んでるの。」
「っ!?し、死んでるって…、玉はこうして俺の目の前にいるじゃん…。」
「私が今、こうして生きてるのは観音菩薩のおかげなのよ。」
「観音菩薩が!?ちょっと、待て。死んだ者を生き返らせたのか!?そんな事が出来るのかよ?!観音菩薩は!!」
意味が分からない。
観音菩薩は何でも出来るのかよ…。
「生き返らせた訳じゃないのよ。いわゆる輪廻転生(リンネテンセイ)を早めただけ。」
*輪廻転生とは、人が何度も生死を繰り返し、新しい生命に生まれ変わる事を意味します。輪廻は、車輪が回る様子、転生は生まれ変わる事を意味します。また、「輪廻」「転生」のみでも輪廻転生と同じ意味の言葉として使われます*
「早めただけって…、何でまた…。」
玉の言葉は壮大過ぎて、もはや頭が追いつかない。
観音菩薩は何で、玉の命を早く蘇生させるような事をしたんだ?
「観音菩薩が私を生かした理由はね。」
ザァァァァア…。
ザァァァァア…。
玉の言葉の後に大きく波が揺れた。
「捲簾の為に死ぬ為に生かされたの。」
玉はそう言って俺を見つめた。
ザバァァァァアァン!!!
大きな波を立てながら海の中から、黒い船が現れた。
黒い船には大きな棘が沢山付いていて、爆弾も装備させていた。
黒い船の先頭に立っていた哪吒(ナタク)は被っていたマントのフードを取った。
「磯臭い…。」
「それはそうだろう。海の中から出たのだからな。」
ズルズルッ…。
哪吒の後ろから現れたのは大きな鮎の体を引き摺っている鯰震(ネンシン)だった。
牛魔王の命令により、哪吒が率いる太陽神聖(タイヨウシンコウ)と同行したのは鯰震だった。
「ところで哪吒とやら、経文の居場所は分かっているのか。」
「哪吒太子と呼んで頂きたいな鯰震殿。」
鯰震の後ろから現れたのは、哪吒と同じ瞳と、同じ場所に赤い宝石の付いた男が現れた。
月夜に照らされた金髪の髪はサラサラしていて、後ろにまとめた長い三つ編みが揺れていた。
「石(セキ)。そう言うのはやめてって、言ってるだろ。」「哪吒は僕達の王なんだから、もうちょっと威張っても良いんだよ?」
石と呼ばれた男は哪吒の側により、海水で濡れた哪吒の髪をタオルで拭き始めた。
「これは失礼したな。」
「石の言葉は無視してくれて構わない。場所なら分かっている。」
「ほう…。」
鯰震の言葉を聞いた哪吒は大きめな鏡を取り出した。
鏡に映ったのは、金色のフワフワした髪は肩ぐらいの長さで、顔立ちは哪吒とソックリだった。
「紫希(シキ)。」
「遅い!!さっさと、鏡を取りなさいよね!?」
紫希と呼ばれた女は哪吒に罵声を浴びせた。
「紫希!!哪吒にそんな口を叩くな!!」
「はぁ!?アンタに言われる筋合いはないわよ!?哪吒の犬が!!」
「犬で何が悪い。」
「うわー。」
紫希と石の話を暫く聞いていた哪吒が口を開いた。
「紫希。」
哪吒の言葉を聞いた紫希は黙って、光の球を鏡の外に出し、船を誘導するかのように光の球が海の上に道を作った。
「ここの先に経文がある。」
「便利な物だな…。これが道標になるのか…。」
「あぁ、ここからだと少し距離があるようだな。僕は少し眠る。」
鯰震に少しだけ説明した哪吒は船中に繋がる扉を開けて中に入って行った。
哪吒太子達が沙悟浄がいる屋敷に向かっている事は誰も知らないでいたー