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適性検査が終わると、ジンの手料理による昼食が運ばれた。
「そろそろ開店の時間だから、上の事務所で食べてね。食べ終わったら裏の流しに入れておいていいから」
そう言うと、ジンは面の掛札を開店に切り替えると、手慣れた手付きで豆の手入れに入った。
「それじゃあ、事務所の方に行こうか!」
階段を登ると、ギィっと扉が開かれ、何個もの机が置いてあり、春木がPC業務をこなしていた。
「おう、無事に適性検査は済んだようだな」
「は、はい……」
「変な検査だっただろ。ここからの研修はしっかりとした仕事だから安心しろ」
そして、みんなと席を囲うと昼食を食べ始めた。
「でー、午後は研修が始まるわけだけどー」
そう言うと、夏目は箸をちょいちょいと指した。
指した先には、大きな地図が広がっていた。
そして、二宮の『研修』が始まった。
「で、なんで探偵の研修が『ゴミ拾い』なのよ!! こんなのボランティア団体の仕事じゃない!」
「うるさいな、仕事なんだから仕方ないだろ。騒がずにしっかり自分の仕事をこなせ」
そんなピリついた空気の中、研修に付き合わされる行方と共に、公園のゴミ拾い作業を進めていた。
「そろそろか」
「え、何が?」
「そろそろこの集まったゴミを捨てに行こうって話だ」
「なんだ、そう言うこと……。なら早く行きましょ」
すると、ゴミ袋を持って行方は歩き始める。
それに続いて二宮も続く。
辿り着いた先は、崩れ掛けた廃ビルだった。
「ねえ、ゴミ捨てじゃないの?」
「ここにもポイ捨てが多くてな。軽く拾ってから収集場に向かう」
そう言うと、ゴミ袋を置いてポイ捨てされた空き缶たちを拾い始めた。
そこに、ふらっと茶髪の少年が現れる。
「お前たちが約束の人間か?」
深くフードを被り、黒いマスクをし、怪しい雰囲気を醸し出している少年だった。
「いえ、僕たちはここのゴミ拾いをしているボランティア団体の者ですが、貴方は? ここは区の許可がなければ立ち入りは禁じられているのですが」
少年に向かい合うと、行方は説明を始めた。
「なんだ、じゃあお前たちじゃないのか……」
そう言って立ち去ろうとした少年の腕を掴み、行方は静止させる。
「『約束の人物』ではありませんが、目的は達成です」
「は?」
「コードネーム『ジュース』は、貴方でお間違いありませんね?」
「納得。お前たちが “俺たち” を着けてた探偵局か」
「え……どういうこと……?」
目の前に起こる突如としてゴミ拾いから掛け離れた不穏なやり取りに、二宮は目を回す。
「それじゃあ、中にいる奴はお前たちにまんまと跡を着けられていたって訳ね。じゃあ交渉も無しだ」
すると、少年は行方の腕を力強く押し退けると、人間にはあり得ない跳躍でその場から飛び去って行った。
「ちょっと……どういうことよ……!」
「これは、ゴミ拾いと見せかけたとあるグループの追跡だったんだ。二宮は、まだ正式な局員ではない為、詳細は話せない。それに、二宮は単細胞だから、標的を見つけてボロを出すのも危険だからな……」
そう言いながら、またしてもスマートフォンを取り出す。
「で、またあの子に発信機を取り付けたってわけ?」
「いや……」
行方は、露骨に苦い顔を浮かべた。
「あの少年……やはり只者ではない。発信機を既に壊されている。しかも、この場で」
「アンタが発信機を取り付けることを読まれた……ってこと……?」
「警戒心が強いのか、そう言う修羅場を何度も潜り抜けてきたのか……。ある程度離れた場所で発信機を壊されることはあったけど、僕の腕を振り払った時だろう。こんな短時間で見破られて、僕の目を盗んで発信機を破壊されたのは初めてだ」
「じゃあ……どうするのよ……!」
行方はスマートフォンを仕舞うと、ゴミ袋を掴む。
「まだ終わってはいない」
そして、廃ビルを出ると再び歩き始めた。
二宮は渋々と着いて行った。
着いた先は、普通のゴミ収集場だった。
「やることって……ゴミ捨て……?」
「あぁ。拾ったゴミを放置する訳にもいかない。確かにゴミ拾いは僕たちの仕事の範疇ではないが、ポイ捨てという行為も、刑法に当てはまる立派な犯罪だ」
「はいはい……。うんちくはもう聞き飽きたわよ……」
「それに、『追跡が終わった訳じゃない』」
「それって……」
ゴミを一頻り分別して捨て切ると、奥の方に落ちていた一つのSDカードを手に取った。
「こんなの……ゴミじゃないの……?」
「いや、さっきの廃ビルから一番近くの収集場はここだ。以前からの追跡と情報収集により、ここで奴らはデータや情報のやり取りをしていることが分かったんだ」
すると、数人の男たちが出入り口を塞ぐ。
「お前ら……その手に持ってる物が何か分かってるのか……?」
「お出ましだ」
姿勢を変えず、行方は静かに二宮に伝える。
「どうするのよ……」
そして、行方は立ち上がり、二宮の背を叩く。
「 “ゴミ捨て” と言っただろ? 暴れていいぞ、全力でな」
二宮は辺りのゴミを見遣り、ニヤッと笑う。
「そー言うことね……まんまと踊らされたの、彼らだけじゃなくて私もってことね……。やってやろうじゃない!」
そして、二宮は男たちの前に立ち塞がる。
「なんだ? 小娘! てめぇ一人で相手すんのか!?」
「ちょ、ちょっと待て……あの赤い髪……」
「もう遅いわよ!! 灰になりなさい!!」
「日本No.2の『火炎放射』だ!!」
逃げる男たち全てを焼き払う炎を、二宮二乃は両手から放出した。
「まさしく『火炎放射』ってわけか」
燃え盛る炎の中、辺りに被害はなく、男たちは全員気絶状態となっていた。
「アンタの計算通り、ここは不燃ゴミの集積場。お望み通り、私の火炎で気絶させたわよ」
行方は、何も言わずに男たちの身辺を探る。
そして、「ハァ……」と溜息を溢し、二宮に向き合う。
「やれやれ……夏目さん、合格です」
すると、影から夏目が姿を現す。
「夏目さん!? 合格……って……?」
「火炎の異能だからね、制御が難しいでしょ。でも君は、後遺症となる外傷を彼らに与えなかった。流石はNo.2と言わしめるだけの実力だ」
「まさか……これも全部試験だったの!?」
「そう言うことだ。まあ、実際にこの事件に関しては以前から追っていたし、ずっと夏目さんも僕たちを見ていた。その上で、二宮の合否も決める予定だったんだ」
そして、行方は二宮を睨む。
「危ない自然の異能。その中でも特にレアな火力特化な火炎の異能。それを、『相手に対して後遺症を残さずに気絶させられるか』見極める必要があった」
「それを君は無事にクリアした。おめでとう。晴れて君は俺たち異能探偵局の正式なメンバーだ」
そうして、夏目はバッジを二宮に手渡した。
「今日はご苦労様。適性検査の後に街のゴミ拾い。コイツらの始末に大変だったでしょ。また後日、正式に書類を書いて提出しておくから、今日は帰って大丈夫だよ」
「ホント……疲れたわよ……」
そう言うと、二宮は溜息混じりに去って行った。
「夏目さん」
「なーに? 行秋くん」
「今回、アイツと僕を組ませたのって、わざとですよね」
「何が言いたいのかな?」
「アイツが合格する条件は『後遺症を残らせないように相手を気絶させる』こと。無能力者で、法律を厳守させる僕と共に行動させることで、二宮をわざと合格させるように促した……」
「ふふふ、考えすぎだよ。元々、この事件に関しての担当は俺と君だっただろ? 二乃ちゃんが入るなら、今後は俺の部下になる。部下同士、仲良くして欲しいからね」
「分かりました。今回はそう言うことにしておきます」
そして、行方は警察に連絡すると、犯人たちの身柄をゆっくりと、邪魔にならない場所に移動させる。
「前にも話しましたけど、貴方たちが怪しいと思ったら、僕はいつだってこの探偵局を辞めますから」
そう言って、行方は去って行った。