「津炎、座って食え」
なんとなくだが、津炎を抱え、椅子に座らせた。
こんなふうに世話を焼くのも、いつ振りだろうか。
主炎は弟のくせに俺より兄貴してるな。昔兄さんにそんな事を言われたのを不意に思い出してしまった。
津炎は俺の仕草に驚いたような表情をしていたが、何も言わなかった。
されるがままの傀儡人形のようだ。
自分でも眉間にシワが寄るのがわかる。
こいつは、今まで自分の意志を殺して生きてきたのだろうか…?そんな考えが脳裏を過ぎる。
だが、初めて会った不可侵条約を結んだ日も、今日、迎えに行った時も、津炎はこんなふうではなかった。
何処と無く、強くて気高く、誰も近寄らせず、大切な人を必死こいで護ってる。そんな雰囲気をまとっていたようにも思える。
だが今の津炎はどうだ?
そんな雰囲気なんて一切無い。自分自身も守れそうにない。
もし、過去の津炎のあの言動が、作り物なのだとしたら?
そんな事を考えていたら頭が痛くなりそうだった。
俺がそんなふうに困っているなんていざ知らず。津炎は美味そうに麦パンを頬張っている。
思わずため息が出そうだった。だが、誰かの食事をこんなにも落ち着いて見たのはいつ振りだろうか。
主も俺も、最近は仕事に追われ、仕事をしながらの食事なんて日常茶飯事で、俺なんかまともに食べない事なんてざらにある。
そんな下らない事ばかり考えていると、ふと、昼飯を抜いている事を思い出した。
意識してしまえばもう遅い。段々腹が減ってきた。別に食べなくとも生きれるが、腹は減る。実に面倒極まりない。
腹が減っては仕方が無い。キッチンに行って何か簡単に作ろう。主もどうせ何も食べていないだろうし、ついでに持って行ってやらないと…。
「津炎、食べ終わったら食器はそこに置いとけ」
軽く指示だけ出して、俺は部屋を出て鍵を閉める。
戸締まりをしなければ何かあってからでは遅いだろうからな。
そんな事を無理矢理考えて、なんとか空腹を紛らわす。
考えれば考える程腹が減って、腹の虫が鳴きそうだった。