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私は水の魔女。今日も各地を旅していた。山を越え谷を越え、雑木林に入ると、ところどころ木々が枯れ始めている。
しばらく進むと、どこからか声をかけられた。
???「ねぇ、あなたって魔女?」
振り向くと、大きな木の上に建つ家から、私と同じくらいの年の頃の魔女がこちらを見ていた。
水の魔女「ええ、そうですけど」
香草の魔女「ちょっと手伝ってくれない? 見て通りの有様で、このあたりの植物が枯れ始めているの。
新しい芽が死なないように私の魔法で守ってはいるんだけど、私は水の魔法が使えなくて困っていたところなのよ。
あなた、水の魔女でしょう?」
水の魔女「なぜ、それを?」
香草の魔女「この前手伝ってくれた子がね、『あなたよりも適任な人が通りかかるはずだ』って言っていたの。
それで、偶然あなたを見かけたから声をかけたってわけ」
なるほど、先をゆく知人がいたらしい。
確かに私は水の魔法を得意としている。
水の魔女「そうでしたか。ですが、あなたはどなたです?」
香草の魔女「ごめんごめん、私は香草の魔女のエリカ。
お願い、この地に雨を降らせてほしいの」
水の魔女「……いいですよ。
ですが、天候を変えるほどの魔法は魔力を激しく消費します。
それに、いくつか必要な薬草があるのですが」
香草の魔女「分かったわ、何でも言って。とりあえず中に入って」
彼女に促され、私はツリーハウスへ足を踏み入れた。
カランカランと軽快な音を立ててドアを開ける。
家の中は、生活感が無かった。
香草の魔女「ようこそ、私の家へ。
狭くてごめんね、とりあえず座って」
エリカは机に地図を広げた。
香草の魔女「だいたいこの範囲に雨を降らせて欲しいんだ」
水の魔女「分かりました。
では、甘露(かんろ)、オモダカ、サイカチ、サカキ。
それと、あなたの魔力を少し貸してください」
香草の魔女「ええ、これくらいで足りるかしら」
彼女が差し出した植物の質は十分だった。
水の魔女「助かります。
あ、それから釜を貸していただいてもいいですか?」
香草の魔女「いいわよ、これを使って」
私たちは外へ出た。太陽が激しく照りつけるその地に、再び足を下ろす。
まず、釜に刻んだ植物と水を入れ、じっくりと混ぜ合わせる。
水の魔女「エリカさん、私の手の上に、手を重ねてくれますか?」
香草の魔女「ええ、いくわよ」
私が呪文を唱え始めると、足元に水色に輝く魔法陣が浮かびあがった。
釜の中の水が、まるで泡のようにキラキラと天へと昇っていく。
呪文の終わりとともに、空からサアァ……と透き通った晴天の雨が降り出した。
香草の魔女「待ちに待った雨だわ!」
水の魔女「お疲れ様でした」
魔法の雨が降り注ぐと、枯れかけていた花や木々がみるみるうちに活力を取り戻していく。
雨に濡れる森を眺めていた私がエリカの方を振り向くと、彼女は静かに手を合わせていた。
香草の魔女「……このお墓はね、私の恋人のものなの。彼はこの森が大好きだった。よく、この先にある花畑に遊びに行ったわ。
でも、彼は急な病で倒れてしまった。私の薬草でも、どうしても治せなかった……。
ありがとう。あなたのおかげで、彼との思い出の森を守れたわ」
そう告げたエリカの身体が、温かい光に包まれて透き通っていく。
消えゆく彼女に、私はそっと声をかけた。
水の魔女「無事に、彼に会えるといいですね」
香草の魔女「ええ……」
それが最後の言葉だった。彼女は光とともに天へと昇っていった。
ふと気づくと、そこにあったはずのツリーハウスは、もともと何もなかったかのように消え去っていた。
私は涙を拭い、そこへエリカのための墓を立てた。
彼女が言っていた花畑から摘んできた花を添え、静かに手を合わせる。
再び、あの二人が巡り会えるようにと祈りを込めて。
あの時、エリカさんが見せた晴れやかな笑顔を、私は一生忘れない。
彼女の植物の魔法と、私の水の魔法が混ざり合い空へ昇っていったあの瞬間、きっと彼女の魂は自由になれたのだと思う。
今頃、あのお花畑で彼と再会できているだろうか。
私の旅はまだ続くけれど、雨が降るたびに、私は彼女の優しい声を思い出すだろう。