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『お隣さん』
引っ越して一週間。
隣の部屋に住む女性と、よく顔を合わせるようになった。
朝、ゴミを出すと、
「おはようございます!」
と挨拶してくれる。
夜、帰ってくると、
「おかえりなさい!」
と言ってくれる。
感じのいい人だった。
ある日、男は女性に聞いた。
「いつも帰り遅いですよね。仕事大変なんですか?」
女性は笑って、
「ええ。でも、夜のほうが落ち着くんです」
と答えた。
それから数日後。
男が夜中に帰宅すると、隣の部屋のドアが少し開いていた。
「大丈夫ですか?」
声をかけても返事がない。
男は気になったが、自分の部屋に入った。
翌朝。
女性と会った。
「昨日、ドア開いてましたよ。」
すると女性は不思議そうな顔をした。
「……昨日?」
「はい」
「私、昨日は家にいませんでしたよ?」
男は笑った。
「でも、夜に帰ってきてましたよね?」
女性は黙った。
そして、
「私、この部屋に住み始めてから……一度も夜に帰ったことないんです」
と言った。
「どういうことですか?」
女性は少し困ったように笑った。
「私、夜になると必ず――」
そこで言葉を止めた。
男は気味が悪くなり、それ以上聞かなかった。
その日の夜。
男が帰宅すると、隣の女性が玄関前に立っていた。
「こんばんは」
男は驚いた。
「今日は家にいるんですね」
女性は笑った。
「ええ」
そして男の部屋を見ながら、
「今日も一人ですか?」
と聞いた。
「はい」
女性は、
「そうですか」
とだけ言って、自分の部屋に入った。
男も部屋に入った。
しばらくすると、
壁の向こうから声がした。
「ねえ」
女性の声だった。
「はい?」
「あなた、本当に一人?」
男は少し笑った。
「一人ですよ」
すると女性が、
「じゃあ……」
と小さな声で言った。
「**さっき玄関で一緒に入ってきた人は誰?**」
男は凍りついた。
自分は一人で帰ってきた。
そう思っていた。
しかし、ふと玄関を見る。
靴が二足ある。
自分の靴と――
**もう一足。**
しかもその靴は、
男がこの部屋に引っ越した初日から、
ずっと玄関に置かれていた。
男は今まで、
「前の住人の忘れ物だろう」
と思っていた。
その瞬間、隣の女性が壁越しに呟いた。
「……やっぱり」
「何が?」
女性は震えた声で答えた。
「あなた、引っ越してきた日から――」
「**ずっと二人で暮らしてたんですね**」
コメント
1件
うわっ、最後の一文で背筋が凍りました……! 隣の女性の「夜に帰ったことがない」って伏線が、まさか主人公側の「もう一足」に繋がるとは。しかも引っ越し初日から同じ空間にいた存在——誰なんだろう、本人すら気づいてないっていうのが不気味すぎます。1話でここまで持ってくる構成力、すごいです。続きが気になる……!