目が覚めると、ピンク色の空とお菓子の山がどこまでも続く奇妙な空間に一人で立っていた。
空はまるでピンク色のチョコレートで塗りたくったかのような色。
そしてイチゴとブルーベリーが乗った白いショートケーキの山が続いてる。
まるで遊園地のアトラクションのような、現実感のないメルヘンな空間だ。
そして私の目の前には、イーゼルに乗せられた大きな絵が何枚も飾られていた。
(これ、私、だよね?)
黒髪にツーサイドテールの髪型。やや吊り目がちな瞳。
その絵はアニメや漫画のように大きくデフォルメされていたけど、私の事を描いたものだとすぐに気付いた。
どの絵も女の子らしいメルヘンチックな画風でありながら、どこか不気味な雰囲気を感じさせる絵だ。
(あの子の絵は全部こんな感じだったな)
昔に比べれば上達してたけど、それでも彼女の画風だとすぐに分かる。
「……これ、カンナの絵」
「どうして?」
「ひっ……!」
背後から冷たい声をかけられ、私は振り返る。
小柄で白い髪の毛に白い肌。そして闇の様にどす黒いドレスに身を包んだ女の子。
不機嫌そうな青い目が私をにらんでる。
「カンナ? カンナだよね?」
「どうしてカンナを忘れようとしているの?」
カンナは答えず、反対に私に尋ね返してくる。
「美雪ちゃんはカンナが好きなんでしょ?」
「うっ……!」
彼女の声が耳に入ってきたとたん、
私の脳裏にカンナの死の光景が鮮明に蘇った。
今から一年前。
カンナは私の目の前で自殺した。
その日、珍しいことにカンナは私の事を自宅に招き入れた。
カンナはどんな理由があっても、事を自分の家に入れたがらなかった。
しかしその日だけはカンナから「お家に来てほしい」と言われたのだ。
はじめてカンナのお家に遊びに行ける。そう考えただけで私はドキドキしてしまった。
だけどそんな私の気持ちは一瞬で凍り付いた。
カンナの家には二人の死体が転がっていた。カンナの両親だった。
カンナは平然とした態度でその死体を見下ろしていた。
そんなカンナが恐ろしくなって、私はその場にへたり込んでしまった。
カンナは、不気味な形状をした黄金の剣を手にしていた。
その剣には血がベッタリと付着していた。
カンナがこの時なにを言っていたのか、私は覚えていない。
それはお別れの言葉だったのだろうか?
カンナは、その剣で自分の心臓を貫き、そのまま死んだのだ。
「だってカンナは死んだじゃない! 私の目の前で! もう忘れたいの!」
「ダメ」
目の前にいるカンナは一切動じない。
「そんなのは絶対に許さない」
カンナはおもむろに両手を空に向かってかかげる。
すると、空間に裂け目が生じ、そこからまるで絵の具のようにドロドロとした液体が漏れ始めた。
その液体は濁流になって、カンナと私の身体を包み込む。
「なにこれ!? いやぁ!」
逃げるいとまもなく、美雪の身体は真っ黒な液体に飲み込まれる。
身体が液体に飲み込まれ、息が止まる。
(溺れる!? 私、このまま死ぬの!?)
ふとカンナの方を見る。
真っ黒な絵の具の中にいるというのに、彼女の姿だけはなぜかよく見えた。
彼女の身体は知らないうちに何か紅く光る樹のようなものに包まれていた。
それが消え去ると、そこから現れたカンナの姿は一変していた。
肌と瞳が、まるでインクで塗りたくったかのように真っ黒に染まっていた。
そして眉間には、存在するはずがない三つ目の目が現れている。
それがかろうじて彼女であるとわかったのは、その目の前の怪物が、カンナのドレスを着てて、白い髪の毛だったから。
「さぁ、来て」
カンナの手が私の顔を覆う。
「いっしょに遊ぼう♪」
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