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翌日、二宮二乃にとって、生まれてここまで緊張した程のことがないと言うレベルの緊張に襲われていた。
それは、自身がNo.2と言う称号を得て、実際にチヤホヤされることが多く、あそこまでNo.2の称号が全く見向きもされなかったことがなかった面も大きかった。
二宮の緊張を他所に、その扉は簡単に開かれる。
中から出てきた男は、私服姿の白髪の男性だった。
「あ、えっと……ここ、異能探偵局……ですよね?」
「そうだね。実際にはこの上なんだけど、一応僕も補佐として立ち入ってるから、実質ここかな。知らせてくるよ」
そう言うと、「掛けて待ってて」と伝えられ、二宮はテーブルにちょこんと座らされた。
一階は喫茶店になっており、ガランとした木製のインテリアがオシャレに見えた。
二宮はこう言ったオシャレな店に抵抗感があった。
暫くすると、昨日と変わらず無愛想な行方と、大きな欠伸を微塵も隠そうとしない夏目が降りてきた。
「やあ〜、早いね〜」
「いえ……時間通りですけど……」
二宮の緊張が馬鹿らしくなるほど、夏目は適当に紙を差し出した。
「は〜い、じゃあこれに適当でいいから、個人情報的なの書いといてよ」
「適当に……って……」
そっと溢しつつも、一応ちゃんとした書類に、二宮は自分の個人情報をツラツラと書いていく。
そして、学校名は『異能教学園』。
「ほら、やっぱり異能教の火炎放射だ! やっぱり有名だよね〜、君!」
「は、はあ……」
「もっと自信持ちなよ〜! 自然系の異能なだけでもレアなのに、10代の日本2位様なんだから!」
「そんなに有名なんですか、この小娘」
「小娘って何よ! 無能力者の癖に!」
「僕は別に、無能力者なことを卑下したことはない。能力があるとは、自然にそれに頼ることになる。無いならば知恵を付けるキッカケにもなる。僕は異能の有無で人の能力や価値を評価したりはしない」
「べ、別に私だって……そこまで言うつもりじゃ……」
パンパン!
大きな音で、夏目は手を打ち二人の口論を制した。
「じゃあ書類も書けたし、まずは適性検査だね!」
そう言うと、先程の白髪の男性が降りてくる。
「彼はジンさん。ああ、君だけに名を伏せたいわけではないよ。異能警察や探偵局でも、名を伏せてコードネームで行動する人は多いんだ」
「うん、ジンだ。よろしく頼むよ、二宮さん」
ジンは、朗らかに笑う、紳士的で爽やかな人柄だ。
「よろしくお願いします……?」
少し展開について行けない様子の二宮だが、この後の夏目の言葉に、更に困惑を示すこととなる。
「は!? ジンさんを笑わせることが適性検査!?」
そう、夏目からの指示、二宮に課された適性検査は『ジンを笑わせる』と言う内容のものだった。
しかし、ジンは常に朗らかに笑っていた。
「え……既に笑ってるんですけど……」
「これは営業スマイルだよ〜! ジンさんが笑い始めると、すっごくゲラなんだよ〜!」
「え……、これ、行方くんもやったの……?」
「いや、僕はこんなことしてないな。多分、夏目さんの思い付きと面白さを求めてるんだと思う」
その言葉を幕切りに、少しイラッとする二宮。
「でも、夏目さんの言うことに間違いはないし、実際、ジンさんは異能探偵局の面接官のような存在でもある。別の内容だったけど、適性検査の相手は全員ジンさんだから」
その言葉で冷静になり、改めて緊張感を宿した。
「それじゃあ早速、始めて行こう〜!!」
夏目は「イェーイ!」と一人で盛り上がっている。
「それじゃあ、行きます……!」
ジンに面と向かって二宮は構える。
そして、過去に一度もしたことない変顔を、ここぞとばかりに露わにする。
「ぶふーっ!」と、一人だけ吹き出す夏目。
顔を真っ赤にする二宮。
困り顔を浮かべるジンと、真顔の行方。
「ア、アハハ……可愛らしいね……」
そして、気を遣われ、更に顔は赤くなる。
「そんなことじゃジンさんは笑わないぞ」
「じ、じゃあ、アンタなら笑わせられるって言うの!?」
少し顔を傾げると、行方はジンに向かい合う。
「ジンさん」
「行方くん……」
「布団が……吹っ飛びました」
暫くの静寂の後、「ウフ……ウフハハハハ!!」と、ジンは涙を流して笑い始めた。
「え……そんな簡単なダジャレでいいの……? それなら私だって……。棚の上にあったな!!」
そして、またしても静寂が訪れる。
(え、えぇ〜〜……コイツのはバカウケだったのに…)
「アハハ、違うよ二乃ちゃん。行秋くんの無表情で、ダジャレにすらなってないのにダジャレだと思い込んで堂々と言ってることが逆に面白いんだよ〜!」
(確かに……ダジャレになってない……!!)
そして、二宮は改めて、この難題の厳しさを知ることになるのであった。
それから二時間、怒涛の変顔とダジャレ、過去の面白エピソードや恥ずかしい話を吐露しても、全くジンが爆笑することはなかった。
「ハァハァ……。私は真面目に人助けがしたいのに……こんなことに何の意味があるんですか……!」
遂に本音を吐露し、少し涙を溢す。
「私は、夏目さんも仰る通り、異能教に通ってます。No.2の実力だってある! 悪さだって絶対にしない! 他に何が必要なんですか!?」
「でもお前、昨日、私欲の異能使用をしただろ」
行方は、昨日の犯人を追い掛ける様子を突く。
「それは……」
「近年では例年、犯罪が増えている。なんで私欲の異能使用は刑罰の対象になっているか考えたことはあるか?」
「でも……探偵局に入れば異能を使うことだって出来るわけだし……私の行いだって……」
すると、ジンはいつの間にかカフェラテを注いでいた。
「どうぞ、二宮さん」
「あ、ありがとう……ございます……」
ホットに入れられたカフェラテは、白い湯気がほんのり立ち上り、寒くなってきた今の時期に適している。
「これは女性にも人気なんだ。きっと、お気に召すよ」
「は、はい……」
そして、二宮がカフェラテを口に入れた瞬間。
「ぶふーっ!!!」
「えぇ!? ど、どうしたの!?」
二宮は思い切り吹き出してしまった。
「私……無糖のは苦くて飲めなくて……」
そして、暫くの静寂の後に、「ウフ……ウフハハハハ!!」と、ジンは涙を流して笑い始めた。
「え……? 笑った……?」
「合格〜!! 事故だけど奇跡だね〜!」
「え……こんなことでいいんですか……?」
「うん。君は自分でも言っていた通り、異能教に通うエリートだ。そしてNo.2の実力も備えている。俺たちが懸念しているのは、君のその『絶対的な自信』だ」
「絶対的な……自信……」
「行秋くんがダジャレを言うなんて、キャラじゃないと思わないかい? それはね、相手への信頼と、自分の弱みをそんな相手に見せることに躊躇がないからなんだ」
「つまり……私の弱みが……」
「そう、ジンさんは見ての通り優しい人だ。だから、心を開いてない内は気を使う。だから、君自身が心を開いたことが、今回の合格に繋がったんだよ」
そう言うと、夏目はガムシロップを二つ、二宮へとそっと差し出した。