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「私も日曜市にチョコチップクッキーを出品しよう♪」
今アリスは張り切って母屋の業務用のガスオーブンを温めて温度を確認していた
この大きなオーブンはアリスの実家と違い、天板が二枚も入れられてこのオーブンなら一度に大量にクッキーが焼ける
直哉と北斗からプロパンガスの使い方を習ったので、もう失敗はしない
アリスはオンラインショッピングで、とてもおしゃれなラッピング袋を購入した。これに2枚づつクッキーを入れたら、とっても素敵になるだろう
今日は張り切って沢山焼くつもりだ
せっせと生地を計ってこね回す。こねてメン棒で広げて型を取ってまたこねる。一連の作業を一生懸命繰り返した
アリスは出来上がったクッキーを、大きなバッドに一枚ずつ丁寧に並べていた
集中するあまり、初めは玄関で誰かが、ドアを叩く音も耳に入らなかった、やがて乱暴にドアをドンドン叩く音が鳴り響いた
「おーい!北斗いないのかよ!ナオでもいいぞ!さっさと出てこい!凍えちまうだろ 」
誰かが母屋に来たみたいだ
「あっ!はーい今すぐに 」
アリスはエプロンをさっと脱いで、大急ぎで玄関に向かった
立っていたのは、アリスが見たことがない、あばた面にゴマ塩頭の小太りの男だった
「遅いじゃないか!よっぽど窓から入ろうと思ったぞ」
いきなり怒鳴られてびっくりした、見たことが無い人だったけれどこの男のどこか馴れ馴れしさについ北斗の知り合いかもと思った、アリスは一歩体を引いて言った
「す・・・すいませんどうぞお入りになって!北斗さんにご用?それともナオ君?」
そう言いながらアリスはリビングの無線機に手を伸ばした。この無線機で呼び出すと牧場中の従業員に全員に聞こえる
しかし振り返ると、男はこんな広いリビングにもかかわらず、アリスのぴったり真後ろにいた
アリスの全身をジロジロ舐め回すように見ている。男はニヤリと笑った
「・・・ちょっと北斗に仕事の用があって来たんだがね・・・まぁ・・急ぐことはないさ・・・あんた・・・北斗の嫁さんかい?」
なんだか低い声も言葉も普通じゃない、そしてリビングをぐるりと見まわす
「・・・今はお前さんだけかい?他に誰もいないのか?」
アリスはなんだかぞくりとした。こんなにじっと見つめられて明らかにおかしい
その時一番初めにこの牧場にやって来た時に、北斗に言われたことを思い出した
渡りの労働者もここを出入りしていると、そしてそんな連中は荒っぽいと・・・
アリスはパニックに襲われた
北斗に守られ過ぎてて気が緩み、うっかり誰かも確認せずに見知らぬ男を中へ入れてしまった
アリスは大きく息を吸い込んだ、そして威厳を持って男に言った
「すいませんがあなたどなた?北斗さんとどういう関係?」
しかしその威厳はあまりに弱々しかった
男はにやりと狡猾な笑みを浮かべた
「なぁに!怪しい者じゃないさ、北斗の高校の時の同級生だよ種馬の件でアイツに話しをしに来たんだ。知ってるかい?種馬だよ・・・種馬 」
ぐふふふと笑みを浮かべながら男が近づいてきた
「近づかないで!」
アリスは咄嗟に男から離れようと後ずさった
「そんなにビクビクすることないだろう?」
男がアリスににじり寄った
「頬にチョコがついてるぜ、俺がとってやるよ 」
「やめて!私に触らないで!」
男はさも楽しそうに言う
「おいおい、こっちは親切心で言ってるんだ、ぷるぷるの唇してるなぁ~ 」
男の太い指がアリスの頬を触ろうとした
「下がりなさい!! 」
アリスは歯をガチガチ鳴らしながら、それでも威厳を保とうとしたが、とうとう怖くなって玄関にへ走った
「なんだぁ~追いかけっこかぁ、俺は容赦しないぜ」
「北斗さん!北斗さん!助けて!!」
とうとう玄関口で男に追いつかれて、アリスは髪の毛をぐいっと掴まれた
「キャぁ!!」
「へへへっ!観念しな」
その時目の前で勢いよくドアが開き、北斗が現れた
「正!!何やっている!!」
瞳は怒りに燃え、アリスの髪の毛を掴んでいる正の右顔面を殴りとばした
途端に正がアリスの髪を離し玄関に崩れ落ちた。北斗は正の胸ぐらをつかんで立たせ、玄関から外に放り出した
「正!!」
「ほ・・・北斗・・・俺は何もしちゃいない・・・・そのバカ女が勝手に騒ぎ出したんだ 」
正があたふたと北斗に懇願する、北斗と正がじっと見つめ合った、その光景をアリスがハラハラしながら眺めていた
「ほ・・・北斗ぉ~長い付き合いだろ?信じてくれ、その女が俺を屋敷に連れ込んで― 」
正の言い訳を聞く間もなく、北斗が納屋に入っていくと、右手に真剣を掴んで出て来た
キャーッ!
「北斗さんっっ!!」
アリスが思わず叫んだ
長い真剣のサオを抜いてポイっと地面に捨てる。陽の光を受けて光る刀を掲げて、ズカズカと迫ってくる北斗は、まるで悪夢を見ているようだ
「正!そこに直れなおれ!」
腰を抜かしている正に長剣を掲げて、切っ先を胸に押し付ける