テラーノベル
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320
甘泉めあʚめめあ・めあちɞ
175
羽海汐遠
10,439
#創作
こと-koto
89
ドン
「ほらよっ。これでいいか?」
フィニスが持ってきた袋がヴェスパの目の前のテーブルの上に置かれる。
ガサゴソと袋の中身を確認するヴェスパ。
「ふむ……薬草にミカヅキダケ。それにラバーシードの種……よし。これだけあれば大丈夫だろ。お疲れさん。報酬は依頼主に渡した後になるから、少し待っててくれ」
袋の口を再び縛り、隣にいる男に袋を渡した。
「それって薬の材料よね?最近この素材の調達依頼多くない?」
「よく知ってるな」
「ニティアは薬作って、街に売りにいってたりしてたからな」
「なるほど、お前らがこの手の調達スピードが速いのはそういうわけか」
そう言いながらヴェスパはくすりと笑った。
「そうだ、この間ギルドマスター間での報告会があったんだが……少し時間いいか?」
「ん?大丈夫だけど」
「魔物の消滅時に発生する炎の色の件だ」
ヴェスパがそう口にした瞬間、ニティアとフィニスの表情が変わった。
「これは特に王国ギルドの方からの報告なんだがな。ここ最近は黒炎ではなく、白い炎を纏って消滅する個体が激増しているらしい」
「白い炎……」
「全く黒炎が発生していない……と言うわけではないらしいがな。そしてこれは魔法ギルドの方からの報告なんだが……やはり、ここしばらく黒い魔女の出現報告も魔力による探知もないらしい」
「やっぱりギースが言っていた通りノクスはもう……?」
「可能性が高そうだな」
顔を合わせるニティアとフィニス。
「それと最後に……」
眉間に皺を寄せたヴェスパが怪訝な顔で2人を見つめた。
「黒い魔女とは明らかに違う……高い魔力反応が感知される事があるとの事だ……」
「ノクスじゃない……高い魔力反応……」
「白い魔女……か?」
「そこまでは分からん。ただ……この魔力反応は十数年前に一度感知されてからはしばらく反応が無かったのが……ここ最近反応が増えて来ているらしい。まぁ、一瞬だったりするから誤反応の可能性もなくはないが……一応知らせておこうと思ってな」
十数年前……その言葉に一瞬フィニスの眉毛がピクリと動いた。その様子を見ていたニティアは、そこには触れず、ヴェスパに視線を移す。
「ヴェスパさん。今日はこれから図書館に行ってもいいですか?」
「あぁ。今日の依頼はあれで終わりだから問題ない」
その言葉を聞いてふっと笑うフィニス。
「そんじゃ図書館に行って、うちらもちと調べてくるか」
「うん」
そう言い、部屋を後にする2人。その2人の背中を見送りながらヴェスパがボソッと呟いた。
「何もなければいいがな……」
⸻
「ジャヌスさんが言っていた通り、昔は灰色や紅色の炎で魔物が消えていたみたい」
「碧色に灰色……紅色からの……黒か……」
資料をペラペラと捲りながら、魔女や魔物について調べている2人。数ある文献の中から目に留まったものを片っ端から読み始める。
魔法や術式の研究などで魔導書を読んでいるニティアにとっては造作もないことではあるが……普段全く本を読まないフィニスの集中力はほぼ切れかけていた。
この本を読んで少し休憩をしようと何気なく手に取った書籍。そこには、正式な記録としては登録されていない魔女や魔物についての噂。そして、真偽不明の情報などが記載されている手記であった。
軽く流し読みをしていたフィニスが、とあるページで手を止めた。
“○○年○月○日 深夜に見られたら謎の魔法陣について?”
「!!」
“この日の深夜、麓の村人が家畜達が騒がしいので外に出てみると、西の山奥の方で白く輝く巨大な白い魔法陣らしきものを見たとのこと。後日、魔法陣が現れたであろう付近のマハノ村が壊滅している。
後日、たまたまその近くにいたジャヌス様が話を聞き、現地を訪れるもすでに村は壊滅。生存者は1人の子供。壊滅した村からは微かに、黒い魔女ノクスの魔力を感じたとのことから、黒い魔女による村の襲撃があったと推定される。
その後再び村人から話を聞くも、話に聞く限りはかなり巨大な魔法陣のようだ。しかし、そのような巨大な魔法陣は、かつて黒い魔女と死闘を繰り広げたジャヌス様からしても考えられないとのこと。この件については見間違い、または誇張報告であるとし、公式な記録とは認められなかったため、ここに記しておくことにする。”
「……」
真剣な表情で手記を見ているフィニス。ちょうどその記事を読み終えると同時に、ニティアが小さな声を上げた。
「ねぇフィニス。これ」
フィニスが指差したページ。そこには、魔女と魔物達の消滅時に発生する炎について記された箇所であった。
“魔女の色について。魔女の色は、魔女そのものの雰囲気や使用する魔法の色。そしてその魔女が出現した際、魔物達の消滅する際に発する炎の色から魔女の色がつけられている。
魔女が討伐されると、魔物の数も減っていく。そして数百年の時を経て、再び魔女が現れると同時に、魔物達の出現が増えていく。
その時に魔物達は、かつての炎の色で消滅することは無く。また新しい色の炎で消滅していく。
魔女が先なのか……魔物が先なのかは……現在その真偽は不明である。”
フィニスが指でなぞりながら文章を読んでいると、ニティアが小さく呟いた。
「その下」
“○○年○月○日 白い炎?”
そこに記されていた日付は先程フィニスが読んだ記事の日付の数日後だった。
“荷馬車の護衛をしていた冒険者より、マハノ村付近で討伐した植物型の魔物が、白い炎を纏って消滅したとの報告が上がる。
しかし、その冒険者が酒を飲んでいたことや、未だに黒い炎で消滅する魔物がいることから、ただの見間違いだと思われる”
「これが初めて確認された白い炎みたい……」
隣で呟くニティア。フィニスはゆっくりと本を閉じた。
「多分本当のことだ……俺もあっちで気になる記事を読んだ。恐らくだが、このタイミングで白い魔女が現れたんだろうな」
「でも……なんで黒炎の魔族もいるんだろう?今までは魔女と同色の炎で消える魔物しか現れてなかったみたいなのに……」
「そこまでは……さすがに分からねぇな……」
そう言いながらフィニスは目を瞑る。
脳裏に浮かぶのはあの日の光景。
焼け焦げた村
瓦礫に身体が挟まれて動けない幼い自分
そして目の前には
白い髪の魔女……
突如吹き荒れた全身を突き刺すような冷たい風
幼いフィニスはそのまま意識を失っていった……
コメント
1件
おお、第47話「記録と記憶」、読ませてもらいましたよ。今回は情報がどんどん積み重なって、物語の背景が見えてくる感じがしてめっちゃ面白かったです。特にフィニスが手記で見つけた、十数年前の白い魔法陣と村の壊滅、そして生存者が1人の子どもだけだったってところ……これがフィニス自身のことだってすぐに分かっちゃいました。ラストの白い髪の魔女のフラッシュバックも重なるし、白い魔女とフィニスの因縁が一気に現実味を帯びてきましたね。資料を漁る2人のやり取りも自然で、このじわじわくる展開が好きです。また続きが気になる!