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「指切り…?」
死神は赤く腫れた目元を擦りながら怪訝そうに繰り返す。
「そう、約束しよう」
俺が来世にほんの少しでも希望を抱くための、ただの自己満足の約束。でも、それがほんの少しでもお前のためになったらいい。
誰かのためになれたらいい。
「来世の俺が死ぬ時になったら、幸せな一生だったかどうかを必ず聞け。そうしたら、俺が絶対に『応』と答えてやる」
自信満々に言うと、またもや怪訝そうな顔をする死神。そして、まるで子供を諭すための言葉を探すように、唸りながら言葉を捻り出した。
「言いたいことはいくつかあるのですが…まず第一に、私が次も貴方の担当になるかどうかはわかりません。…それに、そのニ。今世の記憶は来世には持っていけないので、貴方は例え私と約束を交わしても守ることができないと思いますが…」
う、痛い所を突いてくる。しかし、こういう時だけは楽天家な馬鹿になってもいいのだ。
「まぁ、いいんだよ。気合と根気で大体何とかなるんだから」
そうは言っても上手い返しなんて思い付かないので、俺らしく言葉を返す。そうすると、死神はやっと小さく声を出して笑った。
「それじゃあ、貴方の気合と根気に少しだけ賭けてみましょうか」
そう言ってすっと小指を差し出してきた。
白くて細い小指に、そっと俺の小指をかける。
頼んだぞ、来世の俺。きっと良い人生を送ってくれ。いつも流されてばかりで誰の役に立ったかも碌に思い出せないような今世の俺の、正真正銘最後のチャンスなのだから。しっかりやって貰わなくては困る。まぁ、俺がグチグチ言わなくてもきっと大丈夫だろう。だって…
「俺は、約束だけは違えたことがないからな」
するりと指をきり、お互いに目を合わせてどちらからともなく笑い合う。
「俺の死神が、アンタで良かったよ」
「…うふふ、ありがとうございます。こんなに嬉しいことはないですね」
心底嬉しそうに死神が笑う。それは花が咲くような可憐さで、そして美しかった。
「私も、初めてが貴方で良かった」
そう言って死神は手に持った鎌を俺へとゆっくり振り下ろした。
ある所に、今まさにその寿命が尽きようとしている一人の男がいた。
その男の前に、銀の髪を持ち、紅い瞳を持った、それはそれは美しい死神の少女が舞い降りた。そして、男にこう問うた。
「貴方の一生は、幸せなものでしたか?」
男は少しだけ首を傾げた後に答えた。
「大変なことの多い人生だったよ。決まって困難が立ちはだかるものだから、他人に流されるままでは到底いられなかった。けれど、そのおかげで今というこの時間は全て私の選択の上に成り立っているんだ。そう感じられることは、きっと私にとって何よりも大切なことなんだよ」
そして、死神の紅い瞳を見つめて幸せそうに笑った。
「応、これ以上ない程幸せな人生だった」
それを聞いた死神は満足そうに微笑んで鎌を振るった。