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ち び
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どうしていいのかわからずに俯く僕の顎を、はやちゃんの手のひらがそっとすくい上げた。
僕を包み込むその手は、いつだって温かかった。
だけど、そこに込められた一人の男としての熱量に触れた瞬間、心臓が冷たく凍りついた。
僕はただただ、自分の愚かさと絶望に押し潰されそうになっていた。
あの暗闇から救い出してくれたその日から、彼は僕にとって絶対的なヒーローだった。
怯える僕を怖がらせないようにと、はやちゃんは自分の想いを完璧に隠し、「優しいお兄ちゃん」のフリをして寄り添い続けてくれていたのだ。
僕の壊れた心を一から繋ぎ止めるために、あの人は自分の時間をすべて僕に割いてくれた。
僕はその底無しの優しさにただ甘えきって、本当のお兄ちゃんだと信じて、大好きだから何でも話した。
大好きだから、しゅんのことも無意識にたくさん話してしまっていた。
誰にも口にできなかった過去を初めて受け止めてくれた人。
そんなしゅんへの恋心を、僕は無邪気な弟の顔をして、嬉々としてはやちゃんに報告していたのだ。
それが、どれほどあの人の心をズタズタに引き裂いていたとも知らずに。
自分の言葉が大好きなはやちゃんの胸に何度もナイフを突き立て続けていた。
それを今になって突きつけられて、激しい後悔が押し寄せる。
一番近くで一番残酷に彼を傷つけ続けていたのは、他ならぬ僕だ。
「……はや、ちゃん」
震える声でその名前を呼ぶ。
はやちゃんの引き結ばれた唇が、僕の想いを察したようにわずかに震えた。
「ごめん……。ごめんなさい……っ」
大粒の涙が溢れ、はやちゃんの指を濡らして床へと落ちていく。
僕の謝罪を聞いたはやちゃんの瞳が、一瞬だけ、張り裂けそうなほどに揺れた。
だけど、次の瞬間だった。
はやちゃんはあの日からずっと僕を守り続けてくれた、あの「優しいお兄ちゃん」の顔へと戻ったんだ。
無理をして、何でもないふりをして、僕の顎からゆっくりと、名残惜しそうに手を離す。
『……そっかぁ。……そっか、よかった』
はやちゃんは寂しそうに、でも心から愛おしそうに細められた目で僕を見て優しく微笑んだ。
『柔太朗がさ、やっとそこまで過去を吹っ切れたんだなって、俺、本当に嬉しいよ。しゅんってさ、きっとすっげぇ良い男なんだな。お前がそこまで好きになれる相手に出会えて、本当によかったわ』
はやちゃんはいつも”俺の幸せは、柔太朗が幸せでいてくれること”だと言っていた。
だから彼はこの瞬間でさえ自分の気持ちを押し殺して、僕が新しい恋を見つけたことを優しく笑ってくれている。
その圧倒的な優しさが、今の僕にはどんな刃物よりも鋭く突き刺さる。
「はやちゃんの気持ち、何も知らなくて……ずっと傷つけることばっかり言って……本当に、ごめんなさい……っ」
泣きじゃくる僕に、はやちゃんはいつもと変わらない動作で手を伸ばした。
『謝んなよ。俺が勝手に隠してただけだから』
そう言ってぽんぽん、と僕の頭を優しく触れるはやちゃんの手。
その手のひらの温かさが、僕が犯した罪の深さと、彼が最後まで守り抜こうとしてくれた愛のすべてだった。
to be continued…
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