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さてはお前・・・ゆき姉の部屋のラノベ読んだな、??
鈍間「虐げられていたヒロインが、最高権力者の彼に救い出されて形勢逆転する」
っていう話を書きます。中太!!!!!!
女体化なし。太宰の自尊心が低い。太宰虐待受けてる。なんでも許せる人向け。
帝都の冬は、肌を刺すような乾いた風が吹く。 その風よりも冷たく、鋭い言葉の刃が、太宰治の日常には常に満ちていた。
太宰家。かつては異能界の「静の要」と謳われ、触れるもの全ての異能を無へと帰す「無効化」の力を守護してきた名家である。太宰の父が当主であった頃までは、その屋敷には品格と、微かながらも温もりが宿っていた。 だが、十年前。父が不審な急死を遂げ、母が衰弱して後を追うように亡くなってから、太宰治の運命は暗転した。
実権を握ったのは、父の弟である叔父・太宰正治だった。 正治は、兄が持っていた「静」の力を「守りに徹するだけの臆病者の力」と蔑み、自らが持つ攻撃的な「木属性の変異異能」こそが太宰家の真価であると喧伝した。そして、正統な後継者である治から、あらゆる権利を剥奪したのである。
「おい、治。まだそこに突っ立っているのか。目障りだ、早く裏庭の枯葉を片付けてこい」
叔父の長男であり、治より二つ年上の従兄弟・信治が、豪奢な毛皮の外套を翻しながら言い放った。信治は学園でも名の知れた優等生であり、叔父の自慢の息子だ。対する治は、十年前のあの日から、この広大な屋敷の「影」となった。
治が纏っているのは、父の遺品である古い着物を、何度も継ぎ接ぎして仕立て直したボロ布だ。冬の寒さを凌ぐにはあまりに心許ない。対して、自分を無能と罵る親族たちは、治の父が遺した莫大な資産を食いつぶし、贅を尽くした暮らしを享受している。
「……はい。すぐに」
治は掠れた声で答え、深々と頭を下げた。 視線を上げてはいけない。彼らの瞳に宿る、自分への「嫌悪」と「優越感」を直視してしまえば、自分の中の何かが完全に壊れてしまう気がしたからだ。
なぜ、これほどまでに虐げられるのか。 理由は明白だった。太宰治には、叔父たちが求める「派手な異能」が顕現しなかったからだ。
太宰家に伝わる「無効化」という力は、極めて特殊なものである。 それは火を噴くわけでも、大地を割るわけでもない。ただ、そこに在るだけで他者の異能を霧散させる「虚」の力。幼い治がその力の一端を見せた時、叔父はそれを「異能を阻害する呪い」と呼び、忌むべき欠陥として周囲に触れ回った。
「兄上は呪われた子を遺した。このままでは太宰家は滅びる」
その嘘は、瞬く間に親族や使用人の間に浸透した。 幼かった治は、叔父の言葉を信じるしかなかった。自分が「呪われている」から、父も母も死んでしまったのだ。自分が「無能」だから、誰からも愛されないのだ。 植え付けられたその呪縛は、十年の歳月を経て、治の自尊心を根こそぎ奪い去っていた。
裏庭に出ると、氷のような風が治の頬を叩いた。 指先は凍え、感覚を失っている。竹箒を握る手は震え、それでも治は一心不乱に地面を掃き続けた。ここで手を休めれば、夕食――といっても、使用人の残り物の冷えた粥一杯だが――すら与えられないことを知っている。
「あら、まだこんなところで油を売っているの? 本当に鈍間な子ね」
背後から、叔母の冷ややかな声がした。 彼女は香水の強い香りを漂わせながら、治が掃き集めた枯葉の山を、わざとらしく踏み散らした。
「ああ、ごめんなさい。汚らわしいものが視界に入ると、つい足が滑ってしまうの。またやり直しね」
叔母は扇子で口元を隠しながら、クスクスと笑った。 その目は、路傍の石ころを見るよりも冷酷だった。 治は、再び散らばった枯葉を見つめ、ただ「申し訳ありません」と繰り返した。 心の中で、何かが死んでいく音がした。 悲しいとも、悔しいとも思わない。ただ、自分という存在がこの世から消えてしまえば、この冷たい風も、蔑みの視線も感じなくて済むのに。そんな、ぼんやりとした絶望だけが、彼の親友だった。
学園への通学も、太宰家にとっては「体裁」のためでしかなかった。 「没落したとはいえ名門・太宰家が、子弟を教育もせずに放っておいている」という噂を立てられないための、最低限の義務。 治に与えられたのは、数年前の型落ちの制服と、教科書を買うための僅かな金。それも、従兄弟たちのパシリや、彼らの学園での「不祥事」を身代わりとして被ることを条件に与えられたものだ。
学園においても、治の立ち位置は変わらない。 名家の子弟が集まるこの場所では、家の力関係がそのままスクールカーストへと直結する。 叔父たちが「治は我が家の恥晒しだ」と喧伝している以上、誰も彼に手を差し伸べる者はいなかった。
ある日の放課後。 治は、従兄弟に命じられた大量の資料を抱え、旧校舎の廊下を歩いていた。 その時、校庭から地響きのような歓声が聞こえてきた。
窓の外を眺めると、そこには眩いばかりの光景があった。 学園の最高権力者、中原中也。 彼は、荒ぶる重力の異能を指先一つで操り、訓練用の巨大な標的を次々と粉砕していた。その姿は、荒々しくも気高く、周囲を取り囲む群衆を熱狂させていた。
「――すごい」
治の口から、無意識に言葉が漏れた。 自分とは対極にある存在。 溢れるほどの力。周囲からの惜しみない賞賛。そして、何よりも自分自身を信じ、堂々と前を見据えるその瞳。 治にとって、中原中也は「人間」という種族の、一つの完成形に見えた。 そして、自分はといえば――。 窓ガラスに映る自分の姿を見る。継ぎ接ぎの着物、生気のない肌、死んだ魚のような目。
「……ああ、そうだ。私はゴミだった」
治は自嘲気味に笑い、窓から視線を逸らした。 あんな太陽のような人と、自分のような影が交わることなど、万に一つもあり得ない。 彼が見ているのは、常に高みであり、足元の泥にまみれた虫ケラなど、視界に入るはずもなかった。
だが、運命の歯車は、治が知らないところで静かに、しかし確実に回り始めていた。
太宰家。その内部では、さらなる卑劣な計画が進んでいたのである。 叔父・正治は、中原家との結びつきを強めるため、自らの息子・信治を中原家へ売り込むための「手土産」を探していた。 しかし、信治の異能は、並のレベルではあっても、天才・中原中也を納得させるほどのものではない。
そこで叔父が目をつけたのが、治の持つ「無効化」の力だった。
「兄上が遺したあの『呪い』……。あれは、使い道によっては最高級の道具になる。中原の小僧は、そのあまりに強大な力ゆえに、制御を失うことがあると聞く。……治を、奴の『暴走を抑えるための使い捨ての盾』として差し出せば、中原家は我々に多大な恩義を感じるはずだ」
叔父の歪んだ笑みが、暗い書斎に浮かび上がった。 治を「人間」としてではなく、「中原家に取り入るための道具」として売る。 太宰治がようやく手に入れた「学園」という名の、細い逃げ道さえも、叔父たちは塞ごうとしていた。
その日の夜。 治は、久しぶりに叔父の部屋へ呼び出された。
「治。お前に、太宰家の一員として、最後の大切な仕事を任せることにした」
叔父の言葉に、治の背筋に冷たいものが走った。
「仕事……ですか」
「ああ。中原家主催の晩餐会がある。お前にはそこで、我が太宰家の『忠誠の証』として、ある役割を果たしてもらう。……安心しろ、お前のような無能でも、その身一つあればできることだ」
叔父の瞳には、慈悲など一欠片もなかった。 そこにあるのは、不要な在庫を処分することを決めた商人の、冷徹な計算高さだけだった。
「……承知いたしました。叔父上の仰せのままに」
治は、深く、深く頭を下げた。 それが、自分という存在が完全に壊れる序曲であるとも知らずに。
そして数日後。 帝都の夜を彩る、煌びやかな迎賓館の門が開かれる。 そこには、自分を虐げる者たちの道具として、あるいは生贄として連れてこられた少年の姿があった。 エントランスに並ぶ最高級の車。ドレスや礼服に身を包んだ、自信に満ち溢れた貴族たち。 その華やかな喧騒の中で、太宰治は、自分の死に場所を探すように、深く息を吐いた。
(せめて、誰にも迷惑をかけずに、消えてしまえたらいいのに)
そんな彼の願いは、一人の男によって、最も激しく、最も情熱的な形で裏切られることになる。
中原中也。 帝都の頂点に君臨するその男が、今、会場の入り口で、退屈そうに人混みを見渡していた。 彼の視線が、ふと、列の最後尾で震えている、幽霊のような青白い少年に止まる。
それは、運命が「必然」として引き寄せた、あまりに静かな邂逅だった。
とりあえず、こんな感じ。
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