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海の紅月くらげさん
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あの日から変わったことがある。
「ましろせーんぱーいっ」
「う、わっ!?」
桃色のカーディガンを肩にかけた実里くんが抱きついてきた。
緩いパーマのかかった栗色の髪ににっこりと甘い笑顔。
そ、そんな笑顔を向けられると眩しすぎて困る……!
変わったことの一つは実里くんが私に心を許すようになってきたのか、頻繁に話しかけてくるようになった。その笑顔は以前とは違いどこか優しくて明るい。
「み、実里くん! こんな人の多い廊下で抱きついてこないで!」
ただでさえ実里くんは目立つのに抱きつかれていたら大注目を浴びてしまう。しかも、女子からの鋭い視線が……!
「ふぅん。じゃー、人がいないとこならいいんだ?」
実里くんが耳元で囁いてくる。
「そ、そういう問題じゃないでしょう!」
「顔真っ赤だよ、せんぱい」
……意地悪で私の反応を楽しむところは変わってない。
「からかわないで」
「からかってないよ。 俺は全部本気」
「……っ!」
「せんぱいはさ、誰が一番好きなの?」
「へ?」
実里くんの突拍子のない言葉に抱きつかれたまま硬直してしまった。
「歩? 和葉? 潤? んー、もしかして武蔵?」
「す、好きってどうして急にそんな話になってるの!」
「まあでも、俺だって頑張るから覚悟しててよ?」
やっと離れてくれたかと思えば、実里くんは顔を覗き込んでくる。
「……近いよ」
あまりにも近い距離に狼狽える。
「あのね、ましろせんぱい」
「な、なに?」
「俺さ」
ふっと実里くんの表情が真剣なものに変化した。目が僅かに細められて、じっと私を見つめてくる。
「克服できるように頑張ってみる」
「……うん」
実里くんが克服したいものは、〝暗闇〟だ。きっと簡単なことじゃないけれど、実里くんが前向きな気持ちになってくれてよかった。克服するのは実里くんにとって凄く大きなことなはず。
「だからさ、今度昔の話を詳しく聞いて」
「え……私が聞いても、いいの?」
「思い出すの怖いけど、誰かに聞いてほしいんだ。それなら」
実里くんの温かい指先が私の頬を掠める。
まるで〝よく聞いて〟というように、実里くんが私の髪の毛を耳にかける。
「それなら俺は、ましろせんぱいに聞いてもらいたい」
大人びた彼がほんの少し幼さを見せて微笑んだ。
胸がいっぱいで涙が出てきそう。
こんなことを言ってくれてうれしい。こんな風に笑っている実里くんが見れてよかった。