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【彼女が拗ねたら】
台本を抱えて集中している亮くん。
その横顔は、やっぱり俳優の顔で、少しだけ遠く感じる。
「亮くん…」と小さく呼んでも、「んー…あとちょっと」とだけ。
それが三回も続くと、私の中の構ってほしいメーターは限界を迎えた。
ぷいっと背を向け、毛布を頭までかぶる。
すると、すぐに背中にぬくもりが押し寄せてきた。
「…あれ、怒った?」
「怒ってないもん」
「ほんとに?」
耳元に唇が近づき、そっとキスを落とされる。
「…っ、やめ…」と言いかけた言葉は、熱くて甘い体温に溶けた。
「もう仕事終わった。だから、これからはずっと〇〇の番」
まっすぐに見つめられ、思わず笑ってしまう。
「最初からそうしてくれればいいのに」
「…ごめん、でも〇〇がすねてる顔、可愛いんだよ」
抱きしめられたまま、すねる余裕なんて消えてしまった。
亮くんは私を抱きしめたまま、ソファに座り直した。
片腕はしっかりと私の背中を支え、もう片方の手は髪を優しく撫でる。
「…さっきまで台本見てた人とは思えない」
思わずそう呟くと、亮くんは肩をすくめた。
「俺、オンとオフは切り替えるタイプだから。…今はオフ。完全に〇〇モード」
耳まで熱くなるような直球。
「…そんなこと言ったら、もっと離れられなくなるよ」
「それ、狙ってる」
そう言って唇を頬に押し当てられる。軽く触れるだけなのに、心臓は忙しく跳ねた。
「…今日、予定あった?」
「ううん」
「じゃあさ、このまま一日中くっついててもいい?」
そんなの、断れるはずがない。
ただ小さく頷くと、亮くんは満足そうに笑い、毛布を私ごと包み込んだ。
「〇〇が笑うまで離さないから」
まるで台詞みたいな甘い声。
けれどこれは、ドラマでも映画でもなく、私だけが知っている“吉沢亮”の素顔だった。
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