テラーノベル
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翌日――。
戦闘訓練の時間がやってきた。
今回のテーマは、ナイフを持った犯人への対応。
公太の対戦相手は、太田という小柄で温厚そうな隊員だった。
(今度こそ、結果を出してみせる……!)
強い気合いとともに開始の合図が鳴る。
公太は地面を蹴り、一気に距離を詰めた。
訓練用ナイフを振るい、勢いのまま太田の腕へ打撃を与える。
しかし――
「ぐっ……!」
太田が顔を歪めた。
公太はハッと我に返る。
「や、やべっ! 太田、大丈夫か!?」
慌てて駆け寄る公太。
太田は痛みに耐えながらも苦笑した。
「大丈夫だよ、武藤君。……それに、思った以上に動きが鋭いな」
「……悪い。本気になりすぎた」
申し訳なさそうに頭を下げる公太。
その様子を、昨日公太を馬鹿にしていた隊員たちが遠くから見ていた。
「おいおい、今度は訓練相手をケガさせたのかよ」
「やっぱ武藤ってトラブルメーカーだな」
陰口が耳に届く。
公太の拳がわずかに震える。
だが――
(違う……今は耐えるんだ)
ゆっくりと息を吐く。
怒りを飲み込み、自分を抑え込む。
(俺は変わるって決めたんだ)
その横顔には、ほんの少しだが確かな成長が見え始めていた。
◇ ◇ ◇
ORVAS本部――。
畑中は静かに口を開いた。
「公太をアスガルトへ送った。あいつには特別訓練が必要だったからな」
「公太が……あの訓練を?」
唯我が珍しく驚いた表情を見せる。
一祟は穏やかに微笑んだ。
「きっと公太さんなら乗り越えられます」
ジュリーは少し不安そうな顔をする。
「でも、あの子また問題起こしてないかしら?」
「俺もそこは心配だな」
唯我が苦笑する。
だが一祟は静かに首を横へ振った。
「試練の中で、大切な何かに気づくはずです」
畑中は窓の外へ視線を向ける。
「今回の訓練は強くするためじゃない」
その言葉に二人は顔を上げた。
「あいつ自身に足りないものを知るための訓練だ」
夕陽が畑中の横顔を照らす。
「それに気づけた時、公太は変わる。お前たちと肩を並べて戦える、本物になる」
唯我と一祟は静かに頷いた。
◇ ◇ ◇
その日の夕方。
解散後の帰り道。
唯我がふと口を開く。
「なあ、一祟」
「はい?」
「少し手合わせしないか」
一祟は目を丸くした後、柔らかく微笑んだ。
「良いですね。僕も前から興味がありました」
二人はそのまま一祟の寺へ向かった。
本堂裏の庭。
風が木々を揺らし、落ち葉が静かに舞う。
唯我は腰の剣を外した。
「今日は素手でいこう」
「承知しました」
互いに構える。
静寂。
そして――
唯我が先に動いた。
鋭い回し蹴りが風を切る。
しかし一祟は最小限の動きで受け流し、肘打ちを返す。
唯我は後方へ跳び距離を取った。
「さすがだな」
「唯我さんこそ」
短い言葉を交わす。
再び間合いが縮まる。
拳と拳。
蹴りと掌。
互いの技がぶつかり合う。
その最中、唯我が不満そうに口を開いた。
「……なあ」
「なんでしょう?」
「本気出してないだろ」
一祟は少しだけ目を細めた。
「そんなことはありません」
だが唯我は首を振る。
「手加減されるのは好きじゃない」
沈黙。
風が吹く。
やがて一祟は静かに構え直した。
その気配が僅かに変わる。
「……分かりました」
柔らかな笑みが消える。
代わりに宿ったのは、静かな闘志。
「それでは――少しだけ、本気で参りましょう」
その瞬間。
唯我の瞳が鋭く細められた。
次の一手で、この戦いの空気が変わる。
そんな予感が、庭全体を包み込んでいた――。
#憑依
成瀬りん
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コメント
1件
うわ、一祟がついに本気になる……! ここまで抑えてたのがむしろ不気味で、手加減を指摘されて空気が変わった瞬間の緊張感がすごく好きです。あと公太の「耐える」選択、怒りに任せてた頃と違う成長が感じられてじんときました。畑中の言葉にも重みがあって、この物語の構造の丁寧さに毎回引き込まれます。次が待ち遠しいです!