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「ホントに?美亜ってさぁ…警戒心がないの?それとも、なんかあってもいいと思ってる?」
翌日、お客さまとして来店した高校時代の親友、前園朱里が、口を開くなり吠えた。
ここは、ヘアメイクサロン
【RITA Royal Garden銀座本店】
私が勤める美容室だ。
「まさかぁ…私と嶽丸が…」
朱里の耳元に近寄って、続きを言う。
「…なんかあると思ってるの?」
「なんにもないと思うほうがおかしいよ!だってあの、超絶セクシーの嶽丸でしょ?」
…せっかく小さい声で言ったのに、朱里は平然と言う。
「ちょっと…セクシーとか大きい声で言わないでよ!」
取り繕った笑顔であたりを見渡しながら、キッ!と朱里に噛みつく。
朱里もまじえ、嶽丸や健とは以前一緒に飲みに行ったことかある。
だからなのか、彼女は嶽丸について思うことがあるらしい。
「幼なじみとはいえ、男でしょ?それでも平気で同居するとか…それってやっぱり将来結婚する気がないせいなの?」
「…え?結婚と嶽丸の話って関係なくない?」
「だって29歳だよ?そんな年齢なのに嶽丸と一緒に暮らしてたら、他に彼氏なんて作れないでしょ?」
そう言われて、その通りだと気づく。
でも朱里の言う通り、私には結婚する気なんてまったくない。だから嶽丸のせいで恋人ができないかも…なんてことは考えもしなかった。
「珍しいタイプだよね。普通30歳が間近に迫ったら、結婚を焦ったりするでしょ?」
「うーん…」
こんな私にも、2年前まで恋人がいた。でも、お付き合いの熱量があまりにも違うことから、それは長く続かなかった。
私が結婚を考えないのは、次の恋人ができないから、とかではなくて。
…本当にしたいと思わないから。
「美亜なら、相当口説かれるでしょ?…ここにもイケメンがわんさかいるみたいだけど?」
朱里にはいちいち言わないが、確かに同僚に口説かれそうになったことはある。
でも、微妙な年頃の私がお付き合いをしたら、その先には結婚がチラチラするに決まってる。
でも交際の先に結婚を望んでいない私が、お付き合いするなんて…しかも同僚となんて絶対無理。
「…美亜にはね、幸せになってもらいたいんだ」
妙にしんみり言う朱里の左の薬指には、真新しいプラチナの指輪が光ってる。
「うん…」
私が結婚に夢を抱かなくなったのは、育った家庭環境の影響があるって、私自身うすうすわかっている。
朱里が私の幸せを望むのは、きっとそんな家庭環境を一緒に見ていて、誰かに私を守ってほしいからだと想像できた。
でも、今の私には、特定の誰かに守ってほしいとは思えない。
それより、1人でいるほうが安心だし、気楽。
いつか自分の美容室を持って、そこに来るお客さまとおしゃべりしながら、ずっと1人で自由に生きていきたい。
そんな、あまり共感されない夢を、私は胸に秘めていたんだ。
「まぁ…今は結婚するだけが幸せじゃないし、人それぞれ幸せのカタチがあるって言うしね」
朱里はなにも言わない私の本音を、できる限り受け止めてくれたと思う。
否定も肯定もしないそのフラットな目線が、今の私には心地いいと知ってるみたいに。
コメント
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朱里ちゃんは大事な親友だね〜! 美亜タマちゃんの事とっても心配してくれ、見守ってくれてる😌 嶽ポチ丸!超絶セクシーって言われてるよ〜😆事実だからいいよね〜✨嬉しい?😂