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海の紅月くらげさん
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校門を通過しようとしているアイツの後ろ姿を見つけて駆け寄った。
「おい!」
俺の声にアイツがゆっくりと振り返る。向けられた柔らかな笑みに恐怖を感じて、息を飲んだ。
「珍しいね、歩が僕のところに来るだなんて」
笑っているけれど全然嬉しそうじゃない。
こういう腹の探り合いみたいなのは本当は俺、得意じゃねぇんだけど。
それでもこのまま見て見ぬふりはできない。
「……泉、なんであんなことしたんだよ」
睨みつけても泉は仮面のような笑みを貼付けたままだ。
コイツが取り乱したり、動揺するのを今まで一度も見たことがない。
「あんなこと?」
「実里が暗闇でどうなるか知ってんだろ!」
忘れるはずがない。
原因はコイツで、俺で、潤で、武蔵で、和葉で————俺たちの忘れることのできない〝子どもの楽しい時間〟が崩れた出来事。
本当はわかっている。実里も泉も悪くない。子どもがただ楽しく遊んでいただけなんだ。
でも……九條の、〝泉の家〟では許されないことだった。
「ああ……そのことか」
追ってきた理由くらい最初からわかっていたくせに。
「僕はこのままにしているのが本当の優しさだとは思わないよ。時間が癒してくれるなんて思ってるの?」
「っけど、実里の傷が深くなったら取り返しつかねぇだろ!」
「そうやって腫れ物のようにみんなに扱われて、実里って可哀想だね」
「な……っ!」
「きっと窮屈だろうね」
それは俺自身もどこかで感じていたことだった。
実里は腫れ物のように扱われることを望んでいない。周りの気遣いが実里を窮屈な空間に押し込んでいる。
ごめん。あの時……引き返さなくて。
放っておいて、ごめん。
〝何をされているのか〟知っていて助けられなくて。
このゲームに勝って九條の家の柵から、泉の手の中から解放してやりたい。
そう思わずにはいられない。けど、この気持ちが逆に実里を追いつめている。きっと実里は俺らの気持ちを伝えたところで、すげー怒るんだろうな。
余計なお世話だって。放っておいてくれって。
「今日のはただの気まぐれ。ゲームを面白くするためのね」
「……お前、何考えてんだ」
泉と視線が交わったまま、時が止まったかのように静寂が訪れる。
ゆるりと初夏の風が木々を揺らし、止まった時間にヒビを入れた。そして、目の前のアイツが止まった時間を砕く。
どろり、どろりと黒い感情を心の隙間に染み込ませるような一言。
「叶えたいことがあるんだ」
泉は優しく微笑む。まるで大事な何かを思い出しているように。
「たとえ〝どんな結末〟を迎えても」
「……泉」
泉の叶えたいこと……想像がつかない。そして押し寄せてくる得体の知れない恐怖心。
泉ならほしいものはなんでも手に入れられるんじゃないのか? そんなコイツが叶えたいと願うことって一体なんなんだ。
「またね、歩」
去っていく泉の後ろ姿を眺めながら、ため息を吐いた。